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【官能小説】特別な関係【5】

前回のお話

※注意※

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 一階にある和室へ七海を運び、畳に寝かせた。その後、彩子から朱色の麻縄を渡され、仕方なく七海の両腕を後手で縛った。これだけでも十分だと藤井は主張したが、いつになく冷徹な彩子に言いくるめられ、結局後手に縛った縄の余りで胸も縛ることになった。
 やりきれない思いを抱きながら、薄いTシャツ一枚隔てた七海の軀を藤井は縛っていった。胸の上下に縄を通し、抜けないように縄をさらに通す。縄を迎えに行くたびに、指先へやわい体の感触が伝わった。邪な誘惑を払いのけながら縛ると、彩子から追加の命令が下った。

「脚も縛りなさい」
「えっ」
「聞こえなかったの? 脚も縛れといったのよ」

 意見したい気持ちはあった。しかし並々ならぬ彼女の復讐心を知った今となっては、ただ七海を傷つけないために従うしかなかった。
 骨盤へ沿うように縄を一周させ、両脚を閉じた状態で縛っていく。途中、いつもの癖で縄をグイッと引っ張り骨盤へ食いこませると、「うっ……」という喘ぎを七海があげた。

「その程度の快感じゃ起きないわよ。ほら、いつまで手を止めているの。早く縛りなさい。それが終わったら、口にも縄を噛ませて」
「そこまでする必要があるのか」
「ショックで舌をかみ切るかもしれないでしょ。一応の保険よ。それに」

 いいながら、彩子が胸を当ててきた。やわい感触に、つい溺れそうになった。

「口をふさがれた女の子の呻き声、好きでしょ?」

 囁くように耳元でいわれた。甘い吐息交じりの声で鼓膜を刺激され、思わず背中を仰け反らせてしまった。
 下半身へ血液が巡っていく。穿いているズボンを突き破る勢いで、肉棒が膨張した。

「ぐずぐずしていると、本当に起きちゃうわよ」

 いまにも爆発しそうな性欲を、下唇を噛みながら我慢して藤井は再び手を動かした。
 ようやく脚を縛り終えると、藤井は静かに立ち上がった。見下ろすように、全身を縛られた七海を眺めた。その姿に、思わず深いため息が出た。
 朱色の麻縄が淫らに彼女の軀を装飾していた。胸を縛る縄が、普段見ることのないふくらみを強調するかのように、淫靡な主張している。脚に巻かれた縄からは、彼女の自由を奪ったという思念のようなものが感じられた。
 芸術といってもいい出来に見とれていると、彩子が短めの麻縄を取り出して渡してきた。

「さ、これで早く口も閉じちゃいなさい。起きてからだと面倒だから」

 逆らえない藤井は彼女の手から麻縄を取り、七海の半開きになった口にあてがった。縄に巻き込まれないよう、彼女の薄い唇を少しだけめくった。ずっと触って痛くなるほどのやわらかい唇に、思わず可愛げを感じてしまった。沢山キスをしたその唇を、今すぐ貪りたくなった。
 その時、七海の身体が小さく動いた。

「む、んむ?」

 苦しそうな声が聞こえると、七海が身体をモジモジと動かし始めた。全身を縛られているせいで、その動きはまるで芋虫のようだった。
 驚いた藤井は、おもわず縄から手を離してしまった。はらりと床に落ちた朱色の麻縄が、寝起きの七海をいやらしく魅せた。

「ふじ……せんぱ……」

 焦点が定まっていないのか、寝ぼけた目を向けて七海がいった。まだ完全に意識が回復していないせいか、喋る言葉はすべて片言だった。

「あ、れ。 ここ……は? くるま……じゃない? あれ、うで……。あれ? え? え?」

 自分の置かれた状況に焦りを感じ始めたのか、小さな軀でもじもじと動いている。手足の自由を完全に奪われた七海を見て、藤井は無意識に欲情してしまった。
 そのうちに意識も鮮明になってきた七海が、しっかりとした言葉でしゃべり始めた。

「ちょっと、先輩。ここ、どこすか。てか、これなんなんすか。はやく解いてくださいよ」

 縄をほどいてやりたい気持ちはもちろんあったが、彼は見ていることしかできなかった。後ろを振り向かなくても感じる圧に、彼は気圧されていた。
 後ろから肩を叩かれた。振り向くと、文字通り見下した目をした彩子が立っていた。彼女の目線は真っ直ぐに七海を捉えており、一ミリも動かなかった。
 押しのけるように彩子が前へ出た。七海も彼女の存在に気づいたのか、動きを止めて顔を上げていた。

「どうして……この女が」

 怪物でも見たかのような目で七海がいう。彩子はそれに返事をせず、サッカーボールを蹴る様な動きで七海のお腹を蹴った。すぐにドスッという重い音が聞こえた。

「ウッ!」

 腰を折りながら、七海が苦しみはじめた。思わずハッとなって、藤井は彩子に詰め寄った。

「おい彩子。何してる!」
「何? 私、悪いことでもした?」
「蹴る必要なんてないだろ」
「あるわよ。何食わぬ顔で生きている。理由はそれだけで充分だわ」

 平然と答えた彩子に、藤井は恐怖を感じた。いいたいことは山ほどあったが、それ以上、何も言い返すことができなかった。少しの罪悪感も抱いてない顔に、思わず震えが止まらなかった。
 諦めて七海を見ると、いまにも吐きそうな顔をしていた。必死で顔を歪めながら、どうにか耐えている。

「ふんっ。いい気味だわ」

 小馬鹿にするように、彩子が鼻を鳴らした。

「この子の意識も戻ったことだし、いい機会だわ。そこの鴨居に吊るしてちょうだい」

 感情のこもってない声で彩子がいった。拒否権など行使できない空気に嫌気が差した。それでも、従わざるを得なかった。
 未だ苦しみ悶える七海のそばに、藤井は膝をついた。

「大丈夫か」

 蹴られた腹をさすりながら小さい声でいうと、わずかに七海が頷いた。

「これは……どういう」
「悪い。全部俺の――」

「何をこそこそ話しているの」

 離し終える前に冷たい声が飛んできた。悪寒が走ったように身体が震えた。振り向くと、彩子が睨んでいた。

「何も、話してないよ」
「そうよね。そんな女と話すことなんて、何もないわよね。なら早く吊るしなさい」

 逆らうことができない藤井は、仕方なく七海を起こした。いま一度彼女の顔を見ると、先程よりも幾分かマシな顔つきをしていた。これなら大丈夫だろうと思い、彼女を抱くように立たせた。
 背中にある結び目の玉を少しだけ解き、新しい縄を継ぎ足して鴨居に掛けた。後ろに回り、鴨居から垂れ堕ちる縄を取ってテンションを張った。

「先輩。これは……一体どういうことなんすか」

 縄のテンションを調整している時に、七海が尋ねてきた。助けを乞うような悲痛な声に、藤井は何と答えればいいのかわからなかった。どうしようもない状況の中、ただひと言だけ「ごめん」と耳元でいった。
 指一本が入るか入らないかという絶妙な状態に吊るし上げると、途中で落ちないよう念入りに縄を固定した。最後の確認を終えて戻ろうとした時、後手に縛った七海の小さな手がパーに開いているのが見えた。そんな彼女の手を、藤井は親指を中に入れてそっと閉じてやった。刹那、乾いた音が綺麗な旋律となって鼓膜を刺激した。

「アウッ!」

 七海の体が大きく揺れた。何が起きたのか、全く把握できなかった。

「おはよう竹下さん。よく眠れたかしら。それとも、まだ眠気が覚めない? そういえば授業中もよく寝ていたわよね。何度注意しても無視するから、先生の間ではよく問題になっていたのよ。でも、今日は寝ちゃだめよ。ほら、もう一回叩いてあげるからちゃんと目を覚ましなさい」

 彩子の手が大きく振り上がる。しなやかな四指が隙間なく合わさり、勢いよく七海の頬へ放たれた。

「うっ!」
「どう? もう目が覚めたかしら。返事がないわね。まだ眠いの? 大丈夫よ。何回でも叩いてあげる。ほら、ほら!」
「あうっ! や、やめて。 きゃあ!」

 七海の悲鳴に似た声にハッとして、藤井はようやく動くことができた。振り上げられた彼女の手を押さえて、叩けないように抱きついた。すぐに二三歩後退して、七海との距離を取った。

「おい、やめろよ」
「どうして止めるのよ」
「手を挙げるのが目的なのか」
「当たり前よ。あの子に手を挙げなきゃ、何も始まらないわ」
「そんなことのために協力した覚えはないぞ」
「……。わかったわよ。ごめんなさい」

 彩子の腕から力が抜けた。天井に向けられていた指がゆっくりと体側に着くのを確認してから、藤井は身体を離した。

「藤井先輩。これはどういうことなんすか。ここはどこなんすか。なんで……なんでコイツがいるんすか」
「どういう状況なのか、見てわからないの?」
「あなたには訊いてません。私は藤井先輩に訊いているんです。黙っててください」

 キリッと睨みつけるような目で七海がいうと、すぐにその目が藤井に向いた。どう答えていいのか思いつかず、つい彩子を見てしまうと、吼えるような声が聞こえた。

「どこ見てるんだよ! 藤井! こっち向けよ! オイ!」

 鼓膜が破けそうなほどの甲高い声を上げながら、遂に七海がため口で喋った。七海が本気で怒っている何よりの証拠だ。

「うるさいわね、キーキーと。猿みたいに喋らないでもらえるかしら。耳が痛くなるわ。お願いだから、少し黙ってもらえる?」
「お前が黙れ! 早く藤井先輩から離れろ、この売女!」
「ッ! いったわね」

 言葉に表せない空気が部屋に流れた。彩子を見ると、眉間にシワを寄せて般若のような表情をしていた。そして静かに足を進め始めた。まずい思った藤井は、すぐに彩子を後ろから羽交い絞めにした。

「おい、七海。頼むから、少しの間だけ我慢してくれ」
「我慢ってなんだよ。何を我慢すればいいだよ。コイツに殴られるのを、黙って我慢しろっていうんか!」
「ええ、そうよ。黙って私に死ぬまで殴られていればいいのよ!」
「黙れ! 私が殴ってやる!」
「あはは! その状態でどうやって殴るつもりなのよ。やれるものならやってみなさいよ。ほら!」

 挑発するように彩子がいう。顔を真っ赤にした七海が、必死で身体を揺らしながら縄をほどこうとする。

「黙れえええ! ああああ!」
「そんな動きで全身の縄が解けるわけないでしょ。あなたはね、そこで私たちがセックスする姿を黙って見ていればいいのよ」
「ふざけんな! 誰がそんなことさせるもんか。お前がいままでやってきたこと、全部藤井先輩にバラすぞ!」
「ならあなたが私にしたこともバラすわよ。良介が知ったら、どう思うでしょうね」
「ッ! このクソ女が!」
「負け犬の遠吠えね。いい加減あなたと話すのも疲れたわ。ねえ良介、うるさいから早くあの子の口を塞いでやって」
「だまれ、このブス! 悪魔! 変態! お前なんかさっさと苦しんで死んでしまえばいいんだ! くっ。う、ううう! このエイ――!」

 藤井は、羽交い絞めにしていた彩子を離すと、七海の元に駆け寄り、すぐに彼女の口を手で塞いだ。

「むぐぐう! んぐうう!」

 何かを伝えようと必死で口を動かす七海だったが、何もいわせなかった。彼女の顎が動くたびに力ずくで押さえつけた。

「七海、いいすぎだ」

 そういうと、彼女の目の周りがゆっくりと赤くなった。
 悲し気な瞳で見つめられた。こんなにも悲しい表情をした七海を見るのは初めてだった。
 太陽のように明るい金髪の髪が、汗で束になり、何本も額に付いていた。そんな髪をやさしく掻き分けてやると、七海が目に涙を浮ばせた。

「見ているだけでいい。なんなら、目をつぶっていてもいい。終わったら、何でもわがまま聞いてやるから」

 力強く七海の瞼が閉じた。目尻から、ダムが崩壊したように涙が溢れ出てきた。その涙は一筋の川になって頬へと流れ出た。
 瞼が開くと、彼女の目は真っ赤になっていた。口を塞いでいた手を離すと、ペッと唾を飛ばされた。
 唾を拭いながら、藤井は足元に落ちていた麻縄を手に取った。巻結びで簡単な猿轡を作り、七海に咥えさせた。抵抗すると思ったが、すんなりと咥えてくれた。
 ずれないように縄を結んでいる時も、七海はまったく動かなかった。
 真っ赤になった目で、ただ見つめてくるだけだった。


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