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世界一のファストファッション?!SHEINの光と影【会計士の企業分析】

ご存知でしょうか。 
世界で一番大きなファストファッションブランドを。 

ZARA? 

いや、それは結構前の話ですねえ。違います。 


ユニクロ? 

確かにそんな時代もありました、でも、違います。 


『SHEIN(シーイン)』 

これが今、世界一のファストファッションです。 
時価総額なんと14兆円。 

Z世代と呼ばれる若い人たちや、ママさんたちは数年前からよ~くご存じかもしれませんが、 
僕ら世代(30代)以上の男性はほとんど知らないのではないでしょうか。 

「いやいや、俺はファッションブランドなんて知っておく必要ないよ」 
と言っているそこのおじさん!笑 

ちょっと待ってください。 
ビジネスパーソンならSHEINを知っておく必要があります。 

これから必ず、頻繁に耳にすることになります。 

急成長を支えているビジネスモデルはどうなっているのか。 
成長の裏にはどんな社会的なリスクが潜んでいるのか。 

知れば知るほど面白いSHEIN。 
その正体に迫ります!


SHEINとは

中国にはヘクトコーン企業が3社あります。
ヘクトコーンとは、時価総額が1,000億ドルを超える株式未上場企業のことです。

ちなみに、
よく聞く『ユニコーン企業』というのが、時価総額10億ドル以上&未上場企業のことで、
デカ(10倍)コーン→100億円
ヘクト(100倍)コーン→1,000億円
という法則です。

話を元に戻しますと、
中国にはヘクトコーン(日本円で15兆円)というバカでかい規模の会社が3社あります。
そのうち2社はかなり有名で、
TikTokを運営するバイトダンス(時価総額約45兆円)とアリババ傘下でAlipay(アリペイ)などを擁するアントグループ(時価総額約40兆円)です。

そして残る1社が、今回ご紹介する『SHEIN』です。

知らないよ!
という人、特に大人の男性は多いのではないでしょうか?
僕も正直、今年(2022年)はじめて知りました。

一体何をやっている会社かと言うと、
「中国発のファストファッションブランド」
です。

創業者は元エンジニアのクリス・シュー。
今ではフォーブスの長者番付にも載っています。
後ほど触れますが、創業者がエンジニア出身というのがこの会社のカギのひとつだと考えています。

圧倒的な認知度

さて、
先ほど大人の男性はあまり知らないと書きましたが、
逆に若い世代(Z世代)やママさんにはかなり知名度があります。
日本においてもです。

『JC(女子中学生)・JK(女子高生)流行語大賞』なるものが発表されておりまして、驚くべきことに、SHEINはアプリ部門で2021年は第3位。
2022年はなんと第1位に輝いています。

もうそんなレベル感で人気があったとは。

そしてアメリカではもっとすごいことになっています。
 
『好きなECサイトランキング』というものがあるのですが、1位は想像できますよね?

そうです、【Amazon】です。
これは分かりやすいですね。

では2位は何でしょう?

これまではずっと【NIKE(ナイキ)】がその座にいました。
しかひ2020年に潮目が変わります。

なんとSHEINがNIKEをおさえて第2位にランクインしたのです。

アメリカにおいても、やはりZ世代やママに人気のようです。
理由はやはり【価格】。
僕もECサイトを覗いてみましたが、1,000円未満のアイテムも多く、中には70円など100円を切るものもありました。

あれ?中国内の人気は?
これが中国ではあまり知られていないそうなんです。
この辺りは後ほど。

数字から見るSHEIN

さてここから、会計士らしく数字にも触れていきたいと思います。 

SHEINを知る上で重要になってくる数字を4つにまとめました。

一つ目の【14兆円】については冒頭でも記載した通り、SHEINの時価総額です。
時価総額とか大きな数字を言われてもよくわからないかもしれませんが、
実はこれ、とんでもないレベルなんです。

かつて、世界のファストファッションといえば『ZARA』でした。
もしろん今でもトップクラスの会社ですが、1強ではなくなります。
そう、我らが『UNIQLO』の影響です。

為替による影響はあるものの、2022年の執筆時点で、ZARAとUNIQLOの2社はともに時価総額約9兆円です。
両社とも超巨大企業に変わりありませんが、もうすでにSHEINに追い抜かれていることがわかります。

これは正直衝撃でした。

あのUNIQLOより大きいの?!
日本人男子からすると俄に信じがたい事実でした。


そして次なる重要数字【3兆円】。
これはSHEINの売上です。

14兆円を聞かされた後だからあまり衝撃はないかもしれません。
もちろん3兆円という大きさもポイントではありますが、もっと注目していただきたいのが【伸び率】です。

2019年から2020年にかけて、売上が3.5倍と急成長し、その後2021年、2022年も1.5倍を超えるペースで伸びています。
アパレルメーカーでこの伸びは異常です。

ビジネスモデル

さて、ここからは急成長を遂げ、売上3兆円、時価総額14兆円と、あり得ない数字を叩き出しているSHEINのビジネスの裏側に迫りたいと思います。

何故こんな成長が可能なのか。

マーケットは【世界】

まず触れておかないといけないのが、
SHEINが『越境EC』と呼ばれていることです。
先ほどの重要数値のうち、『30通貨』が深く関係します。

SHEINは中国南京で創業し、今も広州を生産拠点としていますが、お客さんは中国以外の【世界】を見ています。
そもそも国内ではなく世界を意識しているのです。

その結果、中国国内ではあまり認知度がない一方、アメリカや日本をはじめ、世界各国では爆発的な人気があります。
とりわけ、アメリカの売上は1/3を占めると言われています。

普通、中国でビジネスを始めたら14億人いる国内マーケットを狙うと思いますが、SHEINはそれよりもっと大きい【世界】という市場で勝負をしました。
これが規模が拡大した大きな要因と思われます。

市場は世界ですが、基本的には店舗を持たず、リアル店舗はアンテナショップのみです。
ECに資源を集中しています。
そのかわり、ECサイトは世界中の誰もが使いやすいよう設計されています。
使える通貨の数が30ありますし、商品のレビューコメント欄も、きちんとその国の言語で書かれたものが出てくるようになっています。

こうして、きちんとローカライズされていることも強みの一つと言えるでしょう。

脅威のスピード

次に注目すべきは【スピード】です。
SHEINの一番の特徴と言って良いかもしれないです。

通常、アパレルの商品が企画〜店舗に陳列されるまで、約2〜3ヶ月かかると言われています。
長いものだと半年から1年も普通にあるそうです。

これは、仕事ごとに業者が細かく分かれていたり、そもそも海外の工場で作っていたりなど、様々な要因があります。
作るのに時間がかかってしまうと商売する上で何が不便か。

例えば、ある商品が想像以上にバカ売れして在庫が足りなくなっても、追加ですぐに作れないのです。
もっと売りたい!思ってもそれができないんですね。
なのでアパレルの需要予測は非常に難しいと言われています。

そしてその常識を覆して成長してきたのがZARAです。
ZARAは、多数のアイテムを小ロットで素早く市場に投入します。
もうとにかくアイテム数を出すんです。
ZARAの店舗に行けばわかりますが、基本的に行くたびに並んでいる商品が変わっています。

そんな、高速で商品を作るZARAでさえも、企画から陳列までは3週間と言われています。

一方、SHEINはこの期間が1週間だそうです。
もうすでに企画が決まっていて、デザイン〜出荷だけなら3日とも言われています。
これは脅威的な数字です。

なぜこれが可能なのかと言われると、SHEINが【生産国】だからです。
SHEINは企画から生産、発送まですべて中国で行います。
しかも、商品は小ロットのため、個人輸入のような形で関税がかかりません。これはコスト的には時間的にもかなり有利です。

このように、生産国ブランドだからこその強みを生かした結果、7日という脅威的な数字が叩き出せているのです。

これまで中国は、UNIQLOをはじめ海外のブランドの工場として、ある意味安く使われるだけ使われてきました。
その対比から、SHEINのことを「生産国の逆襲」と呼ぶ人もいます。

マーケティングが上手い

生産も強けりゃマーケティングも強いのがSHEINです。

思い出してください。
創業者のクリス・シューは元エンジニアでしたよね。

SHEINではAIの技術などを活用し、顧客の情報管理を徹底的に行います。

また、中国の企業っぽいなあと思うのが、SNSやインフルエンサーの活用がめちゃくちゃ上手いと言われているんです。
インターネット上で、自分たちの商品を届けたい相手に対して、直接、効率的にアプローチすることができます。

つまり、
AIを活用して顧客をきちんと分類し、「誰に何を売るのか」決める。
狙いをしっかり定めたら、対象となる顧客ごとにSNSやインフルエンサーを選択し、直接アタックする(広告を出したりサンプル品を送ったりなど)。インフルエンサーが宣伝してくれたりSNSでバズれば爆速で作って一気に売り捌く。
といったことが可能になります。

短納期とマーケティングを武器に、かつてのアパレルブランドが成し得えなかったこのサイクルを回せるのがSHEINの何よりの強みです。

このことは数字にも表れていて、SHEINは1年間で出すアイテム数が異常に多いです。
多いと言われていたZARAが約12,000点。
これに対し、SHIEINは桁が一つ違います。SHEINはなんと年間15万点です。
噂によると日々1,000点出ていると言う情報もありますので、本当はもっとアイテム数があるのかもしれません。

SHEINが抱えるリスク

そんな無敵とも思えるSHEIN。
弱みはあるのでしょうか。

もちろん、これだけ急成長してきたらどこかに歪みが生じているはずです。

これを消費者目線と労働者目線から見て見ましょう。

まず消費者目線ですが、僕も商品を触ってみて感じたことは、
「どっかで見た相手の廉価版だなあ」ということ。

ある意味当然ですが、トレンドに合った服を安く早く出すためには、何かを犠牲にしなければなりません。
デザインも品質もこだわっていたらできないことです。
だからこれが全然悪いことではありません。そういうものだと理解することが重要です。

例えばUNIQLOは、
「あの価格でこのクオリティ?!」
がというもの普通にありますが、そういうブランドではないということです。

”トレンドに合った服を安くたくさん買いたい”
”子ども服はすぐに着れなくなるものは、安くて良いから可愛い服を頻繁に買い替えたい”

こういう目的を持った人たちに合っているブランドですね。
実際に、Z世代やママさんたちに人気なことから、SHEIN側のマーケティングも成功していると言えます。


次に労働者目線です。
こちらはより深刻です。

SHEINにはおよそ2万人の従業員がいると言われています。
その多くが縫製の街、広州の自社工場で働いていますが、その労働環境は過酷なようです。

イギリスの会社が調査を行ったところ、1日12時間労働は当たり前、週休1日、その上で給料は少ないという状況だそうです。
給料は歩合制で、1着作れば6円。
月給は多くて19万円、少なければその1/3位くらい。

しかし、それでも働く人が減りません。
あるメディアが労働者にインタビューを行ったところ、労働者からは「もっと働きたい」という回答が。
彼/彼女らは移民労働者のため、激務&薄給でも地元で働くよりは稼げるし、なんなら短期でもっと働いて稼いで、自分の家に帰りたいと思っているのでしょう。

ウィグルでの強制労働も問題視されているようで、この辺りはすでに国際社会から課題を投げかけられていますし、今後さらにメディアでも取り上げられる機会も増えると思います。

百聞は一見に如かず。行ってみよう!

ここまで、SHEINとは何か。その凄さとビジネスモデル、そしてその裏に隠れた闇を探ってきました。
色々と知ってもらえたのではないかと思います。

しかし、頭でっかちになってはいけません。
何事も実際に【体験】してみることが重要です。

そこで関西人には朗報です。
2022年10月に大阪にポップアップショップができました。
場所は心斎橋。
心斎橋筋商店街の入り口、H&Mの向かいあたりですね。
2023年1月までの期間限定ですので興味のある方は行ってみてはいかがでしょうか。

前提知識を持って買い物をすると、商品がより立体的に見えてきます。
これが勉強することの面白さだと僕は思っています。

今回の話を踏まえて商品を見たら、何か感じることがあるかもしれませんよ^^

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