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[ショートショート]引退。最後の言葉

「この先お前たちにはたくさんの可能性が待っている。待っているという表現は正しくないかもしれない。それはお前たちが自分から掴みに行くものだからだ。お前たちは人からもらったチャンスを生かすことはもちろんできる。そんなの当たり前だ。その上で自分がやりたいと思ったことに対しては貪欲に食らいつくことができる。3年間みてきた俺が保証する。ここにいる誰一人として現状に満足することなく常に上を目指してきた。それを俺は誇りに思う。それとありがとう。ここまで来れたのは俺の力じゃない。俺はお前たちが必死で頑張ってもう無理と思ったところからほんの数センチ手助けしてあげるだけだ。お前たちの限界をほんの少しだけ上げられるくらいしかできない。自分の限界に直面するには自分で立ち向かうしかなかった。お前らはそれができた。だから常に自分の限界に挑戦し続けることができた。これはお前たちの強みだ。これはこの先お前らがバラバラになっても関係ない。一人一人が輝いていける。もっと輝く方法は周りを巻き込んでいくことだ。お前たちが集団の中心になれ。その集団はめざましい功績を残すことになるだろう。これからの活躍を期待している。今までありがとう。」

「キャプテンとして1年間やらせてもらいました。正直鬱陶しいと思われていたと思います。細かいことに口出したし、練習で手を抜くこともしなかった。真面目にやってない奴には声をかけたことも数回じゃないし、練習を止めたことだって数え切れない。でもそんな自分についてきてくれてありがとう。みんながキャプテンと呼んでくれるから俺はキャプテンになれた。俺をキャプテンにしてくれてありがとう。ここでの経験はこれからの人生で大いに役に立つと確信を持って言えます。大事な3年間をただぼーっと過ごして終わらせることもできたでしょう。しかし、私たちはここで必死に努力し続けてきた。そして結果を残した。この経験を積めたのはここにいる全員がついてきてくれたから。誰一人としてかけることなくついてきてくれたから。本当にありがとう。この経験をさせてもらえて私は幸せ者です。」

「えーっと…今までありがとうございました。俺は無口だし、愛想も良くないからみんなから見てあんまりいい先輩じゃなかったかもしれない。俺自身、自分に自身ないから周りに対してどうしても劣等感を抱いてたんだよね。だから必死に頑張らなきゃいけないって、余裕がなかったんだよね。ここにいるやつ全員すごいからとても同じことやってる余裕なくて。だから周りと少しでも違うことやらないといけないと思ってよく変なことやってたんだよね。それについてきてくれる後輩が何人かいてめっちゃ嬉しかったんだ。自分では新しいことを考えてやってる段階で、実績もデータもないからそれに後輩を巻き込むのは気が引けてたんだよね。それなのに新しいことやろうとしたら一緒になってやってくれてありがとう。お前たちがどうせ一緒にやるだろうな〜と思うと、俺も責任感が出てくるんだよね。だから下手な練習は考えられないから質もどんどん高まっていった。俺もお前たちに成長させてもらえた。それがとても価値があるものだと改めて実感してるよ。今までおせわになりました。本当にありがとう。」

「最後だけど何話そう。みんないいこと言うからもうほとんど残ってないよ。じゃー俺からは一つだけアドバイスというか考え方を教えてあげるね。今までよく大会でなんで緊張しないのって聞かれた。ものすごく。その度になんとな〜く濁してきたよね。それは自分でもなんでかわかんなかったから。元々の才能って答えてたけど最近違うことに気がついたから今教えるね。練習で1万回練習してください。そしたら本番では1万1回目をやってください。そうすれば緊張なんてしないでしょ。だってトイレ行ったりご飯食べたりすることにいちいち緊張なんてしないでしょ。それを練習でもやってください。そのためにはなんとなくを繰り返しても意味がない。めっちゃ考えて考えて一つ一つ考えて練習してください。そのうちに無意識に落とし込めたところで自分の武器になるから。それまではひたすら頭使って。それで上手くならなかったら俺のところきて文句言っていいよ。でもこれで上手くならない理由はないと思うけどね。やるかやらないかは自分で選んでください。これからに期待してます。」


やっぱり先輩たちの背中はとても大きかった。一つしか違わないはずなのにその背中はずいぶん遠くにあった。これからは自分達の時代。俺が主役だなんて息巻きながら何回目かの先輩たちの言葉を確かめて今日も練習に励む。


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