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3日ボーイズ

絵/うわやゆみ ・ 文/いしいりょう

それは、今ではないとき、ここではない場所のお話。

ずんたかたったー、ずんたかたったー♪

小さい子どもの声が聞こえてきます。その世界では、誰の心の中にも、「3日ボーイズ」という少年たちが住んでいるのでした。もちろん、あなたにも。そして、わたしにも。

心の奥底に住んでいるので、うっかり忘れてしまっている人も多いかもしれません。

彼らは、心の主が何かを始めようとしてから、その何かを3日続けることができたら、お外で遊ぶことができるのです。

あるところに、お兄ちゃんのガツオくん、妹のプチコちゃんという兄妹がいました。

ガツオくんは、継続が大の苦手。一方、プチコちゃんは、せっせと続けられる気質でした。だから、プチコちゃんの周りでは、「3日ボーイズ」が楽しそうに遊んでいます。

なかなか続けることが苦手なお兄ちゃん。あるとき、ガツオくんの心に住んでいる「3日ボーイズ」たちが、あまりに外で遊べないので、しびれを切らして飛び出してきてしまいました。

3日ボーイズは言います。「ガツオくん。いつまでもお外で遊ばせてくれないから、ぼくたちは、プチコちゃんのところへ行くよ」

ががーん。

ガツオくんはショックでしたが、お兄ちゃんのプライドがあるので「いいよ、プチコのところへ行けばいいさ」と強がります。

ガツオくんから飛び出した3日ボーイズたちが、プチコちゃんの3日ボーイズたちに加わって、プチコちゃんの周りはますます賑やかに。

ずんたかたったー、ずんたかたったー♪ プチコちゃんは、楽しそうに続けます。

ちょっと強がってみたお兄ちゃんのガツオくん。プチコちゃんが楽しそうにしているのが気になります。でも、3日ボーイズがプチコちゃんのところへ行ってしまったので、ますます継続ができません。

うーん。どうしたら良いんだろう。ガツオくんは悩みます。待てど暮らせど、やる気は出てきません。

楽しそうなプチコちゃんに対して、ちょっとさみしいガツオくん。

待っていても、やる気が出てこないガツオくんは、もともとさみしがり屋さんということもあって、3日ボーイズたちが恋しくなってきました。

やる気は出ないけど、迎えに行ってみるかな……。そう思いたち、ちょっと悔しいけれど、プチコちゃんのところへ行きました。

「プチコ。ぼくの3日ボーイズたちが遊びに来てるんじゃない? そろそろぼくのところに帰ってきてほしいなぁ……」

あまりに継続しているプチコちゃんのところが、楽しくて仕方ない3日ボーイズたち。でも、ガツオくんがお迎えに来てくれたので、ひとりだけ、ガツオくんのところへ戻ることになりました。

3日ボーイズの3人のうち、末っ子のはじめくんです。

ガツオくんは、はじめくんが帰ってきてくれたのが嬉しくて、めずらしく、やろうと思っていたことが続けられそうです。

待っていてもぜんぜんやってこなかった「やる気」ですが、迎えに行くことでちょっぴり出てきたんですね。

ガツオくんはコツを掴んだ気持ちになって、いろいろ始めてみましたが、ずっと続けられるか……というと、そうでもありません。ひとり、帰ってきたはじめくんも、ちょっぴり寂しそう。

はじめくんは、ガツオくんに「ぼくのお兄ちゃん達も、戻ってきて欲しいよー。遊ぶ約束をしてたんだ」と言います。

そうだよね。3日ボーイズは、3人兄弟だもんね。ガツオくんは、同じくさみしがり屋のはじめくんのことが可哀想になって、残りの2人を迎えに行くことにしました。

ガツオくんは、またプチコちゃんのところへ行き、やっぱりちょっぴり悔しいけど、「ぼくの3日ボーイズの2人を迎えに来たよ」と言いました。

すると、3日ボーズの次男、つづくくんは、「えー、ガツオくんのところに行くと、もう遊べなくなっちゃう」と言います。

ガツオくんは、ちょっぴりしょぼくれそうになりましたが「いや、ちゃんと君たちが遊べるように約束するよ」と指切りげんまんしました。

「ほんとにー?」と、つづくくんは疑いつつも、ガツオくんのところへ戻ることにしました。

ガツオくんは、お兄ちゃんだから、約束はしっかり守ります。やっぱり、ちょっぴり続けるのが大変だけど、つづくくんとの約束です。針千本なんて痛いことは嫌だし、がんばります。

誰かと約束したり、そうやって巻き込んだりすると、続けられるんですね。

さて、順調に続けられるようになってきたガツオくん。実はお調子者なので、コツを掴むと、いろんなことをやりたくなってしまいます。

あれも! これも! ちょっぴり楽しくなってきたんですが、どれもこれも最後までいけません。

3日ボーイズの2人も、微妙に遊べるようになったものの、やっぱり長男が居ないとおもしろくないようです。

このままではいけないと思ったガツオくん。はじめくん、つづくくんを迎えに行って、ちょっとずつ続けられるようになったし、きっと3日ボーイズの長男を迎えに行けば、何か変わると思ったんですね。

「プチコー。お兄ちゃんも少しは続けられるようになったよ。3日ボーイズの長男を返してよ」

帰るのを渋る、長男とげるくん。でも、ちょっぴりたくましくなったガツオくんを見て、プチコちゃんは「もう、ガツオ兄ちゃんのところへ行っても平気だよ。帰ってみたら?」と、とげるくんの背中を押します。

渋々帰ってくる、とげるくん。「なんだよー」とガツオくんは思いますが、やっぱり3日ボーイズの3人が揃うと、みんなが嬉しそうに見えます。そうだよね、みんなが楽しいのが一番だよね。

それ以降、ガツオくんは、3人が楽しく遊んでいるのを見るのが楽しくて、しっかりやり遂げるようになりました。

ずんたかたったー、ずんたかたったー♪

今日も、楽しいそうな子どもの声が、たくさん聞こえてきます。

そう、これは、今ではないとき、ここではない場所のお話。

あなたも、続けられないと思ったら、3日ボーイズたちが、へそを曲げて、どこかに遊びにいってしまったのかもしれませんね。そんなときは、ぜひ、迎えに行ってあげてください。

おしまい

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