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ラウドポップとラウドロック~TEAM SHACHI『AWAKE』について~

TEAM SHACHIが2021年5月5日にデジタル両A面シングル『HONEY/AWAKE』をリリースした。

TEAM SHACHIは前身グループ「チームしゃちほこ」から2018年10月22日に「TEAM SHACHI」と改名した愛知県出身の秋本帆華、咲良菜緒、大黒柚姫、坂本遥奈の4人からなるラウドポップユニットだ。

『AWAKE』は昨年からライブで披露されていた曲でもあり、個人的にはTEAM SHACHIの掲げる「ラウドポップ」が最もよく表現された曲だと感じている。

この記事では、まず「ラウドポップ」と「ラウドロック」について、次に新曲『AWAKE』について書きたい。

ラウドポップというジャンルはない

2021年の音楽シーンに「ラウドポップ」というジャンルは存在しない。Google検索で「ラウドポップ」と検索すると、釣りのルアーの記事が上位を占め、音楽に関するページは見あたらなかった。どこか聞いたことがありそうな耳なじみのある単語なのに。

一方で、似た言葉である「ラウドロック」はジャンルとしてある程度認知されているようだ。キーワードプランナーで調べてみると「ラウドポップ」の月間検索数は10~100であるのに対し「ラウドロック」は1000~10000と高い数字となっている。

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ラウドとは

まずは、ラウド[loud]の英単語としての意味をweblio英和辞典で確認しよう。

高い、大声の、音が高い、騒々しい、熱心な、うるさい、(…に)熱心で、うるさくて、派手な、けばけばしい

同じうるさいでも[noisy]が複数の音源からでる騒々しさを表すのに対し、[loud]は音量が不快感を与えるほど大きいことを表す。

ではラウドロック/ポップは「うるさい音楽」ということだろうか。間違ってはいない気がするが、これだけで首を縦に振ることはできない。

ラウドロックとは?

次に、ラウドロックを調べてみよう。

ラウドロックという言葉は和製英語だ。アメリカやイギリスにはラウドロックというジャンルは存在しない。実際に英語で「Loud Rock」と検索してもジャンルの説明をするページは見つからなかった。英語版のwikiも存在しない。

日本語版wikiには以下のように書かれている。

ラウドロックとはロックのサブジャンルの一つである。音楽的な特徴としてはハードコア、ヘヴィメタルの流れを汲みつつ、そこに新しい要素が加えられたものである。
--中略--
ラウドロックはラップ、グロウル、スクリームなどをとりこんだ、より幅の広いボーカルスタイルや、ダウンチューニングを施したギターによる大音量で低音域中心の重苦しいリフ、エフェクターの多用、サンプラーやターンテーブルの導入などによる複雑化された音像、ミドルテンポで16分音符のシンコペーションを聞かせたグルーブ感のあるリズムなど、テクニカルな要素を抑えつつそれまでのハードコア、ヘヴィメタルの型にとらわれない様々なアイディアが導入されたものである。

わかったようなわからないような。

もーちょっと調べてみると、元は「ニューメタル」という「ヘヴィメタル」の派生ジャンルを、日本で紹介する際に「ラウドロック」という言葉が使われたところから始まったということらしい。

現在の日本においては「ラウドロック」的要素をもつバンドを積極的に「ラウドロック」の枠に入れることで、ジャンルをメジャーにし、ロックに詳しくない人でもとっつきやすくするという狙いもあるようだ。

ラウドロックは特定の音楽性に基づいた分類ではなく、ある程度の音の共通項を持つバンドをひとくくりにまとめるためのものだといえる。

しかしそれではわかりにくので、とりあえずラウドロックの特徴を3つにまとめてみた。

①ヘヴィなギター・ドラム(楽器の音重視)
ラップやデスヴォイス・スクリーム
③エモいメロディ

ということで、とりあえずラウドロックは「ヘヴィな楽器の音を重視しラップやデスヴォイスを含むことが多いが、エモいメロディもある」音楽ということにしておく。

ラウドロックのバンド

ここで、ラウドロックな曲を3つ紹介しておく。こんなブログを書いておきながら恐縮だが、正直僕はラウドロックに詳しくない。そのため紹介する曲にはかなり偏りがあるということを了承してほしい。

スピード感がありラップ・シャウトがっこいいLinkin Park『Faint』

透明感のあるヴォーカルが特徴のEvanescence『Bring Me To Life』

デジタルサウンドとデスヴォイス・バンドサウンドが融合したCrossfaith『Omen』(オリジナルを選ばずにすみません。『Omen』好きなんです。)

参考:ラウドロックバンド一覧(wikipedia)

余談だが、知識共有プラットフォームであるQuora(Yahoo!知恵袋のすごいやつ的なもの)に寄せられた「What are some loud rock music?」という質問に対する回答ではQUEEN、KISSなどが挙げられている。

ポップ/ポップミュージックとは?

ポップ・ミュージックという言葉には広義の「ポピュラー音楽」の意味と、狭義のジャンルとしての「ポップ・ミュージック」の意味があるようだ。

「ポピュラー音楽」としての「ポップ・ミュージック」はwikipediaによると以下のようになる。

ポピュラー音楽とは、何らかの「広く訴求力のある」音楽ジャンルに属す、人々の好みに訴求した、あらゆる時代の音楽を包括的に指す用語、等と定義づけられ、具体的にはロック、ポップ、ソウル、レゲエ、ラップ、ダンスミュージックなどが例としてあげられる。

この定義では、僕たちが日常的に聞く音楽のうちクラシックや現代芸術としての音楽を除いたものは、ほぼ全てポップ・ミュージックということになる。

一方、ジャンルとしての「ポップ・ミュージック」はwikipediaによると以下のようになる。

ポップ・ミュージックは極めて折衷的であり、多くの場合は他ジャンル(ダンス・ミュージック、ロック、ラテン音楽、カントリー・ミュージック等)からの要素を取り入れる。
--中略--
ジャンルとしてのポップ・ミュージックはヒットチャート志向とは別の意味を持って存在している。若者向けの音楽の中でもロックよりはソフトなものの代替として特徴づけられる

短くいうと以下になるだろうか。

他ジャンルからの要素を取り入れた折衷的なもので、ロックよりもソフト。」

ラウドポップとは?

ラウドロックの特徴を「ヘヴィな楽器の音を重視しラップやデスヴォイスを含むことが多いが、エモいメロディもある。」と、ポップ・ミュージックの特徴を他ジャンルからの要素を取り入れた折衷的なもので、ロックよりもソフト。」と書いた。

ではラウドポップとは何だろうか?

2つの特徴を合わせると「ラウドロックの要素を持ちながらも、ロックのジャンルに縛られない要素を取り入れ、ソフトにしたもの。」ということになる。

それってただのポップ・ミュージックなんじゃないの?と思うかもしれない。僕もそう思わないこともない。でも、ひとまずこれから紹介する『AWAKE』を聴いてみてほしい。

ラウドポップとしての『AWAKE』

2021年2月に豊洲PITで行われたライブから『AWAKE』の映像だ。

『AWAKE』歌詞

冒頭のドラムを合図に始まるイントロが、やや不穏な雰囲気のあるブラスが掛け声とともに鳴り響く。最初からスピード感MAXだ。

暗転し目覚まし時計のアラーム音が鳴るとともに、畳み掛けるようにAメロのラップが始まる。Aメロの後半はこの曲の見どころの一つで、ヘヴィなギター・ベースの上に秋本帆華の独特でキュートな声質のラップがのる。

Bメロでは大黒柚姫が艶やかに歌い、高速に進んできた曲を一旦クールダウンさせる。スピード一辺倒でなく緩急をつけることで曲にメリハリがついている。

※大黒柚姫のソロパートといえば是非『MAMA』のライブ映像も見てほしい。

サビは高いキーの明るいメロディだ。ともすればヘヴィなサウンドに負けてしまいそうだが、美しい歌声とヘヴィなサウンドに負けない声量が両立している。中でも坂本遥奈と咲良菜緒の高音パートは見事だ。

2サビ後の間奏では、ラウドなドラムとブラスにのせて4人がシンクロしたクールなダンスを堪能できる。

Cメロで坂本遥奈がエモーショナルに「今日のベルが鳴る」と歌い上げると、再び目覚まし時計の音とともに大サビが始まる。咲良菜緒の突き抜けるような声が気持ち良い。大サビ後半ではドラムが裏拍を叩くようになり、曲の盛り上がりは最高潮に達する。

アウトロではブラスの不穏さが抜けたポップなメロディが響き渡る中で、メンバーがステージ上を飛ぶように動き回り「ぐーすかぴー」と声をあげ、観客とコミュニケーションする。

このアウトロは、カッコ良いパフォーマンスを見せる現在の「TEAM SHACHI」が改名前の「チームしゃちほこ」の良さである、わちゃわちゃした楽しい感じを残していることを伝えるためのパートなのではないかと思う。最近のファンである僕には本来的にわからないことだが、「チームしゃちほこ」時代からのファンは、このアウトロのメンバーを見てホームに戻ってきたような、ほっとした感じになったりはしないだろうか。

こうして、まるで楽しい1日の始まりを告げるようにして曲は終わりを迎える。

全体として、ヘヴィなバンドサウンドがベースにあるが、ブラスや目覚まし時計のアラーム音といったロックにはあまり入らない要素も入っている。

また、ラップパートが多く、大サビ前のメロディはエモい。サビはハイトーンで明るいメロディだが、歌を聴かせるというよりは楽器ともにメロディーラインを作っているようだ。

そして、ライブ映像を見ていただけると、ダンスや表情、観客とのコミュニケーションなど楽曲以外の要素も含めて楽しさ満点のエンターテイメントであることが伝わるのではないかと思う。

TEAM SHACHIはどんな時でも楽しいを忘れないグループだ。5/4に予定されていたライブの中止を受けて急遽行われた配信の終盤に秋本帆華はこう言った。

楽しいを、楽しいを忘れるんじゃないぞ!この顔を覚えとけ!
何でも楽しいに変えられるチームってことで、大丈夫です、みなさん。安心してください。お先は明るいです!

ここで先ほど書いたラウドポップの定義を更新したい。TEMA SHACHIのラウドポップには、やはり楽しいという要素が欠かせないだろう。

「ラウドロックの要素を持ちながらも、ロックのジャンルに縛られない要素を取り入れ、楽しいを追求したもの。」

この「TEMA SHACHIのラウドポップ」を体現した曲が『AWAKE』なのだ。

『AWAKE』の最高の聴きどきは10月のライブ

『AWAKE』はラップ、ハイトーンのボーカルをダンスとともに歌う、非常に難易度の高い曲である。2020年のライブツアー「異空間」から披露されているのだが、当時ファンではなかった僕は披露してすぐの『AWAKE』についてよく知らない。

しかし、2020年7月28日に行われた無観客ライブ配信「Spectacle Streaming Show ”ZERO”」のドキュメンタリー映像の冒頭で数秒ながら初披露から間もない時点の音源を聴くことができた。

その『AWAKE』は、(僕の耳が間違っていなければ)キーが現在よりも一つ高い。そして歌唱も今と比べるとやや不安定な印象を受けた。想像に過ぎない話だが、初披露時の『AWAKE』はまだ未完成で、楽曲の調整や歌唱のトレーニングを重ねる中で完成された曲なのではないだろうか。

映像の2021年2月の豊洲PITでの『AWAKE』のパフォーマンスは完成度が高く本当に素晴らしいものだった。しかし、これはまだ最高ではない。

実はライブビデオでは音源だったブラスは、本来は6人の奏者(ブラス民と呼ばれている)が生で奏でるものなのだ。(このライブでは諸事情があって不参加だった。)生ブラスが加わることで『AWAKE』の魅力はさらに増す。

TEAM SHACHIは10月24日に近年で最大規模のライブをパシフィコ横浜で行う予定だ。このライブに生バンドが参加することはまだ告知されていないが、これまでの実績から可能性は高いだろう。『AWAKE』の最高の聴きどきは10月24日のライブなのだ。

パシフィコ横浜でバンド・ブラス・メンバーの最高のTEAMによる『AWAKE』を聴くことを楽しみにしている。

TEAM SHACHI 横浜パシフィコ公演特設サイト


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