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「番狂わせ」はここから~TEAM SHACHI『番狂わせてGODDESS』を聴いた感想

2021年9月3日(金)0:00にTEAM SHACHIが新曲「番狂わせてGODDESS」を含むEP『浅野EP』を配信リリースした。

「番狂わせてGODDESS」はTEAM SHACHIが前身グループ「チームしゃちほこ」時代から数々の曲を提供してきた浅野尚史の作詞作曲によるものだ。

TEAM SHACHIのライブアンセムとして作られた本曲は、TEAM SHACHIの大きな特徴であるホーンセクション(通称ブラス民)を中心とした激しい曲調に加え、グループのこれまでの楽曲のモチーフを随所に取り入れたものとなっている。

▼「浅野EP」配信リンク
https://shachi.lnk.to/asanoep

浅野曲をたどればTEAM SAHCHIがわかる

これまで浅野尚志が作曲・作詞を手がけた曲はファンの間でも非常に人気が高い。それはライブで盛り上がる、いわゆるアゲ曲が多いということもあるのだろうが、しかしそれだけでなく歌詞にグループ(及びメンバー)のその時々に置かれている状況や気持ちが表現されているということもあるだろう。浅野曲をたどればTEAM SAHCHI(チームしゃちほこ)のこれまでのストーリーが(超大雑把に)わかる。

デビュー曲である「恋人はスナイパー」で偉大な先輩に宣戦布告し「抱きしめてアンセム」ではまだまだ足りないと叫んだ。「ちぐはぐ・ランナーズ・ハイ」で敷かれたレールに別れを告げ、不確定な未来をちょうど良いと歌った。そして「雨天決行」でもがき苦しみながらも前に行くしかないと叫ぶと、「DREAMER」で何度でも夢を見ると宣言した。

これらの曲に続く「番狂わせてGODDESS」はどんなストーリーを綴るのだろうか。

タイトル

「番狂わせてGODDESS」というタイトルは、同じEPに収録されている「抱きしめてアンセム」と同じ構成だ。(動詞 + 助詞「て」 + 外来語or外国語)

「抱きしめてアンセム」といえば、前身グループ「チームしゃちほこ」時代から現在までのライブアンセムとして定番だ。本曲はタイトルからも「抱きしめてアンセム」に続くライブアンセムとしてつくられたことがわかる。

TEAM SHACHIのラウドポップを新たに体現

「番狂わせてGODDESS」はYouTubeで聴くこともできる。まだの方は、まずは聴いて欲しい。

ブラス・ドラム・ギター・ベース・ボーカルが高速高音で唸るラウドポップに仕上がっている。以前「AWAKE」をラウドポップの代表と紹介したが、本曲もまた異なる曲調ながらTEAM SHACHIのラウドポップが体現されている。

歌詞にはTEAM SHACHIが置かれている現状の中で、がむしゃらに前に進み、高く昇っていく決意が綴られている。

歌い出しが最高

イントロからブラスのメロディが高らかに鳴り響く。ラウドなドラム・ギターをのせたブラスは闘いの始まりを告げるかのようだ。

歌い出しは低音が得意な坂本遥奈が力強く歌う。これが最高に良い。

坂本遥奈のボーカルの魅力の一つは「DREAMER」や「Rocekt Queen feat. MCU」等のCメロに代表されるような、いわゆるエモい歌唱だ。感情をのせ、やや苦しそうに、しかしギリギリで音程をのせてスリリングに歌う。

参考:https://youtu.be/RMlj0iPvH6s?t=609

「番狂わせてGODDESS」の歌い出しではエモさは残しつつも、スリリングさ必要最小限で力強く歌っている。冒頭の歌詞は以下だ。

覚悟はもう決めた
火蓋は切って落とした

火蓋は切って落とされた、ではなく火蓋は切って落としたというのが、グループ結成10周年に向けて勝負をかけているTEAM SHACHIの凄みを感じるワードチョイスだと思う。

凄みを感じるといえば、Bメロの歌詞もだ。これを、かつてはこういう言葉と最も遠かったであろう大黒柚姫が歌うというのが激アツだ。

知った顔した 他人(ひと)の予想図
わたしが燃やしてあげる

パート割が絶妙なサビ

サビは暴れるドラムに乗せて「番狂わせて!」「いざ我武者れ!」と叫ぶように歌う。四人で歌うパート・二人で歌うパート・ソロで歌うパートと分かれ、メロディと歌詞と声質が非常にマッチしている。

サビの冒頭は4人で入り、「予定調和の未来へぶち壊せ」という強い歌詞のパートにはストレートな歌い方の咲良菜緒と秋本帆華が、「願い、想い、感情、激情、全部 ごちゃまぜで」という感情をのせた歌詞のパートにはエモーショナルな歌い方の坂本遥奈と大黒柚姫が担う。

そして、サビの最後はイメージカラーがドラゴンズブルーの咲良菜緒が「わたし龍になる」と力強く歌う。(歌詞を聞く前は「わたし流になる」とのダブルミーニングかと思ったがどうだろう…。)これ以上ないパート割だ。

「番狂わせてGODDESS」はサビに限らず、曲全体を通してパート割が絶妙だと思う。いずれは曲のメイキング等でどのようにディレクションしたのか語ってもらえると嬉しい。

一丸のワンチーム

間奏でサビからの勢いそのままにギターが暴れ出すと、2番Aメロでは咲良菜緒が以下のように歌う。

絶対折れやしない 重なり合った魂
タフな相棒 繋ぐ願望
一丸のワンチーム

TEAM SHACHIのファンの総称である「タフ民」が「タフな相棒」と、また「一丸のワンチーム」と表現されている。これまで何度か言及されたことではあるが、「タフ民」がTEAM SHACHIのTEAMの一員であることが歌詞として明確に表現されているのは初めてではないだろうか。

ベタなものではあるが、だからこそファンとしてはライブで燃え上がり、一層の一体感を生み出すパートになると思う。

小休止:もちもちもちもち猪☆

2番Bメロでは秋本帆華が「猪突猛進猛進猛進猛進猪」と歌うが「猪突もちもちもちもち猪☆」としか聞こえない。(絶対ワザと、というかそういうディレクションに違いない。メイキングが公開されるのが楽しみだ。)全体を通じて激しい戦闘曲のような曲調の本曲だが、このパートだけは聴いた人全員ほっこりせざるを得ない。裏でピロピロ鳴っているギターとの相性もとても良い。

ニンジンほしーっ

2番のサビ前にはセリフパートがある。歌詞は「ニンジンほしーっ」だ。直前の歌詞が「野次馬じゃ走れない」だから馬の食べ物→ニンジンなのだろう。「馬の鼻先に人参をぶら下げる」という慣用表現のように、自分たちを馬に例えて、何でもいいからとにかく前に進みたいという意味だと解釈した。

間奏〜落ちサビ

2番〜間奏は、ブラスパートから流れるようにギターパートへ移り、Cメロへと繋がっていく。

Cメロでは、咲良菜緒のメロディと大黒柚姫のハモリが優しく美しく響く。

もう大丈夫 積み上げた過去 ガソリンに変えたら

これまでの活動が未来につながっているという歌詞が、「もう大丈夫」という言葉で始まる。自分たち自身を鼓舞している面もあるのだろうが、曲を聴いている人へ向けたメッセージでもあるのだろう。Cメロ秋本後半は秋本帆華が受け継ぎサビの盛り上がりの前の静けさを演出する。

大サビは大黒柚姫が叫ぶように歌う。大黒柚姫のしゃくりの効いたボーカルは、この曲の大サビにこれ以上ない盛り上がりをつくる。「抱きしめてアンセム」の大サビといい、大黒柚姫のここぞというパートのパフォーマンスは本当に素晴らしい。

ブラスの合図と共に転調しクライマックスを迎える。アウトロではギターとブラスが残った体力を振り絞るように演奏し曲は終わる。

ヴォーカルの力強さ

これまでTEAM SHACHIの曲を聴くときはCD音源よりもライブ音源の方を好んで聴いていた。CD音源は声の綺麗さが強調されていて、ライブ音源に比べると迫力が足りないように感じられていたからだ。

しかし「番狂わせてGODDESS」は声の綺麗さはそのままにボーカルが力強くライブ感もあってとても素晴らしい。楽器の音の激しさは増しているというのにボーカルは全く負けていない。

これには、ボーカルの技術の向上等もあるのだろうが、制作方針の違いがあるのではないかと思う。ライブはライブの良さ、音源は音源の良さを強調するという方針もわからないではないが、個人的には音源もライブを感じられる仕上がりになると嬉しく思う。

TEAM SHACHIとチームしゃちほこの融合の完成

「番狂わせてGODDESS」はブラス・ドラム・ギター・ベースのラウドなサウンドを持つ、TEAM SHACHIの掲げるラウド・ポップ・ブラスの要素を強く持つ曲だ。一方でチームしゃちほこ時代から持っていた、独特のがむしゃらな雰囲気の要素も併せ持っている。

Cメロの歌詞をもう一度見てほしい。

もう大丈夫 積み上げた過去 ガソリンに変えたら

改名後しばらく封印してきた、「積み上げた過去=チームしゃちほこ時代からの楽曲やスタイル」を解き放ち、TEAM SHACHIにとって2021年のテーマであるチームしゃちほこの融合を曲として体現したのが「番狂わせてGODDESS」だといえるのではないか。

アニソンっぽい暑苦しさ

デモ音源を聞いた時からずっと思っていることとして、この曲は確かに「かっこ良い」のだが、妙に「暑苦しいダサさ」が感じられるということがある。バトル系アニメのオープニング曲のようだ。

初めて聞いたときに連想したのはジョジョの奇妙な冒険3部OPの「STAND PROUD」だった。

何かのタイアップがあるのかもとも思ったが、今のところ発表はない。(ちなみに「番狂わせ」「GODDESS」でそれっぽい作品を探してみたが見つけられなかった。)

暑苦しいのは間違いないが、ライブでの盛り上がりを考えたらこれくらいがちょうど良いのだろうと思う。

ライブアンセムとしての可能性

TEAM SHACHIのライブといえば「振りコピ」文化があることが特徴の一つだろう。「抱きしめてアンセム」がライブの定番となったのも、独特の振りによるところだろう。

個人的な感想としてはTEAM SHACHIへ改名後の曲(特に最近の曲)は振りコピをしなくても楽しめるように作られている傾向があると思う。だが「番狂わせてGODDESS」は、振りコピした方がより楽しめる曲になりそうだ。

「番狂わせてGODDESS」の振りがどうなるか映像かライブの披露まではわからないが、当然どうやって振りコピを楽しんでもらうか考えているはずだろう。振りコピがシンプルかつオリジナリティのあるものになれば新しいライブアンセムになるのは間違いないだろう。(楽曲だけでも十分にそうだと思うが。)

「番狂わせ」という言葉選びにみる覚悟

それにしてもタイトルや歌詞に「番狂わせ」という言葉を使うというのは、メンバー及び運営の冷静さと大きな勇気の両方があっての決断だったように思う。

どういうことか。「番狂わせ」の意味を確認しよう。

予期しない出来事のために物事が順番どおりに進まなくなること。また、スポーツの試合などで、実力から予想される勝敗とは異なる結果になること。

「番狂わせ」という言葉を使うということは、運営・メンバー自ら「実力」が「足りない」ということを認め、決して大きくはない可能性にかけるという宣言だと受け止めることができる。

もちろん「足りない」というのは、目標よって相対的に決まるものだ。目標を高く設定すれば必然的に「足りない」ということになる。少なくとも、当面の目標として掲げている日本武道館でのライブを実現するには乗り越えるべき壁が立ちはだかっていると運営・メンバーは考えているようだ。

未曾有のコロナ禍の中エンターテイメントは苦境にさらされ、TEAM SHACHIも他のアーティストと同様に思ったような活動ができなかった。そのような環境も含めて全て冷静に「実力」だと捉えて、勇気を持って「番狂わせ」を演じようとしているように思った。

「番狂わせ」の第一章はここから

「番狂わせ」が起こるとしたらそれはどこからか。それは当然、10月24日(日)に横浜で予定されている「OVER THE HORIZON ~はちゃめちゃ!パシフィコ!~」からだろう。

このライブの詳細はまだ発表されていないが「番狂わせでGODDESS」を筆頭にTEAM SHACHIとチームしゃちほこの融合の完成形を見せつけるライブになるはずだ。

パシフィコ横浜公演を境に武道館に向かうのであれば、現在のスタイル(メンバーカラーの強調や過去曲のリアレンジ)を存分に楽しむことができるのは今回が最後かもしれない。そういった意味でもパシフィコ横浜公演は見逃せないものとなるに違いない。

(個人的にはパシフィコ横浜公演ではその先が垣間見える何かしらの演出or発表があるのではと密かに期待している。)



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