EVバッテリー交換Bizへの準備は出来ているか?

世界のEVバッテリー交換(スワップ)事業は中国企業が席巻

英文ですが、Peugeot-Citroenと東風汽車との合弁会社が、CATLのバッテリースワップサービスEvogoに対応したセダン(Peugeot408ベース)を中国市場に投入する、という記事です。

最近は中国に限らずEU市場でもEVバッテリー交換(スワップ)に関する記事をよく目にするようになりましたが、そのプラットフォームを提供するのは殆ど中国企業です。

この記事で取り上げられているEvogo(CATL)は今年からの参入なので比較的後発ですが、それ以前はNIO、Aulton、Geelyの3社が先行してEVバッテリー交換の市場を構築してきました。個人的には、バッテリースワップ=NIOというイメージがあります。
(交換するバッテリーの単位(全体なのか一部なのか)などの違いはありますが、ここではその説明は割愛します。)

バッテリー交換と聞くと大掛かりな作業を連想しますが、実際の作業は概ね3~5分で完了するそうです。ガソリンや軽油の給油と大して変わりありませんね。
現在主流であるバッテリー固定式のEVでは、80%程度充電するのに急速充電で早くても30分は要しますから、それと比較すると時間のアドバンテージは圧倒的です。

日本での検討は?

充電ではなくEVのバッテリー自体を交換するというアイデアはかなり以前からありましたが、日本では積極的な検討は進められていないようです。何故でしょうか。

以前日本の自動車評論家が書いたバッテリー交換に対する否定的な見解の記事によると「高電圧作業であること」「重量物であること」「防水の確保が難しいこと」などの問題があるため、EVのバッテリー交換は普及しないとのことでした。
ごもっともな見解のようですが、挙げている問題はいずれも解決が絶対的に困難な問題ではなく、単に「出来ない理由を探している」だけのようにも思えます。
日本発のイノベーションが停滞している理由の一つは、このようなメンタリティなのだろうなあ、と思いました。

日本企業の取り組み

「日本ではEVバッテリー交換の検討が積極的に進んでいない」と書きましたが、「積極的に」ではないように見えるものの、検討している企業はあります。

  • ENEOSがUSのスタートアップであるAmpleと、EVバッテリー交換の協業を開始するという発表が昨年ありました。(ですが、その後具体的な動きは見えません。)

  • 伊藤忠はいすゞ自動車等と組んで、商用車のバッテリー交換の実証事業を今年度後半から行うことを発表しています。

ENEOSは、二輪領域でもホンダなどの国内4社と組んでGachacoを設立し、先日都内でサービスを開始するという報道もありました。バッテリー交換事業で日本でのイニシアチブを取ろうという狙いがあるのかもしれません。

将来への懸念

前述のように、日本でもEVバッテリー交換事業について検討を進めている企業はありますが、既に事業化し自国内に留まらずEUへも進出している中国企業の展開と比較すると周回遅れ感は拭えません。

EVバッテリー交換方式は主流にはならないという読みがあるのかも知れませんが、現在主流の固定式バッテリーに充電する方式と比較して、時間のアドバンテージは圧倒的です。
何よりバッテリー側の視点では、頻繁な急速充電は寿命の点で不安があります。

個人的には、今後ユーザーの使い方ですみ分けが進む、即ち交換式も一定のシェアを得るようになるのではと思います。
つまり、自宅での通常充電がメインとなる使い方の場合は固定式で問題無いでしょうし、1日の走行距離が長く頻繁に充電が必要な用途、例えばタクシーとか配送業では、交換方式にアドバンテージがあるように思えます。

上記のような観点で、今後もしEVバッテリー交換に対する認識が世界的に変わり、世界の自動車メーカーがバッテリー交換式EVもラインナップに含めるようになれば、日本でもそれに対応する基盤を準備する必要が出てくるでしょう。

私が懸念するのは、その際に対応可能な日本企業が存在しなければ、日本国内の電池交換事業のプラットフォームは海外勢、特に中国企業に押さえられてしまうのではないか、ということです。
もっとも、この分野では中国企業以外に世界で存在感を示している企業は無いので、日本に限らず世界の電池交換事業を彼らが牛耳ることになるのかも知れません。
(USはIRAのように中国排除の法律を制定するかもしれませんが。)

日本が、EVバッテリー交換方式が出来ない理由を考えている間に、中国ではまず動いて諸問題を解決し少なくとも事業化できるレベルまで進化させているという事実は、昨今の両国の勢いの差を見せつけられているように思います。

勿論、日本の企業が要求するような品質レベルには無い部分もあるでしょうが、事業化による実際の経験を通じて改善されていくだろうと思います。

日本でも、世界規模でのEV充電環境の劇的な変化が起きた場合に備えて、少なくとも対応できるような準備は進めておくべきなのではないかと思いました。

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