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「Respect!」#1 ARCHIDIVISION

刺繍ブランドRyme et Flow.の松澤葉子です。
Noteでのコラムの不定期連載として、様々なジャンルで活躍されているクリエイターとの対談・インタビューを載せていきます。

第一回は、Ryme et Flow.アトリエの内装デザインを手掛けた建築設計事務所「ARCHIDIVISION」のお二人。

Ryme et Flow.アトリエは築50年ほどの古いマンションの一部屋をリノベーション。刺繍教室の部屋としては非常に独創的な、退廃的なコンクリートの壁、壁一面の大きな鏡、そして床は透けたガラス。

この内装の誕生秘話、建築デザイナーとしての過去や現在・未来、そしてモノづくりについてをお話しいただきました。

ARCHIDIVISION

誕生のきっかけ

YM:ARCHIDIVISION(アーキディヴィジョン)さんは建築設計事務所で、設立して何年くらいでしょうか。

矢﨑亮大:2016年設立で、8年目ですね。

YM:お二人が出会って設立したきっかけは?

塩入勇生:前職の設計事務所に一緒に勤めていたんです。設計事務所ってアトリエ系と組織系の大きく2通りがありまして、私達がいたのはアトリエ系。個人でやっている作家タイプの事務所で、少人数で皆とても繋がりが強いところでした。
ただ、二人で割と早めに設計事務所やろうかと話はしていて、辞めたタイミングで独立した流れです。

矢﨑:アトリエ系の設計事務所に行く方って独立志望が多いので、イメージとしては陶芸家の先生に入門みたいな感じです。

設計の仕事

YM:今の仕事の割合としては、住居や店舗、どれくらいでしょう。

塩入:メインは住宅ですが、その他の依頼話をいただくこともありますし、広く建築って意味ではあまり変わらず、いろんな形でお受けしています。

YM;なるほど。デザイン系事務所さんなので、割と個性的なものも作りたいと思うんですが、実際作っているときに、自分の個性はどれくらい出している感じがしますか。

矢﨑:建築の面白いところとして、個人の意見じゃなくて、まずクライアントさんがいて、かつ建築の法規や条件があり、工務店さんにお願いしたり、いろんな人が関わって作られるっていう。自分達はそれを指揮するような立場で、つまみを調整するというか、いろんなコントロールを含めて創作に繋がっているイメージがあって、それが面白いと思うんです。
それで、何かずば抜けたセンスがあるから建築家っていうのとはちょっと違って、それも面白いところかなと思います。

YM:人が住むところですもんね。

矢﨑:勿論お客さんからの要望もあるし、僕らが考えている建築理論もある。しかも今は僕と塩入の二人でやっている状況なので、作っているうちに自分の当初の考えからどんどん成長していって、最終的には想像外のものが出来上がることに面白みを感じます。

楽しいこと、大変なこと

YM:例えば私みたいに、アクセサリーや小物だと、1回サンプルを作って良くなかったら簡単にボツにできるけど、家ってそういう訳にはいかないですもんね。

矢崎:いろんな方法があって、例えば僕らは模型をすごいいっぱい作るんです。

YM:そうか、模型というものがありましたね。その辺りも今は技術が進んでいそうですね。

©️ARCHIDIVISION

矢﨑:模型に加えて、CGも多用します。それでお客さんや工務店さんとコミュニケーションを取っていきます。工務店も経験豊富な方が多いので、僕らが投げたことに更にもっといい意見を返してくれることも多くて、それが結構興奮ポイントですね。

YM:お聞きしていると本当すごい楽しそう。でも大変なこともあるんですか?

矢﨑:現場では必ず予期していなかった問題が起こります。工務店側も工夫をしてもらわないとできないという状況が発生するので、そこでもやはりコミュニケーションが重要になってきます。

塩入:結局は人対人なので。私たちの作ってもらいたいものをお願いするにはどうすれば伝わるか、雰囲気作りもあわせて考えます。

Ryme et Flow.アトリエの空間

コンクリートの柱が生んだ化学反応


塩入:ここ(Ryme et Flow.アトリエ)でもありますよ、この柱(部屋中央のコンクリートの柱)のところは、コミュニケーションから生まれたデザインになります。

YM:上30−40センチくらい空いていますね。

コンクリートの柱は3本。
天井には繋がっておらず、夜はライトが点灯して
天井に光が映る。

塩入:最初は天井につなげていたんですけど、これ上からじゃないとコンクリート入れられないよねって話になって。

YM:へえ、コンクリートって上から流し込むんですね。

塩入:そのために最低これくらい(天井の隙間)いるよねって。面白いので結局そのまま作ったんです。よりフェイク感が出るというか。

YM:ほんとなんだか、ギリシャ神殿の遺跡みたい。

塩入:列柱、廃墟みたいな感じがでるな、と。化学反応的なところです。

矢﨑:建物の中でコンクリートを打つのって普通じゃないので。基本はコンクリートをポンプ車で持ってきて、チューブで流し込むんですが、ここにそんなスペースは無いので、バケツを肩にかけて手で整形しているんです。

YM:ここは大変なポイントだったんですね!ありがたく使わせていただきます。

ポールダンサーのための部屋

YM:この部屋を作ったきっかけは何でしたか?

矢﨑:ここのオーナーからの要望が「ポールダンサーが住める部屋」だったんです。賃貸なので誰が住むかわからないけど、ダンサーが住める部屋。そこで仮想のポールダンサーの人物を設定して、それに対してどう作っていこうかっていう出発でした。

YM:床をガラスにして光らせるというのは、その時からのアイデアなんですか?

外からの光が床のガラスに反射し、
コンクリートの壁全体に乱反射する
夕方のマジックタイム

矢﨑:もう一つ特殊な要望があって、オーナーがこの強化ガラスを手付かずのまま持っていて、何かに使いたいとのこと。床に使うのは僕らの提案でした。

YM:じゃあポールダンサー、プラス強化ガラス、つまり光る床にしようというアイデアが。

塩入:そうですね。コンクリートで打った列柱の力強さが、踊りの身体性と応答するみたいなイメージが二人の中にありました。
あと物理的な条件として、ここが1階の部屋なので、下が建物の基礎になってる。
その基礎が(ガラスの床の下に)連続して隆起している。フェイクなんだけど、作り方の背景に関連づけたようなものが自律して立ち現れている。
既存の古いコンクリートに対して新しいコンクリートが入ってきて、ガラスを床にしたことで、下の床自体もそのまま以前のコンクリートが残っているような状態になった。

家財搬入前の記念撮影。
ガラスの床の下にLEDが入っていて
ライトアップできます。
ポールダンスの柱は外してもらいましたが
残したままでもよかったかな、、と考え中。

コンクリートの1階、鉄の3階

YM:このガラスの床は1階だからできた訳ですね。

矢﨑:そうですね。コンクリートを打つのも1階だからできた。3階は鉄で構造体を作って入れてるんですが、鉄は軽いので上まで運びやすいですし。

©️中島悠二
ARCHIDIVISIONさんは、同マンションの
1階と3階の2部屋を手がけています

YM:面白いですね、1階だから、3階だからと要素が絡み合ってのものですね。

矢﨑:内装リフォームは表層だけ変えれば綺麗になる。でも僕らは、表層をただ綺麗にデザインするだけでなく、新しいものを古いものに挿入して、その関係で部屋をつくる。他のリノベーションのプロジェクトでも、多くに共通して考えている事です。

住まう場所、踊る場所

塩入:(内装のプレゼン資料を見ながら)床は全体の半分ガラス、半分コンクリート(土間)です。全部が靴を脱いで住む場所じゃなくてもいいし、踊る場所・踊らない場所で使ってもらう。必ず本当に踊る訳じゃなくても、使う場所として少し分ける意味でも。

YM:この部屋でもうひとつ特徴的なのが、お風呂やトイレも壁がないこと。これは何か意図があるんですか?純粋にその分広く見えたり、ミニマルになっているとは思いますが。

アトリエ玄関。
扉を開けてすぐバスタブ。

塩入:生活感みたいなものを一切排除する、まさにダンサーのショーみたいなね。オーナーさんとも話し合って出てきた考えなんですけど、むしろストイックに突き詰めた方が面白いんじゃないかっていうアイデアから出たものです。

YM:私もこのお風呂は好きですし、生徒さんにも好評です。

塩入:(風呂場を)見せるとなるとコストはかからなくなって、バスタブにコストをかけて選べたり。古いタイルもそのままで、そこも廃墟感がありますけど逆にインテリアになる。

矢﨑:どんなモノづくりでもそうなんですけど、建築においてもコストは基本的にあるんで、予算内でやるにはひたすら検討して、完成まで提案していく感じです。

建築とモノづくり

モノを見る視点

YM:お二人は建築を仕事でされていますが、もっと広い意味で、モノを作るということをどう捉えていますか。

塩入:用途のない場所作りとか、居て気持ちの良い場所、そういうことを空間に対して反映していくべきだと思います。光がこう入ってきて反射して溢れるとかプリミティブなことが重要と思っていて、空間に対するモノづくり、こういう形がここに置かれたらどう使うんだろうとか、注視して作っています。

YM:普段は建築ですが、家具や椅子、洋服とかも同じような共通した目で見たりされてるんでしょうか?

塩入:ばっちりしています。

矢﨑:他の色んなジャンルの本を読んでも、共感するところは多いなって思いますね。

お2人は音楽もお好きとのことで
多方面で話が合いました!

見る角度を変えて、本当に欲しいものがわかる


矢﨑:僕はモノづくりは今のところ建築を通してしかやったことないですが、住宅の打ち合わせをすると、最初は大体同じような要望が出てきます。
みんな育ってきた家が違うから、全く同じになるってのはおかしな話じゃないですか。角度を変えてみると、当たり前だと思っていたことが実はこんなに変わるんだよと、モノの見方を変えてあげるような提案はやりたいことの一つです。

YM:確かに、本当の意図はそこじゃなかったっていう事はよくありますよね。それを探してあげるのも一つの任務ですね。

矢﨑:やっぱり面白いんですよ。お客さんと話して、急になんか言うこと変わったなって瞬間があるんですよ。

YM:面白いですね。最初の目的から全然外れたり、ありそうですよね。

建築という仕事

建築を目指したきっかけ、好きだった建築

YM:ARCHIDIVISIONを始めるもっと前の、建築を仕事にしようとしたきっかけはありますか。

矢﨑:僕は家具が好きだったんです。僕が中高生くらいの頃、インテリア雑誌がすごい流行っていたんですよ。コルビジェやイームズ、ヤコブセン、日本人だと柳宗理とか。で、調べていくと、建築家が多い。

YM:建築家が作った家具だったと。

矢﨑:そうですね。それで建築にも興味を持つようになって、建築学科に行きたいなって思いだしました。

YM:尊敬というか、目指す建築家はいますか?

矢﨑:いっぱいいます。例えばイームズは建築も作ってるんですけど、やっぱり皆さん椅子のイメージがあると思います。椅子も当時の時代背景と技術を使っていますが、建築も当時の社会なり時代を加味したものを作っています。

YM:ミッドセンチュリー、大量生産の時代ですね。

矢﨑:そうです、それぞれの時代が持つ社会の課題を表現している建築家を僕は尊敬します。

YM:ものに対する背景や、生まれた理由など探るのがお好きですか。

矢﨑:そんな感じです、はい。

アトリエの家具も建築デザイナーのものは多いです。
マリオ・ボッタの椅子と
コルビュジエのテーブル

YM:塩入さんは?

塩入:僕は長野出身なんですが、元は大工さんになりたかった。それは自分の実家が割と好きで、今は築50年くらい、一般的なのび太の家みたいな民家ですね。いわゆる暗い廊下が真ん中にあって、部屋が並んでて。
子供ながらに、親に家を作ってあげたいなと思っていたら、家を作るのは大工じゃないんだと分かってきて。で、設計を目指すんですが、調べてちょうどよかったのが、工学部ではなくて環境学部、住環境を専攻という新しい大学でした。矢﨑は工学部で、僕も後々大学院で工学部に行くんですけど。そこで勉強しながら、元々好きだった民家的な空間は全国、世界中にあると知って面白くなっていきました。

YM:じゃあきっかけは、昭和ののび太の家。クラシカルというか、古き良きものに惹かれるという。

塩入:惹かれるところはありますね。産業革命から1970年代くらい、20世紀前半から中後期辺りのをよく見て好きだなって二人で言いながらやってます。

YM:私、銀座にあった、黒川紀章のカプセルのビル好きですね。丸い窓とか、昔に考えた近未来の感じ。

塩入:メタボリズムですね。私も好きです。

光と影

矢﨑:民家の話といえば、暗い空間すごい好きなんです。民家って暗いじゃないですか。

YM:確かに、ちょっと怖い感じの。

矢﨑:まさに、住宅ってちょっと怖さがあっていいと思っていて。すごくプライベートな空間なので。住宅って他人に共感されるべきものではなくて、もっとドロドロとした自分がそこに表れているもの。それが魅力的に感じます。光と影がしっかりあって、影があることで光を感じるのが僕らは好きです。

YM:わかります、ストイックですよね。だから私のこのアトリエも可愛らしい刺繍教室にはしたくなくて、できるだけ家具はモノクロにしてるんです。どうしても刺繍はカラフルなので、白黒やインダストリアル、フランスのアンティークのものなど置くようにしています。お二人はこの建築を作った身として、今の刺繍教室、インテリアとしてはいかが思いますか?

矢﨑:素晴らしいですね、本当に。

塩入:そういう思いがわかります。僕ら、使われているところを見るのが好きなんですよ。作るときに、どういう風に思いながら使ってもらえるかは特に考えていて。あんまり「こう使ってくれ」と決められた設計をしたくなくて、あくまで箱というかベース、余白を残すというのは議論するところです。

光の輝きと影のコントラスト
刺繍の魅力でもあります

今とこれから

YM:今後、どういうふうにお仕事をしていきたいとか、目標はありますか?

塩入:一番は住宅を作り続けるっていう。本当に住まうって何なのかをわかっていくと面白いかなって思います。だから規模を大きくするよりは真相を知っていきたい。もうちょっと大きい規模もやりたいですけど。

YM:手広くより深く、みたいな。

矢﨑:僕も近いですが、大きい話が来たらやってみたいなって最近は思うようになってきた。序盤で話したように、建築っていろんな縛りがある。条件が厳しいほど考え甲斐があるし、最終的に自分の考えじゃないものに成長していく。大きい建物の設計が来たらどんな風になるだろうって興味がありますね。

YM:ありがたい機会ですよね。

矢﨑:今は住宅の依頼が多いですが、都内の店舗内装もお話をいただいています。今やっている札幌の現場は住宅の横に共同住宅と小さいテナントがあって、その場所を地域を巻き込んだちょっとした施設みたいにしていきたい。共用部をすごく大きくとってあるので、テナントと協力して、そこに出来事が発生するような、余白を残した場所を作ろうとしています。全く違う業種の方に展示をしてもらうとか。

YM:そうやって、自分達の作った空間から2次文化というか、次の新しい出会い、新しいものが生まれて続いていったらすごく素晴らしいですね。

矢﨑:出会いの場所があると、そこでいろんな人の繋がりができてきて、面白い人を呼んで何か一緒にやりましょうって言いやすくなる。それ自体が自分の今後の創作にも繋がってくるだろうって確信もあったりして。

YM:なるほど、聞けば聞くほど楽しさしかない。ぜひこのアトリエでも異文化交流しましょう!
今日は本当にありがとうございました。

〈ARCHIDIVISION ホームページ〉

『第五回 建築家との家づくり勉強会』
ARCHIDIVISIONのお2人がゲストで5月に開催されます。

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