組織の強さを見る 集団凝集性と集団規範 後編
1.今回のテーマ
前回「組織の強さを見る 集団凝集性と集団規範 前編」では、この新型コロナの環境下における組織の維持として「集団凝集性」と「集団規範」の観点をあげ、それらが形成される土台となる組織の暗黙知の蓄積について意見を述べました。
後編となる今回は、その蓄積された暗黙知がどのように集団凝集性や集団規範へと変わっていくのか、アフターコロナ・ウィズコロナの時代において組織の結びつきを強めるためには何を意識すべきなのかについて、自分の意見をまとめたいと思います。
今回のテーマは「組織の強さを見る 集団凝集性と集団規範 後編」
2.意味付けと価値づけ
前回のnoteにて、組織の強さを見る観点として集団凝集性と集団規範をあげ、それらが形成される土台には、組織における暗黙知の蓄積があると述べました。(加えて、その暗黙知の蓄積は人間の五感を通じて無意識に蓄積されていくので、リモートワークと出勤でその蓄積量に違いがあるというのが前回のまとめ)
この蓄積された暗黙知が集団凝集性と集団規範に変化するには「意味づけ」と「価値づけ」の2つの過程があります。
「意味づけ」
・組織やチームという言葉に対して、自身の記憶から行動や出来事を連想すること
「価値づけ」
・意味づけられた行動、出来事を自身の記憶・価値観などと照らし合わせて価値判断すること
例えば、「自身の組織やチームの強みを考えて見ましょう」という質問をした時、質問された人は組織の強みという言葉に対して、蓄積された暗黙知の中から何かの出来事を連想します。上司から「○○の件は、任せる。」と信頼して仕事を任せてもらった時のことや困っている時に同僚や先輩が声をかけてくれてアドバイスもらったり、フォローしてもらった時の記憶など。
その記憶の連想自体が「意味づけ」であり、その出来事(仕事を任せてもらった・困っている時に周りがフォローしてくれた)によっていい結果がもたらされたことで自分としてはそれが「組織の強みだ」と思う。これが「価値づけ」です。
実際には、このようなプロセスを意識することなく、「意味づけ」と「価値づけ」は無意識にほぼ同時に行われています。
整理すればそりゃそうだよなと思いますし、細かく分解していても当たり前を積み上げているだけのようにも感じますが、前回の述べた暗黙知の蓄積や「意味づけ」や「価値づけ」のプロセス、これらが全て「個人の記憶」から始まっているということは重要なポイントかと思います。
つまり、自身の記憶(つまり自身の経験)にないことは、集団凝集性・集団規範になり得ないということです。
3.大事なことが伝わらない理由
前段にて、自身の記憶にないことは集団凝集性・集団規範になり得ないと述べましたが、具体的にはどういうことなのか。
上司やリーダーが自身の大切にしていることを集団規範にすえたいのに、それがメンバーに全然伝わらず思うような行動変化が生まれないという悩みは、人事としてマネジメント層と話をする時によく出てくる話です。
これは上司やリーダーが大切にしていることがそれを受けるメンバーの記憶と結び付かず「意味づけ」または「価値づけ」の中で途切れてしまっているということです。(もちろんこれだけではなく、行動変化の過程における問題点もたくさんあるかもしれませんが、そもそも何言ってるのかよくわからない、ピンときていないということは多いです)
上司やリーダーは自身の経験をもとに集団規範を形成しようとしますが、その言葉で連想できる経験がない場合「そもそも何言ってるのかわからない」となりますし、言葉から求められる行動はイメージがわくがその行動がもたらす結果を経験していない場合「なんでそれが大事なのか腹落ちしない」という結果になります。
例えば、「失敗を恐れずにどんどん挑戦する組織にしたい」とリーダーが考えた時「どんどん挑戦する」というのが日々の業務の中で具体的にどういうことなのか本人がイメージできないと意味づけができません。指示されていないけど新しい新規開拓を模索してみることだったり、新しい企画を自ら考えて上司に持ちかけてみることだったり、具体的な行動としては色々あると思いますが、それをそれぞれが連想できないと意味づけになりません。
また、行動が連想できたとしても、その行動がもたらす結果や意味に自身が価値を感じた経験がないと「言ってることはわかるけど、自分にはピンとこない」となり、行動変化につながらないのです。
4.集団凝集性と集団規範の形成
さて、ここまで「意味づけ」と「価値づけ」について述べてきました。
ここではこれらの関係性を踏まえ、集団凝集性と集団規範を強固にするためにどのようなことを意識すべきかについてまとめていきたいと思います。
ここまでのまとめですが、集団凝集性と集団規範は
①組織内における暗黙知の蓄積
を土台に
②組織の中で連想される行動や記憶を共通にし(意味づけ)
③その連想されたものにメンバーが価値を感じている状態(価値づけ)
をつくることが重要です。また、これらは順番も大切。
なので、意識すべきこととしては、
①これからの働き方の中で暗黙知の蓄積が疎かにならないようにコミュニケーションを工夫する
すでに暗黙知の蓄積が充分に行われている組織であれば、ここはとくに意識しなくても自然と進んでいくかと思いますが、なんとなく分離しそうな予感がしている組織であれば、まずはここを意識するとよいと思います。
最近リモートワーク時の雑談が重要だという話もよく聞きますが、テレビ会議などでつながっているとき以外のコミュニケーションも工夫できるところは多いです。
例えば、チャットのやりとりでスタンプを活用してみたり、組織の中でだけ通じるチャットの造語を活用してみたり、チャットのアイコンや名前に遊びを入れてみたりなど。仕事とは一見関係ないけど無意識にお互い目に入ったり感じたりするコミュニケーションをうまく活用することで、平坦なコミュニケーションよりも蓄積されていく記憶は増えていきます。
また、業務におけるコミュニケーションにおいても、感謝の言葉やフォローする姿勢などはちゃんと伝えることを意識したほうがよいと思います。堅苦しく考えずに気づいたときに1行ぽんっと送るだけでいいです。それが意図しないタイミングであればあるほど、相手の記憶には残るかもしれません。とくにマネジメントする立場にいる方こそ、こういった軽めの一言や何か困っていることあるかとまめに聞いてあげる姿勢が大切です。
一見「それ本当に必要なの?」と思う方もいるかもしれませんが、要はアクションの仕方はなんでもいいんですが、メンバーが交わる絶対量が減っていくと組織に対する思い入れの土台が薄れていくので気をつけようということです。
プライベートのライングループの中では、急に意味のないスタンプで盛り上がったり、そこでしか通用しない言い回しがうまれたりなどたくさんあると思いますが、ああいうイメージかと思います。
それを仕事に持ち込むなという意見も出そうですが、出勤していると同じような会話は普通におこっているので、チャットでやるとなじみがないだけかと思います。チャットとメールは全然違うものですよね。
②相手が連想できるアクションや記憶に置き換えて具体化する
これも十分に意思疎通がとれている組織ではとくに意識する必要ないですが、新たなにメンバーが加わったり、改めて組織の集団規範を定義していくときなどは重要かと思います。
上段でも述べた通り、意味づけをするもとになるのは自身の記憶です。なので、組織として求める行動に相手がピンと来ていないときは、求める行動と本人の過去の経験を結び付けてあげることが重要です。
リーダーは自身の経験をベースにこういう行動をみんなにもしてほしいと求めるアプローチをしてしまいがちですが、そうではなく相手の中にはすでに似た行動の記憶があると仮定して結び付けにいくアプローチです。
「●●さんって▲▲みたいな行動したことある?」と直球で聞くことも悪くはないと思いますが、相手の歴史やこれまで一緒に仕事をしてきた経験から「前にやってくれた◇◇みたなアクション」とか(若手であれば)「学生時代に✖✖で頑張ったと思うけど」というようにこちらから求めたいアクションを導いていくイメージの方が、より相手も結び付けやすいと思います。
同じ空間で働く分にはこれらの行動を見せたり並走したりすることが容易でしたが、リモートワークとなり見せて伝えていくという時間が減ったこともあるので、相手の記憶の中からうまく結び付けて説明していけるかというアプローチは重要かと思います。
③なぜそれが今必要なのかというつながりを説明する
これは働き方によって差が出るものではないですが、なんでそれやらないといけないのかという理由を相手が自身の中で重ねやすいストーリーに沿って説明していくことが重要です。つまり、相手が求めているストーリーをキャッチしていく必要があります。
A)企業成長や戦略といったビジネス視点を重視しているのであれば、
具体的な数字も含め戦略からブレークダウンしたストーリー
B)企業の社会的な責任や世の中への付加価値を重視している人なら、
ビジョンや会社が向かう方向性と結び付けたストーリー
C)自身の成長と経験に重きをおいている人であれば、
その行動がもたらす成長や成長した先の視点を踏まえたストーリー
といったように個々人にあわせて結び付けていくことで、求められる行動に自分なりの価値づけを行っていくことが容易になります。
②③を行う上で重要になる個々人のスタンスや価値観・背景などは日々の暗黙知の蓄積が多ければ多いほどのそのヒントが増えていき、思わぬコミュニケーションの中から相手とリンクする糸口が見えたりします。なので、コミュニケーションの量というのは絶対的な土台になると思います。
流れだけまとめるとこんな感じか。(殺風景ですが)
5.最後に
今回は集団凝集性と集団規範について前編後編と意見を整理してきました。
定量的な計測がしにくく、目に見えないテーマなのでなかなか言語化難しいなと思いましたが、日々自然と行っているようなことを改めて解像度上げて考察すると気づきが多く自身の成長にもとても重要だと感じたところです。
リモートワークが進むことによってこれまでは意識していなかったことが急に意識に上がってきて気になったりすることもあると思います。
そういうちょっと気になったことへ再度目を向けてその意味や目的を捉えにいくと新たな視点が手に入ったりするかもしれないですね。
今回はここまで。ありがとうございました。
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