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戦略人事と言われて考えること

1.今回のテーマ

「戦略人事」という言葉。時にはアプローチそのものを動詞的に説明していたり、戦略的思考に立った人事機能・組織という名詞的に活用されることもあります。が、戦略人事とは簡単に言えば、企業戦略・事業戦略に照らして人事施策を検討し、企画実行していくこと

その戦略人事、今では多くの企業経営者や人事担当者がこの言葉を掲げて人事機能の変革に動いているかと思います。

ただ、戦略人事の思考プロセスや具体的なアプローチが整理されているものはあまりない。今人事業界も情報流通量が過去より圧倒的に増えていますが、その中身は他社事例が多く、施策(オプション)のインプットという意味では大変参考になりますが、人は選択肢が多いほど選べなくなる心理があるのと一緒で正直自社で何を活用すべきか分からなくなることも多いかと思います。

なので、今日は自分自身が戦略人事として中身をデザインしたり施策を検討する上で大事にしている観点を整理しつつ、実践例の一つとして、それをEX(Employee Experience)の検討プロセスだとどう活用しているのかを紹介します。

戦略人事と言われて、従来の人事企画と何が違うのか。また、現在の自社の人事施策が戦略人事の観点から的外れになっていないか点検する上での参考になれば幸いです。

今回のテーマは「戦略人事と言われて考えること」

2.【整理】戦略人事の思考範囲

組織・人事に関する企画実行をする上で、日々様々なインプットをするかと思いますが、まずはそもそも戦略人事を思考する上で、何をその思考の範囲としていくべきなのかを整理します。

結論、私が考えるのは

①社会(政策・経済・法律・技術・歴史)
②企業(経営・戦略)
③現場(行動経済・行動心理)

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です。
※()はそのテーマの中でインプットしておくべき情報。PEST分析と微妙に名前が異なっているのは、組織・人事の文脈にフォーカスし、少し言葉を狭義にしたかったため

人材マネジメントの設計における思考範囲が採用〜代謝という横軸のイメージだとすると、戦略人事はまさに縦軸のイメージです。


加えて、特に重要だと思うのが、②企業ではなくて①社会です。

多くの人事担当者の方が②③、特に②に着目されているかと思いますが、
②の視点というのは企業の視点であり、ここからスタートするとあらゆる施策が企業特殊性に左右されてしまうため、施策のオプションが非常に限定されてしまいます。

※企業特殊性はその企業固有で生きる能力のことを指して使われることが基本だと思いますが、ここではシンプルに「その企業ならでは」という意味で使用します。

つまり、「うちでは合わないよね」とか「あの企業だからできるんだよね」っていうやつ。もちろんその視点は大事ですが、結果今の自社でできそうな施策を選んでいく人事。それは戦略人事なのでしょうか。

ちなみに②の視点も欠けてしまう場合は、「あの会社の企画面白そうだからうちでもやろう」とか「流行っているものにとりあえずのっかる」というくらいの感じで始まることがあります。アジャイル人事という言葉の弊害かもしれません。
(もちろん絶対ダメとは言わないですが、人事経験が長い方は社員にちゃんと説明できないものはやらないということをよくおっしゃいます。その通りだと思います。)

詰まるところ、戦略人事は企業経営と同じように自社の視点だけではなく、マクロ環境を捉えて構築していく必要があるということです。時には、現在の企業特殊性を否定し、新たな方向を示し舵を切る。それくらいのスタンスが必要だと思います。

特に組織や人事はPESTの枠組みに大きな影響を受けますし、加えて現在のPEST環境だけではなく、時間軸(歴史)も関係してきます。

例えば、新型コロナの影響で再度話題に挙がっているジョブ型雇用。これってどういう仕組みなの?これって自社でも検討できるんだっけ?というのは、世に出ているニュースだけでは絶対に分からず、等級制度の変遷を知らないとその本質の難しさを知ることができません。なので、①の視点に立たず、②の視点で考えると「会社の規模・ビジネスモデル」「風土・カルチャー」といった企業特殊性に軸足をおいた議論になりやすいですが、ジョブ型雇用の本質はその運用にあり、運用を難しくしているのは日本企業が成功してきた過程と日本社会の仕組みにあります。


ちなみに、人事の歴史を知る上で私が大変勉強になったのが、『人事の成り立ち』という書籍です。

人事用語も多数出てくるので、初心者というよりは中級者以上向けかなと思いますが、なんとなく人事知っているという方が読むとその歴史がわかるのでとても勉強になります。


3.【実践】EXデザインにおける応用

では、前段の整理をもとに前回の投稿にて紹介したEXのアプローチへ活かすとどうなるのかということで、EXデザインにおける応用をしたいと思います。(実際に私がEXデザインの上流で実施するアプローチです)

EXのデザインにおけるアプローチで、まずはリーダー層の想いを言語化・ストーリー化すると書きました。ここで、重要なのは②の視点でそれをスタートすると思いっきり企業特殊性に入り込んでいくという点です。なので、①を起点に言語化をスタートさせる設計をします。具体的には、いきなり「どんな会社にしたいですか?」を考えていくのではなく「どんな社会にしたいですか?(またはなると思いますか?)」という問いからスタートします。

自社が取り巻く環境を起点にしてもいいですし、自分が普段興味を持っているものでもいいですが、広く社会をイメージし、「こんな社会がくるのでは?」を発散させていく。発散の方法は付箋やホワイトボードを使う方法もあれば、グラフィックレコーディング、フリーディスカッションなど色々な形式が考えられます。

まずは広く社会の変化を捉えたうえで、自社が大事にすべきものに着目していく。この順番を大事にします。また、社会を考えるうえで各人の頭の中だけで考えるのではなく、あらためて社会の情報や他人の意見をインプットしながら、まずはできる限り発散させていきます。人間は限定合理性の生き物で、世の中の全ての情報を整理できる生き物ではないです。つまり、どんなリーダーでも予想できないことはあるし、知らないこともある。なので、時間をかけてでも改めて多くのインプットと意見交換をしながら、未来を創造し、企業として進むべき道を言語化していきます。

時間が限定されているワークショップやディスカッションの場合、多くは発散ではなく集約をゴールに設定されますが、自分の場合、最初もやっと感が残ったとしても発散に時間をかけて「もうなんも出ない」となってきたところから自然に集約していくという流れを組みます。ワークショップしながらしばらくはゴールを設けないことがあります。

①の視点を持つことの良さは、集約されたリーダーたちの想いには、言葉以上にストーリーが自然と含まれており、そこで抽出されたエッセンスを企業戦略・事業戦略・人事戦略に落とし込んでいくという流れに一貫性を保ちやすくなります。

なにより、議論に関わる人全員が①の視点を持って会話をすることで、「うちの会社の文化だと、、、会社の歴史からは、、、」といった企業特殊性に縛られない広い可能性をもって意見交換することができます。それだけでも多くの気づきがありますし、「自分たちの理想」や「これまでの成功体験をもとにした今の想い」に縛られることなく思考することができます。

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4.他社の話で印象的だった例

EXからは離れますが、これまでの他社の事例でまさに戦略人事だなと印象に残っている施策として「株式会社ドワンゴの新卒採用における受験料の導入」の話を挙げておきます。

ドワンゴの新卒採用における受験料について、当時非常に話題になり様々な議論を起こした施策ですが、まさに新卒一括採用が起こしていた社会問題を捉え、それを企業の施策として打ち出すことで採用市場における差別化と選考の効率化や質の向上など様々な有益な効果を生んだアイデアだったと思います。この施策を②の視点から議論するのは難しく、①の視点にたって考えないと施策として有効なのかは判断できないと思います。


5.最後に

戦略人事という名のものとに企業戦略に沿った人事戦略を考えるというのはもちろんその通りですが、企業戦略をただ人事の施策に変換するだけでは、その確からしさに迷いが生じることがあると思います。
そういう時には少し視座を変え、大きな文脈を今一度整理することで、その施策の意味を知ることができ、より妥当性の高い意思決定ができるのではないかという話でした。

今日はここまでにしたいと思います。ありがとうございました。

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