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語学の散歩道#20 四月の魚
日本さかな検定というものがあるらしい。
元来、暗記も肩書きも苦手な私は、出世魚の区別すらできない。
先だって、仕事の付き合いで訪れた料亭で美味しい刺身をいただいた。
「これはブリですか?」
と尋ねたら、
「いえ、ヒラマサです」
と返ってきた。
さようで。
ブリもヒラマサもカンパチも、私の目にはまったく同じものにしか見えないのだが、世の中には思いもよらぬ強者たちがたくさんいるものである。
そんな強者の一人が、太刀魚ユウキさん。現在、1級合格を目指して勉強中で、この日本さかな検定なるものを教えてくれたのも彼女である。
英検などの語学検定をはじめ、ワイン検定やチョコレート検定など、検定のネタには事欠かない検定大国、日本。
日本さかな検定は、通称「ととけん」とも呼ばれるらしいが、では、その実態やいかに。
というわけで、さっそく3級の問題へ挑戦してみよう。(以下は「ととけん練習問題」より抜粋)
<日本さかな検定3級>練習問題
<設問1>
酒蒸しや炊き込みご飯に、江戸発祥の佃煮でもおなじみのこの魚介。江戸時代からの庶民の味、「深川飯」にも使われるこの魚介を選びなさい。
○ アナゴ
○ イワシ
○ アサリ
○ マダイ
<設問2>
伊豆・稲取で多く獲れるこの深海魚は、地元の祝い膳やもてなし料理に欠かせません。目が大きく赤い体色の白身魚で、冬に脂がのっておいしいこの魚を選びなさい。
○ カジカ
○ キンメダイ
○ アカムツ
○ キチジ
<設問3>
広島名物のカキは、磯の香りが漂う濃厚な味もさることながら、グリコーゲン、ミネラルなどの栄養素が豊富。地元広島では雑煮の具としても使われます。栄養価が高いことから呼ばれるカキの別名を選びなさい。
○ 海のミルク
○ 海のバター
○ 海の大豆
○ 海のゴマ
全問正解で気をよくした私は、波に乗って1級の練習問題へ挑戦したのだが…
<日本さかな検定1級>練習問題
<設問1>
江戸時代には「殿様の魚」として珍重されていたこの魚は、あまりにおいしく翌年の籾種「もみだね」まで食べてしまうことから「モミダネウシナイ」と山口や広島で呼ばれています。この魚を選びなさい。
○ 伊佐幾
○ 柳葉魚
○ 玉筋魚
○ 愛魚女
読み方すら不明…
<設問2>
近頃、神奈川県鎌倉の新名物になってきたアカモクは、秋田や新潟などの日本海側では古くから食用とされギバサという名で知られている海藻です。ねばり気がありながらシャキシャキした食感が人気であるアカモクが属する科を選びなさい。
○ ホンダワラ科
○ イワヅタ科
○ テングサ科
○ コンブ科
オダワラ科なんかもあったり…
<設問3>
日本固有種の魚でないものを選びなさい。
A. タカべ
B. ホンシシャモ
C. クニマス
D. トビウオ
はて?
タカベとは一体誰でしょう?
と、ご覧のとおり早々にリタイアしたわけだが、正解が気になる皆さまへ、解答と解説を付記しておこう。
<設問1>
正解:愛魚女
解説:「賞味すべき(愛でるべき)美味な魚」を意味することから「愛魚女(アイナメ)」となったといわれている。また、アユのように縄張りをることや、アユに似てなめらかな見た目をしていることに由来し「鮎並」とも書く。
伊佐幾(イサキ)はスズキ目イサキ科に属する海水魚で、学名はParapristipoma trilineatum。柳葉魚(シシャモ)は学名をSpirinchus lanceolatusといい、キュウリウオ目キュウリウオ科の遡河回遊魚(川で産卵及び孵化し海で成長後に川に戻る魚)。玉筋魚はイカナゴと読み、スズキ目イカナゴ亜目イカナゴ科に属する魚である。
と、エラそうに書いてみたものの、私の記憶力では三歩も歩けばウナギのようにするりと抜け落ちてしまうのは言うまでもない。
<設問2>
正解:ホンダワラ科
解説:秋田県のギバサは八森(はちもり)の特産。茶褐色のギバサをゆでると鮮やかな緑になり、独特のねばりと磯の風味がする。三杯酢や醤油で食すほか、味噌汁の具にも使う。
やはり、オダワラ科も…(しつこい)
<設問3>
正解:トビウオ
解説:トビウオは西日本で珍重されている魚だが、台湾東部沿岸などでも漁獲される。タカベは温帯水域の岩礁に群棲する日本固有種。ホンシシャモは北海道太平洋沿岸にのみ棲息。長らく絶滅種に指定されていたが、昨年(2010年)山梨県西湖で発見されたクニマスはもともと秋田県田沢湖にのみ棲息していた固有種。クニマス発見の立役者は東京海洋大学准教授であるさかなクン。
![](https://assets.st-note.com/img/1713441265786-RtnWGXLjn0.jpg?width=800)
(伊豆大島ダイビングセンターHPより)
一筋縄ではいかないととけん1級だが、おそらく受検者にとってこの程度は朝飯前。本試験は内容も問題数もこんなものではない。
<第11回> ととけん1級試験問題
1963年から、伊勢エビやアワビなどの魚介や行商人を運ぶ「鮮魚列車」を半世紀以上にわたり運行してきた、関西の私鉄を選びなさい。
①近畿日本鉄道
②京阪電気鉄道
③南海電気鉄道
④西日本鉄道
「蟹のない人生なんて」とばかりに、文士が言葉を尽くして表現した無上の美味、カニ。作家が才筆をふるって称賛したうちより、毛ガニを表現したものを選びなさい。
①窓にほぐしていくと、赤くてモチモチしたのや、白くてベロベロしたのや、暗赤色の卵や、緑色の“味噌”や、(中略)それはさながら海の宝石箱である。(開高健『地球はグラスのふちを回る』)
②甲羅の裏の味噌は脂肪と蛋白に富み、これを指ですくって食べ始めると、フォアグラを食べたような感じで、急にお腹がいっぱいになってくる。(渡辺淳一「これを食べなきゃわたしの食物史』)
③まず足の付け根の肉を食べ、つぎには甲羅の中の味噌をほめ、それからそこに熱燗の酒をそそぎ、これまた微妙な味にしたつづみを打ち、最後に足の肉を賞味したのである。(立原正秋「夢幻のなか』)
④紹興の佳酒に醤油を少量加え、柑橘類の香りをちらりと添えたのが、脚の肉にも鉄の肉にも、甲羅の内側のみそにも、ほどよくしみ渡って、実に旨い。(阿川弘之『食味風々録』)
こんな検定にチャレンジする受検者もスゴイが、出題者のほうもやはり只者ではない。
ところで、欧米や日本では4月1日のことをエイプリル・フールというが、フランス語ではPoisson d’avril 四月の魚と呼ぶ。
その起源については諸説あるようだが、こちらの記事によると、
1582年(本文中では1564年となっている)にユリウス暦が改暦され、グレゴリオ暦に変わるまでは、3月25日が新年だったらしい。したがって、新年のお祭りが最高潮を迎えるのは4月1日。
ところが、その後1月1日が元旦として正式に採用されたため、日付の変更を忘れて4月1日を祝い続けた人々が「エイプリル・フール」と揶揄されたというものである。
フランス、ベルギー、スイスなどのフランス語圏では、4月1日には気づかれないようにできるだけ多くの人の背中に紙で作った魚を貼り付け、「ポワソン・ダヴリル!」と叫んで祝うのだそうだ。
なお、この四月の魚とはサバのことを指し、あまり利口ではなく簡単に釣れるため、4月1日にこれを食べさせられた人のことを「四月の魚」と呼んだという説もある。
さて、語源の真偽はともかく、魚にまつわるフランス語の表現が面白い。
サバのことはフランス語でmaquereau といい、なんだかあの人の名前に似ているが、実はこのマクロン、ではなくマクロには「(売春婦の)ヒモ・女衒」という意味もあるらしい。
何を根拠にそんな意味を表すようになったのかは謎だが、当のサバにしてみれば迷惑な話である。
魚を使った有名な表現には、être serrés comme des sardines 鰯のようにぎゅうぎゅう詰めであるというのがある。日本語ならさしづめ「鮨詰めの状態」というところか。
また英語でも、
The train I took was packed like sardines.
と、やはりイワシが現れる。アンチョビ(カタクチイワシ)の缶詰を思い浮かべる人も多いだろう。ついでながら、カタクチイワシとは、下顎が短く上顎だけに見えるところから名付けられたのだそうである。
ほかにも、
rire comme une baleine
爆笑する(鯨のように笑う)
être muet comme une carpe
一言も話さない(鯉のように押し黙っている)
という表現がある。
最後に、こんな使い方も。
ところで、料理の不味さでは定評のある(?)イギリスにも美味しい料理はある。
それは、フィッシュ&チップスである。
せっかくロンドンに来たのだから、これを食べずにイギリス料理は語れまい、と勢い込んで店に入ったが、ひと口にフィッシュといってもなかなか種類が多く、そのうえ魚の名前もわからないときては、すっかりお手上げであった。
Atlantis cod タイセイヨウダラ
Haddock モンツキダラ
Skate ガンギエイ
Whiting メルルーサ
Plaice ツノガレイ
Lemon Sole ババガレイ
Halibut オヒョウ
Sole シタビラメ
Rock Salmon アブラツノサメ
さて、皆さまはいくつご存じだっただろうか。
ちなみに、私のお気に入りのイギリス料理はシェパーズパイだが、同じパイでも魚を使ったコーンウォル地方のパイに面白いのがある。
![](https://assets.st-note.com/img/1713447103436-rCg4hodoD0.jpg?width=800)
(BBCのHPより)
そういえば、野球界のミスターの名言に、
「サバって漢字でどう書きましたっけ?
そうでした、そうでした、魚へんにブルーでしたね!」
というのがあった。
まあ、いいじゃないか、Ça va、Ça va* !
サバだけに!
*ここでの Ça va は「大丈夫!」の意。
※いつも幅広い知識と深い見識で示唆に富んだ記事を書いておられるAI無知倫理学さんとイギリス料理話で盛り上がる。
<語学の散歩道>シリーズ(20)
※このシリーズの過去記事はこちら↓
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