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コーヒーはお酒と違って「礼儀正しい本音」が聞ける。

2年前、こんな記事を書いた。

私が編集長をつとめるハフポスト日本版のメンバーが5日間連続で、東京・六本木の『ブルーボトルコーヒー六本木カフェ』に立ちます。来てくれた読者にはコーヒーを「500杯おごります」ので、いっしょに時間を過ごしましょう。

読者に呼びかける、ちょっと変わった文章だった。

当時、多くの読者が私の記事を読み、店の外まで人があふれ、一緒にコーヒーを飲んでくれた。

ネットメディアとして「クリック」以上のお付き合いを読者としたいと思って企画した。自分たちのメディアに対する率直な意見も聞けて、とても勉強になった。

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振り返れば、それは2018年5月のことだった。コロナという言葉さえ、ほとんどの人が知らず、自由に外に出られたころだ。

記事のことを今でも覚えてくれている人がいる。

井崎英典さん。

24歳でワールドバリスタチャンピオンに輝いたコーヒー界の有名人で、現在はコーヒーの魅力を伝えたり、コーヒーを生かした社会貢献をしたりする。「コーヒー・エヴァンジェリスト」の肩書きをお持ちだそうだ。

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井崎英典さん(株式会社QAHWA)

井崎さんは新型コロナによる外出自粛を受けて、毎日昼過ぎに30分だけ、コーヒーを飲みながらZoom上で会話をする「#BrewHome」という企画をはじめた。

参加者は毎回50人前後。ゲストがいる日もあれば、井崎さんが雑談をする日もある。医療関係者がちょっとした息抜きにみていることもあるという。

井崎さんが「この記事のことをずっと覚えていました!」と言ってくれ、この #BrewHomeにゲストとして呼んでくれた 。5月30日の午後1時30分。セブンイレブンで買ったコーヒーをマグカップに入れ、Zoomにログイン。

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井崎さんと話をしたのは40分間。私にとって学びとなったのは、

①コーヒーは人間を自由にする

②コーヒーはビールと違って「礼儀正しい本音」が聞ける 

の2点だ。

まず①コーヒーが人間を自由にする、というと大げさだが、少なくとも「自由な空間」は作れるのではないか。そんなことを井崎さんと話して感じた。

私が先ほど紹介した「500人にコーヒーをおごる」企画を思いついた動機にもつながるのだが、コーヒーは歴史的にみると、飲み物以上の存在感がある。

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Photo by Shane Rounce on Unsplash

たとえば、17世紀、ロンドンのコーヒー・ハウス。

店の中には新聞があり、政治パンフレットがあり、経済情報をやりとりする空間だった。コーヒーを片手に市民が話し合ったことは「世論」になった。

上流階級の「お作法」とも、家の中でのプライベートな「雑談」とも異なる——コーヒーの香りは、新しいタイプの「公共的な会話」をあやつる市民を目覚めさせたのだ。

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ハフポスト日本版は「会話が生まれるメディア」をポリシーとしている。対話や議論にならなくても、「会話」をしているあいだは、不思議な共存関係が生まれ、「自由な空間」が生まれる。

「異質な諸個人が異質性を保持しながら結合する基本的な形式」(法哲学者の井上達夫東大教授)でもある会話が出来るだけ社会に生まれるように、そしてそれが社会のダイバーシティを担保する一助につながることを信じている。

ハフポストの記事を読むと「何か言いたくなる」という声を読者から頂く。ネットでも、家族や友人間でも、様々な場で会話を生むお手伝いをしたい。

「職場」「学校」「家庭」にいるのとは違った「自分」を感じられるのが、コーヒーハウスの魅力だ。

そういう自由な空間づくりに、コーヒーは向いている。

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②コーヒーはビールと違って「礼儀正しい本音」が聞ける という点は井崎さんと話していて、考えさせられたことだ。

気分が一気に盛り上がるビールと違い、「朝の目覚めのために、コーヒーを飲む」という表現のように、コーヒーには、どこか「冷めた」感じの魅力がある(実際は暖かいけど)。

「コーヒーを飲むと一瞬、“前向きな現実逃避”ができる。意識が異世界に飛んでリラックスして戻ってこられる」と語る井崎さん。

でも、それってビールでも可能なのでは? アルコールも現実逃避に使われますが…。

そんな疑問に対して井崎さんはこう答えた。

「アルコールは素晴らしいけど、コーヒーは、その人の思考をクリアにしてくれる効果がある。自然と、感情も落ち着いていく」

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Photo by Anthony Tran on Unsplash

私はビールも好きだが、飲み会で盛り上がった「素晴らしいアイデア」は多くの場合は翌日忘れられ、解消されたはずだった「ストレス」は二日酔いとともに、戻ってくる。

「コーヒーを飲んでいるときは、感情の起伏がない。その時間を共に過ごせるから、けんかをしない。僕もいっぱい失敗したけど…。お酒を飲んでいると、ものすごくオープンにはなれます。ただ、オープンになりすぎて見せる必要もないところも(相手に)見せてしまい、それによってけんかが起きるという経験がある」

「コーヒーは、礼儀正しく、polite な本音が聞けます。やさしい会話ができる」

「コーヒーでの世界平和」をめざしている井崎さんらしい答えだった。

オープンすぎる空間で、瞬間的な興奮を呼び、中毒性もある「SNS」の衰退を感じる昨今だけに、とても考えさせられる(もちろんTwitterやFacebookには二面性があり、それがコーヒーハウス以上に「世論」をうまく作り出す素晴らしい側面はある)

今回井崎さんとは初対面だったが、2年前の2018年5月18日に書いた私の記事がキッカケだったというのがうれしい。そうした「持続性」があるコンテンツを作っていきたいなと考え、一方、ビールなどのアルコールが持つ「雑多な感じ」も魅力だなと思いつつ、Zoomの画面を閉じた。

当日の井崎さんとのやり取りはこちらから見られるようです⇒





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