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マスクの居場所

緊急事態宣言下となって早1ヶ月。最近の日課は夜中に家から自転車で5分くらいの距離にあるジムに筋トレをしに行くこと。

深夜12時になると僕はジムに行く準備を始める。いつものバッグにジム専用の紫色をしたボトルにシェイカー、プロテインを入れる。シャワーもジムで浴びるから、お風呂セットとタオルを部活をやっていた時に使っていたスポーツ用品店のアメリカの国旗模様をした大きめのビニールの袋に詰め込む。月1000円も払って水素水なるものを飲み放題なのだけど、たまに僕はその専用ボトルを忘れる。でも、今日は忘れなかった。元はしっかり取らなきゃ。水素水って一体なんなんだろう。

うちの母親は陰謀論者だから、僕にもその血が流れているし、なんだかんだスピリチュアルなものは信じる傾向にある(陰謀論は信じてないけど)。

母親が陰謀論者なのはまたの機会にするとして、ジムに行ってから着替えるのも面倒だから、家で、スパッツと灰色の半ズボン、他大学との定期戦のために毎年作るポリエステル100%の黒のTシャツ(僕のは袖を切り落として袖なし状態だけど)を着る。その上にヒートテック、長袖、パーカー、アウターを着て、最後にマスクをつけて家を出る。着すぎだって?昔から寒がりなんだからしょうがない。

筋トレが終わるとだいたい1時半。今日も自分の筋肉が成長したかをジムの鏡でチェック。ゲイは良い体の方がモテるのだ。うちには姿見がないから成長を感じるために写真を数枚撮る。もちろんSNSにあげたりなんかしない。めったに。アプリで知り合った人とかには送るかもしれないけど。

自転車は3時間まで無料で止められる駐輪場がジムの近くにあるからそこにいつも止める。今日は130番かな。だいたい128番か130番。または56番。清算所に一番近いのが130番。夕方から夜にかけては満車なことがほとんどだけど、こんな深夜には数台しか駐輪されていない。

ふと、ここで思った。あれ、誰もいないのになんでマスクつけてるんだろ。今日はマスクをつけないで帰ろう。雨が降った時にサドルを拭くためのタオルが入った、決して清潔とは言えないカゴの中にマスクを放り投げる。何だかいい気分になってきた。颯爽と自転車をこぎ出し、線路の下を通る急勾配な坂道をブレーキをかけずにくだる。顔で風を感じる。息を吸う。肺が冬の冷たい空気で満たされていく。久々に息苦しさを忘れる。そのまま同じだけの坂道を登らないといけないのだけど、マスクをしていない分いつもより少しだけ楽だ。久しぶりにマスクを外しているせいか冬の乾燥した空気にちょっと喉が痛くなった。それさえ懐かしく感じた。

これが普通の世界だったなんて。

もうマスクなんてずっと自転車のカゴの中に放り捨てておきたい気分だ。冬に喉が痛くなっても構わない。その時はマスクをしたらいい。

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これで終わったら陰謀論者の母親と変わらないな。ちゃんとマスクはつけよう、周りに他人がいるところでは。



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