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デザインマネジメントと感性(安齋:2016)

本研究は、デザインマネジメント教育における感性の役割と育成方法を探究したものです。著者は、デザイン創造における感性だけでなく、マネジメントや判断における感性も重要であると考え、大学4年生を対象としたデザインマネジメント授業の事例を通じてその育成方法を検討しています。

授業では、デザインマネジメントやプロジェクトマネジメントの理論学習と、グループワークによる実践的演習を組み合わせました。学生たちは、ビジネスモデル・キャンバスやカスタマージャーニーマップなどのツールを使用しながら、実際のプロジェクト計画を立案し実行しました。

結果として、学生たちは既存の感性を活かしつつ、マネジメントツールの使用を通じて新たな感性を磨いていく様子が観察されました。特に、ビジネスモデル・キャンバスの自由な表現や、問題解決・テーマ発見のマッピングにおける独自性など、創造的感性とマネジメント的感性の融合が見られました。

著者は、デザイン教育において創造的感性とマネジメント的感性の双方を育成することの重要性を指摘し、今後の課題として、マネジメントの感性を磨くための効果的な刺激とツールの使用方法の最適化、長期的な効果の検証などを挙げています。この研究は、デザイン教育におけるマネジメント感性の重要性を示唆し、新たな教育アプローチの可能性を提示しています。

このノートはAIによって論文を要約したものを一部修正しながら提供しています。引用については元資料を参照いただき個人の責任と判断によってご利用ください。

先行研究

本研究では、感性の定義と感性工学に関する先行研究を参照しています。感性については、原田昭の定義を引用し、「感性とは、ある刺激に対して働く能動的な能力を持った働きである」と説明しています。この定義は、感性が単なる受動的な反応ではなく、能動的な働きであることを強調しています。

感性工学に関しては、感性工学会のウェブサイトに掲載されている定義を引用し、「感性という価値の発見と活用によって、社会に資することを目的とする学問」であると述べています。これは、感性を工学的に応用し、社会に貢献することを目指す学問分野であることを示しています。

デザインと感性の関係については、井上勝雄編「デザインと感性」を参照しています。この文献では、デザイナーが美的感覚を表現するだけでなく、設計側がデザインの領域を科学的に解明するために感性という概念が用いられ始めたことが説明されています。これは、感性がデザインプロセスにおいて重要な役割を果たすことを示唆しています。

デザインマネジメントについては、JIDAの「プロダクトデザイン」を参考にしており、デザインマネジメントピラミッドの概念を取り入れています。このピラミッドは、デザインマネジメントの階層構造を示し、戦略的レベルから実務的レベルまでの各段階を説明しています。

また、著者は感性がどのように培われるかについて考察し、特に幼児教育における感性教育の研究例が多いことを指摘しています。良い作品に触れ、自ら創作活動を行うことで豊かな感性が養われるという考え方が一般的であることを述べています。この知見は、デザインマネジメント教育においても、理論学習と実践的演習を組み合わせる根拠となっています。

研究課題

本研究の主な課題は、デザインマネジメント教育において、創造的な感性だけでなく、マネジメントや判断に関わる感性をどのように育成するかということです。著者は、デザイン教育の中で、デザインマネジメントやプロジェクトマネジメント、ビジネスモデルなどのビジネス視点を早期に導入することで、マネジメントに関わる感性が醸成されるのではないかと考えています。

具体的には、以下の点が研究課題として挙げられています:

  1. デザインマネジメントに関わる感性を磨き、高めるための効果的な教育方法の探索: 従来のデザイン教育では創造的感性の育成に重点が置かれてきましたが、マネジメント的感性をどのように育成するかが課題となっています。

  2. マネジメントやビジネスに関する感性の定義と、その育成方法の検討: マネジメント的感性とは具体的に何を指し、それをどのように定義し、測定するかが課題です。

  3. 創造的感性とマネジメント的感性の相互作用や関係性の解明: 両者がどのように影響し合い、相乗効果を生み出すのかを明らかにすることが求められています。

  4. デザイン学生に対するビジネス視点の早期導入の効果検証: ビジネス視点を早期に導入することの長期的な効果や影響を検証する必要があります。

  5. マネジメントツールの使用と感性の発達の関連性の分析: 具体的なマネジメントツールの使用が、学生の感性にどのような影響を与えるかを分析することが課題です。

これらの課題に取り組むため、著者は大学生を対象としたデザインマネジメント授業の事例を通じて、学生たちの感性がどのように変化し、発達するかを観察し分析しています。特に、グループワークやプロジェクト演習を通じて、学生たちがマネジメントツールを使用しながら、どのように感性を発揮し、新たな感性を獲得していくかに注目しています。

研究方法

本研究では、大学4年生を対象としたデザインマネジメントの授業を通じて、学生の感性育成を観察・分析する方法を採用しています。研究方法は以下の要素で構成されています:

  1. 座学による理論学習:

    • 一般的マネジメントの概要

    • デザインマネジメントの定義(狭義と広義)

    • HCD、PDCA、ブレーンストーミング、KJ法、デザインプロセス、ビジネスモデル・キャンバス、カスタマージャーニーマップ、サービスブループリント、PIMBOK等の手法の学習

  2. グループワークによる演習:

    • テーマ:「札幌市立大学デザイン学部を○○するモノ、コトのデザイン」

    • 5名×5グループで構成

    • 各種マネジメントツールを使用したプロジェクト計画と実行

  3. 外部講師による体験ゲーム:

    • 北海道立総合研究機構開発の「デザインマネジメントゲーム」を実施

    • 2~3名×8チームで構成

  4. 成果物の分析:

    • デザインマネジメントの定義

    • 課題・問題点マップ、対象・テーママップ

    • カスタマージャーニーマップ

    • サービスブループリント

    • ビジネスモデル・キャンバス

    • プロジェクトマネジメント関連書類(計画書、体制図、WBS、課題管理表等)

    • 各プロジェクトの想定成果物(ポスター、パンフレット、ウェブサイト等)

  5. 学生の表現方法と感性の発揮の観察:

    • マネジメントツールの使用における創造性と独自性の分析

    • グループワークでの問題抽出過程における感性的側面の観察

これらの方法を通じて、学生たちがマネジメントツールを使用しながら、既存の感性を活かし、新たな感性を磨いていく過程を観察・分析しています。この複合的なアプローチにより、理論と実践の両面から学生の感性育成を捉えることを試みています。

実験結果

本研究の実験結果は、学生たちが作成した成果物とその表現方法から得られた観察に基づいています。主な結果は以下の通りです:

  1. ビジネスモデル・キャンバスの表現: 学生たちは定型的なテンプレートを超えて、自分たちのプロジェクトテーマに合わせた自由な発想で表現しました。これは、学生たちの感性が既存の枠組みを超えて発揮された例として捉えられています。彼らは単にツールを機械的に使用するのではなく、創造的にアレンジし、自分たちのプロジェクトに最適化させる能力を示しました。

  2. 問題解決・テーマ発見のマッピング: ブレーンストーミングをKJ法的にまとめたマップの最終プレゼンテーションでは、各グループが独自の表現方法を用いていました。これらの表現は、グループメンバーの感性が絡み合って生まれたものと考えられます。問題の捉え方や解決策の提案において、マネジメント的視点と創造的感性の融合が見られました。

  3. プロジェクトマネジメントツールの使用: WBS(Work Breakdown Structure)の作成に苦労する様子が見られましたが、この過程を通じて学生たちはプロジェクト管理の重要性と難しさを体感したと推測されます。初めは困難を感じていた学生たちも、徐々にツールの使用に慣れ、効果的に活用する様子が観察されました。

  4. サービスデザイン手法の適用: 多くのグループがモノのデザインではなく、コトのデザインをテーマとして選択しました。これに応じて、カスタマージャーニーマップやサービスブループリントなどのサービスデザイン手法が効果的に活用されました。学生たちは、これらのツールを使用しながら、ユーザー視点とビジネス視点を統合する能力を示しました。

  5. デザインマネジメントゲームの体験: 外部講師による体験ゲームを通じて、学生たちは施策の効果とコスト意識を実践的に学ぶ機会を得ました。このゲームにより、マネジメントの意思決定における感性の重要性を体感したようです。

  6. グループ間の多様性: 5つのグループがそれぞれ異なるテーマを選択し、多様なアプローチで課題に取り組みました。これにより、学生たちは様々な視点からデザインマネジメントを考える機会を得ました。各グループの独自性が、プロジェクトの多様性として表れています。

  7. 成果物の質と独自性: 各グループが作成した成果物(プロジェクト計画書、体制図、課題管理表、想定成果物など)には、学生たちの創造性と感性が反映されていました。特に、ビジュアル表現においては既存の感性が活かされつつ、マネジメント的視点が加わった独自の表現が見られました。

これらの結果から、学生たちがマネジメントツールを使用しながら、既存の感性を活かしつつ新たな感性を磨いていく過程が観察されたと言えます。彼らは創造的感性とマネジメント的感性を融合させ、より高度な問題解決能力と表現力を獲得していったと考えられます。

考察と残課題

本研究の考察として、著者は以下の点を指摘しています:

  1. マネジメントと感性の関係: マネジメントと感性の関係は、これまで感性に頼っていた部分をマネジメントするということではないかと考察しています。つまり、感性的な判断や創造性をより体系的に管理し、活用する方法を学ぶことが重要だと示唆しています。この観点は、デザイン教育におけるマネジメント的要素の重要性を強調しています。

  2. 相乗効果の可能性: デザインを学び、すでにある程度の感性を持つ学生たちが、マネジメントツールを使用することで、その表現にも感性を発揮しつつ、マネジメントの感性を磨くことができる可能性が示されました。これは創造的感性とマネジメント的感性の相乗効果と捉えられています。この相乗効果は、デザイン教育の新たな可能性を示唆しています。

    1. 教育方法の有効性: デザインマネジメント教育において、理論学習と実践的演習を組み合わせることの有効性が示唆されました。特に、実際のプロジェクト計画を立案し実行する過程で、学生たちは様々なマネジメントツールを使いこなす能力を身につけつつ、その過程で感性を発揮していました。この統合的なアプローチは、より効果的な学習成果をもたらす可能性があります。

残された課題としては、以下の点が挙げられています:

  1. マネジメントの感性を磨くための効果的な刺激の特定: どのような経験や学習が、マネジメントに関する感性を効果的に育成するのかをより詳細に研究する必要があります。特に、異なる刺激や経験が学生の感性にどのような影響を与えるかを比較検討することが求められます。

  2. ツールの使い方と表現への感性の活かし方の最適化: マネジメントツールを使用する際に、学生たちの創造性や感性をより効果的に引き出す方法を探求する必要があります。各ツールの特性と学生の感性の関係性をより深く分析し、最適な使用方法を開発することが課題です。

  3. 長期的な効果の検証: この教育方法が学生たちの将来のキャリアにどのような影響を与えるのか、長期的な追跡調査が必要です。卒業後の進路や職場での実践を追跡し、教育効果の持続性を検証することが重要です。

  4. 創造的感性とマネジメント的感性のバランス: 両者をどのようにバランス良く育成するかについて、さらなる研究が求められます。特に、一方に偏ることなく、両者を効果的に統合する教育方法の開発が課題となります。

  5. 他分野への応用可能性: このアプローチが他の分野の教育にも適用可能かどうか、検討する余地があります。例えば、エンジニアリングや経営学など、他の専門分野における感性教育への応用可能性を探ることが課題です。

  6. 評価方法の確立: マネジメントに関する感性をどのように客観的に評価するか、適切な指標や方法を開発する必要があります。感性の成長を定量的に測定する手法の確立が求められています。

  7. 個人差への対応: 学生個々の感性の特性や成長速度の違いに対して、どのように柔軟に対応するかを検討する必要があります。個別化された教育アプローチの開発が課題となります。

  8. 産学連携の強化: 実務界のニーズとアカデミックな教育をより密接に結びつけるため、産業界との連携を強化し、実践的な課題や最新のマネジメント手法を教育に取り入れる方法を探ることが課題です。

これらの課題に取り組むことで、デザインマネジメント教育における感性の役割とその育成方法について、より深い理解が得られると期待されます。また、この研究は、デザイン教育全体の革新につながる可能性を秘めており、創造性とマネジメント能力を兼ね備えた次世代のデザイナーの育成に貢献することが期待されます。

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