内部監査の在り方 Part. 10 - テーマ監査⑤ -
今回もテーマ監査の仕方を通して内部監査の在り方を考えて見たいと思っております。
テーマ監査の重要性⑤
今回もテーマ監査について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。以前の記事「内部監査の在り方 Part. 07 - テーマ監査② -」、「内部監査の在り方 Part. 08 - テーマ監査③ -」、「内部監査の在り方 Part. 09 - テーマ監査④ -」も合わせてご覧いただけますと幸いです。
このテーマ監査について継続してご紹介していると、テーマ監査の仕方や取り組み方等学べば学ぶほど奥深さを感じます。テーマ監査はその会社がリスク・インシデントと認識している点だけでなく、その会社の隠れた強み・秘めた実力を見出したり引き出したりできるなど、テーマ監査の仕方や取り組み方でどこにポイントを置くのか、結論としてどのような結果を期待するか(*「結論ありき」ではありません)で方法は千差万別です。業務の誤りを正すことも内部監査の役割ですが、企業価値の向上を引き立たせる・促進するのも内部監査の役割です。これは前回の記事でもご紹介しましたが、内部監査基準(一般社団法人 日本内部監査協会)にもそのように示しています。
そのため、内部監査の皆さんとしては被監査部門・業務の不正行為や是正・指摘だけでなく、良好な状況にも目を止めてその良好である要因や担当する従業員の姿勢等を評価して監査報告に記録することをお勧めします。また是正・指摘に関する改善策の助言等は、社内からの要望に応じて計画・実施することをお勧めします。
それでは今回も、次の3点を踏まえながらこれらについてのアイデアをご紹介したいと考えております。
どのように監査するのか(監査方法など)
どの観点で監査するのか(整備状況の確認、リスク管理など)
どの程度監査するのか(監査範囲、規模、深掘り度など)
【アイデア1】監査結果をある程度想定する
「監査結果をある程度予想する」とは、監査結果を決め打ちすることではありません。(*決め打ち:物事の展開や結論を前もって決めておき、それに向けて行動すること。出典:デジタル大辞泉・小学館)監査結果をある程度想定するのは、会社の発展にとって最も有効な改善策をアドバイスすることとその実現を支援するために、アドバイス内容を準備し、わかりやすく説明されている書籍や他社事例等資料を取り寄せるなどして準備するためです。監査終了後、内部監査は被監査部門に監査結果の説明とそれに対する被監査部門からの意見を聴取する機会を設けますが、監査結果として一部業務に改善を要する旨の指摘を行うとき被監査部門に一刻も早く改善策に着手してもらうことが重要です。そのためその重要性を理解してもらうためにも相応の準備が必要であると考えます。その準備のために、監査手続を作成するあたりで監査結果をある程度想定しておくことをお勧めするものです。ただし、例えば不正行為等不祥事を対象とした監査については、このお勧めは当てはまりませんのでご了承ください。また、監査を進めていくうちに事前に想定した監査結果と異なる指摘が発覚する場合も考えられますが、多少の誤差の範囲であれば想定のまま進めていくことも可能ですし、監査終了後に改めて改善策等へのアドバイス内容を修正することもできますので、事前に監査結果をある程度想定することが無駄にはならないと考えます。
内部監査は監査手続に沿って監査を実施していくなかで、もしかするとそこで新たに改善を要するポイントが変わったり、その他の要因が複雑に絡まった指摘事項になるかもしれません。そのようなことがあっても、事前に監査結果をある程度想定することで慌てることはありません。良い意味で新しい発見があるかもしれません。
業務改善を必要とする指摘があっても、業務改善の主役は被監査部門であり、そのことで大きな成果を上げるのも被監査部門です。最大の功労者が被監査部門になるように、内部監査がその実現を支援するいわば黒子に徹するようにお勧めします。
【アイデア2】深掘りする必要があっても次の監査の機会に
内部監査を実施していく中で、改善すべき原因の根が深い場合があります。
例えば、稟議書監査を行ったところ、承認フローで本来牽制機能として別部門の長がそれぞれ承認を行うよう決裁権限に定められているが、その当時の組織図では同一人物が別部門の長を兼務しており、内部統制の観点では牽制機能が効いていないことを検出したとします。稟議書監査は決裁権限に定められているとおりに稟議書の決裁が行われているかを確認することが目的なのですが、ここに別の問題点である牽制機能が効いていないことを検出したとき、内部監査の皆さんならどのようにしますか?稟議書監査の延長線上でこの別の問題点を深掘りしますか?この例は特殊なものと思われるかもしれませんが、人材の流動が多くなっている昨今では部門長クラスが退職してもその代わりとなる人材が社内に見当たらないために複数部門の長を兼務・兼任するケースは珍しくありません。会社の成長を滞らせないためにも、複数部門の長を兼務・兼任することは間違いではありません。しかし、一方の観点から見て間違いではないとしても、別の観点から見たら問題があると認識したのであればやはり改善する必要があるでしょう。
話しを戻しますが、それでは内部監査を実施していく中で改善すべき原因の根が深い場合は、今回の例では稟議書監査の延長線上でこの別の問題点を深掘りするのではなく、まずいったんこの稟議書監査を完了させたうえで別途改善すべき原因の根が深いポイントを監査テーマとした内部監査を実施することをお勧めします。理由は、内部監査を実施する前に作成する監査手続を監査実施中に軌道修正してしまうと、元々設定した監査テーマがぼやけてしまい、監査報告では「いったい何を監査したものなのか?」と収集がつかなくなることがあるためです。また今回の例では、改善すべきポイントが①決裁権限規程の改定、②兼務・兼任の回避のどちらかになると思いますが、これは一概に規程うんぬんのレベルではなく会社の考え方・方針と実態を踏まえて改善策を検討する必要があるものでしょう。決裁権限の完全実施や兼務・兼任の回避(牽制機能の有効化)は、元を正せば不正行為発生のリスクを低減させるための手段と考えられます。このような手段を改善策として検討し改善策を実施するのは、内部監査ではありません。決裁権限規程を改定するのは規程を所管する部門であり、兼務・兼任を回避するのは人事を所管する部門です。改善策を検討・実施する部門に監査結果と指摘事項を正確かつわかりやすく説明するためにも、やはり稟議書監査の延長線上で深掘りするのではなく、稟議書監査を完了させたうえで別途改善すべき原因の根が深いポイントを監査テーマとして設定した内部監査を実施することをお勧めします。
今回の記事でテーマ監査に関する内容はひとまず離れますが、テーマ監査で考えるポイントは本当に多いことに気づかされます。このような気づきは実際に内部監査を担っていると、回を重ねるたびに増えていきます。新たな気づきがありましたら、改めてご紹介したいと考えております。
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