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内部監査の在り方 Part. 08 - テーマ監査③ -

 前回に引き続き、今回もテーマ監査の仕方を通して内部監査の在り方を考えて見たいと思っております。 


テーマ監査の重要性③

 今回もテーマ監査について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。前回の記事「内部監査の在り方 Part. 07 - テーマ監査② -」も合わせてご覧いただけますと幸いです。

 このテーマ監査をなぜ継続してご紹介しているかといいますと、定期・定例監査はその会社にとってリスクと認識している点(業務等)やすでにインシデントに発展している点に対してモニタリング(定点観測等)するなどして防御のかたちで行うのに対し、テーマ監査は企業価値向上に貢献するため積極的な姿勢で幅広く/深く監査が行うことができますので、このテーマ監査のやり方次第で内部監査が企業価値の向上に大きく貢献できるからです。
 この姿勢は内部監査基準(一般社団法人 日本内部監査協会)に次のように示しています。


 内部監査は、ガバナンス・プロセス、リスク・マネジメントおよびコントロールの妥当性と有効性とを評価し、改善に貢献する。経営環境の変化に迅速に適応するように、必要に応じて、組織体の発展にとって最も有効な改善策を助言・勧告するとともに、その実現を支援する。

(引用:内部監査基準1ページ「1. 内部監査の必要」より)


 つまり、リスクと認識している点とインシデントに発展している点に対しては改善に貢献し、企業価値向上に必要な点を見定めて会社にとって最も有効な改善策を助言・勧告することが内部監査に求められています。定期・定例監査とテーマ監査をどのように使い分け、どのように業務配分を行うか等は、皆さんの会社の状況等によって変わりますし、社内からの要望もあると思いますので、それらに応じて計画・実施することをお勧めします。

 それでは今回も、次の3点を踏まえながらこれらについてのアイデアをご紹介したいと考えております。

  • どのように監査するのか(監査方法など)

  • どの観点で監査するのか(整備状況の確認、リスク管理など)

  • どの程度監査するのか(監査範囲、規模、深掘り度など)



【アイデア1】相手を知る事前ヒアリング

 前回の記事でも「相手を知る」ことの大切さをご紹介しましたが、具体的な方法はいろいろあります。その中でも事前ヒアリングを行うことについてご紹介します。
 事前ヒアリングの目的は、次の3点です。

  • 被監査部門・業務を知る

  • 本監査で行うヒアリングの対象者を知る

  • 監査項目を知る

 一つ目は「被監査部門・業務を知る」です。これは被監査部門の業務状況や監査対象となっている業務の遂行状況を知ることです。不思議に思われるかもしれませんが、例えば人事異動や入社・退職で従業員の皆さんの構成が変わっていたり、ジョブ・ローテーション等で業務担当者が変わっていたりすることで、被監査部門の業務状況や監査対象となっている業務の遂行状況が内部監査の皆さんが把握している内容では無いことがあります。また、これまで業務で使われていた書類・資料が変更されていたり、フォーマットが変更されていたりします。部門内で日々業務改善が行われることはもちろん良好なことですが、そのことを内部監査の皆さんが把握していないことがあるかもしれません。そのため、被監査部門・業務のことはよく知っている、以前にも被監査部門・業務の監査を行ったとしても、まずは事前ヒアリングでそれらの確認をすることをお勧めします。

 二つ目は「本監査で行うヒアリングの対象者を知る」です。これはヒアリング対象者がどのような方で、どのような業務を担当しているか等を知ることです。一つ目に類似しているように見えますが、違う点があります。それは、一つ目は内部監査として知りたいことを聞くのに対し、二つ目はヒアリングを通してヒアリングの対象者に、内部監査を行うことの主旨、本監査で行うヒアリングの質問内容等を知ってもらうことが目的となります。被監査対象となる部門・業務担当者は不安に思っているはずです。内部監査のヒアリングに慣れている従業員ばかりではありませんし、IPO準備期の会社や平均年齢が比較的低めの会社では被監査となること自体が初めての従業員もいらっしゃることでしょう。ヒアリング対象者の不安を取り除く意味でも、事前ヒアリングは大切な意味を持っています。

 三つ目は「監査項目を知る」です。企業価値向上に貢献するために積極的な姿勢で幅広く/深く監査が行うことが、テーマ監査の目的です。内部監査の立ち位置・目線で被監査部門・業務を見ることが大切ですが、被監査側の立ち位置・目線を想像して被監査側の立場になって見ることも大切です。そのためには、内部監査側があらかじめ考えた監査項目が、被監査部門・業務の発展にとって最も有効な改善策を助言ができるような方向性を持ったものなのかを確認することをお勧めするものです。もしかすると、被監査部門・業務担当者にはすでに業務改善策を持っており、すでに試行実施しているかもしれません。そのような良好な状況を、内部監査の立場としては後押し・応援したいところです。そうなると監査項目としては、アシュアランスよりはアドバイスの要素を多めにすることになるかと思います。



【アイデア2】業務資料をできる限り集める

 前回の記事で、書面監査を大切にしていただきたいことをご紹介しました。その大切にしていただきたい理由は、内部監査を実施するに当たっては、業務等の記録である業務資料を読み解いて把握して理解するためには量と時間が必要だと考えているからです。ここでは業務資料の量について考えてみたいと思います。

 業務資料とは、業務マニュアルに記録・保存・保管を義務付けている資料のことを指します。ただし、その資料だけでその業務が実際に適正に、効率良く遂行されているわけではありません。おそらく業務資料を適正に運用するための付属資料を作成していたり、業務資料を月次で作成するために日次で記録等を行っている資料もあるでしょう。そのような資料たちを目視またはできれば収集して確認したいところです。また最近では、販売管理システム・アプリケーションが比較的安価で優れた機能を持っており、業務の適正と効率が一段と向上しています。そのシステム・アプリケーションの構成、内容等を把握することは業務資料への理解を深めることになりますので、この業務資料の収集の際にそのシステム・アプリケーションがどのように使われ、どのようなデータをoutputしているのかを把握することをお勧めします。この場合、outputされた業務資料よりinputしている際のシステム・アプリケーションの運用状況、入力内容等が重要であることがわかります。皆さんの会社によっては、その販売管理システム・アプリケーションが内部統制のITAC(IT業務処理統制)とITGC(IT全社統制)の評価範囲の対象になっていたり、または対象ではない場合があるでしょう。しかし内部統制と内部監査は別の話です。内部監査では、業務で使われているシステム・アプリケーションであればそれらは監査対象です。ぜひしっかりとそのシステム・アプリケーションの構成、内容、利用状況等を把握することをお勧めします。


 今回の記事を通して、テーマ監査を行う前の段階で考えるポイントが多いことに気付かされます。その分、事前準備の時間と業務量は多いですが、内部監査の目的(内部監査基準を参照してください)を十分に達成するためにしっかりと準備したいと考えます。



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