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【創作大賞2024】「友人の未寄稿の作品群」20【ホラー小説部門】

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20: 未_白雪 のコピー のコピー


 むかしむかし、ある国の中心の、ある大きなお城に、とても美しい王子さまがいました。王子さまは毎日鏡を見て、自分の顔を見るのが大好きでした。でも、心の中にはいつも「もっと美しい人が現れたらどうしよう」という不安がありました。

 王子さまは鏡に問いかけます。

「鏡よ鏡、この国で一番美しいのはだれ?」

 鏡はいつも答えます。

「それは王子さまです」

 その言葉を聞くと、王子さまは安心して眠りにつきました。

 ある日、王子さまがいつものように鏡に問いかけました。

「鏡よ鏡、この国で一番美しいのはだれ?」

 鏡は少し黙った後に答えました。

「それは農夫の息子、白雪です。」

 鏡には美しい青年の姿が映っていました。王子さまはその答えにびっくりしてしまいました。今まで一度も、自分以外が一番であると、言われたことがなかったからです。王子さまは白雪がうらやましくて、うらやましくて、うらめしくなりました。

 そして、王子さまは思いつきました。

「こいつを消してしまえば、また自分が一番美しい存在になれるんだ」

 思いついてしまったからにはしかたがありません。忠実な家来に命じて、白雪の元へ毒入りのりんごを届けさせました。


 ある国のはしっこの、あるとても平穏な村に、白雪という青年がいました。とても優しい子でした。とても誠実な子でした。とても素直な子でした。とても美しい子でした。とても愛されていました。

 村人たちは白雪があまりにも美しいため、その美しさを守るために、白雪を清めます。白雪は毎日、村人たちから体をムチで打たれ、火で焼かれました。手足には深い傷が刻まれ、身体はアザとヤケドの痕で覆われましたが、顔だけは傷つけられることはありませんでした。
 白雪の見るに堪えない体とは対照的に、顔の美しさはますます際立ちました。村人たちはそれを見て、もっと白雪を愛しました。

 ある日、白雪は家の近くで見知らぬおばあさんに出会いました。道に迷っていると言うので、白雪は親切に道案内をしました。おばあさんは白雪の美しい顔に見惚れる一方で、体に傷を負った姿に心を痛めましたが、その使命のために無関心を装います。
 おばあさんはお礼に、真っ赤で美味しそうなりんごを一つあげました。

 家に帰った白雪は、りんごをシャクリと、一口かじります。

 すると、白雪はのどを抑えて苦しみ始め、倒れてしまいました。家族は何が起こったのかわからず、ただ見守るしかありませんでした。村のお医者さんが駆けつけて、必死に白雪を助けようとしましたが、白雪の呼吸は止まってしまいました。心臓が止まってしまいました。
 国のはしっこの平穏な村に住んでいる、とても優しくて、とても誠実で、とても素直で、とても美しい、みんなに愛されていた白雪は、死んでしまいました。

 でも、白雪の顔には満面の笑みが浮かんでいました。彼は最後の瞬間に、やっと自由になれたと感じたのです。愛されるために苦しむ必要がなくなったことに、白雪は心から喜びました。

 

 むかしむかし、ある国の中心の、ある大きなお城に、とても美しい王子さまがいました。王子さまは今日も鏡に問いかけます。

「鏡よ鏡、この国で一番美しいのはだれ?」

 鏡は今日も答えます。

「それは王子さまです」

 王子さまは、自分の美しさに浸りながら、その生涯を終えるまで、一生幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし、めでたし。



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