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【創作大賞2024】「友人の未寄稿の作品群」5【ホラー小説部門】

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5: 未_レトロ喫茶を訪れる コピー


 近鉄**駅から徒歩10分、現れるのは『喫茶**[懐かしい名前]』の看板。昨年9月にオープンしたたこのお店、店内に足を踏み入れると目に飛び込んでくるのは、平成初期に流行した電子ペット人形やブロマイド写真。色褪せたポスターが貼られ、懐かしいおもちゃやグッズが所狭しと並んでいました。

[適当な民家の画像、2階建てが好ましい]

 棚には「たまごっち」や「デジモン」などの電子ペットがディスプレイされており、その隣には平成初期に人気だったアイドルのCDやカセットテープが並んでいます。また、漫画雑誌やゲームソフト、当時の流行ファッションを切り取った雑誌のページなども飾られています。

 テーブルの上には、昔ながらのガラス瓶に入った駄菓子が置かれており、自由に手に取って楽しむことができます。カウンターの後ろには、当時の人気バンドのポスターが貼られ、カセットプレイヤーからは懐かしいメロディが静かに流れています。

 店内のインテリアもまた、平成初期を思わせるデザインです。木製のテーブルと椅子、レトロな照明器具が温かみのある雰囲気を演出しています。壁には、テレビ番組のポスターや、アニメのキャラクターグッズが飾られ、訪れる人々にタイムスリップしたかのような感覚を与えてくれます。

 こだわりが詰まった『喫茶**』では、訪れる人々が平成初期の懐かしい時代を思い出しながら、心温まるひとときを過ごすことができます。

[木目調のテーブルに灰皿が置かれている]

 看板商品は、カラメルソースのかかったカスタードプリン(320円)と、さくらんぼが添えられたクリームメロンソーダ(480円)です。

 カスタードプリンは、ほどよい甘さと濃厚な卵の風味が特徴です。一口食べると、ふんわりとした卵の香りが広がり、優しい甘さが続きます。カラメルソースはちょっぴりほろ苦く、プリンの甘さとぴったり合います。プリンは固めに仕上げられていて、しっかりとした食感が楽しめます。

 クリームメロンソーダは、鮮やかな緑色のメロンソーダにバニラアイスが浮かんでいて、とても華やかです。ソーダの爽やかな甘みとシュワシュワ感が心地よく、そこにバニラアイスのクリーミーさが加わり、まろやかな味わいになっています。さくらんぼが添えられていて、見た目もかわいらしく仕上がっています。

 今回はそんな平成レトロを感じられる『喫茶**』オーナーの秋津さんにお話をお伺いしてきました。

――お店のコンセプトを教えてください
秋津さん: 大人になっても心のどこかにある、子ども時代の懐かしい思い出を再現したいという想いがあります。大人になった私たちは、社会の喧騒に揉まれて、子どもの心を忘れてしまっています。大人になる過程にいる学生さんたちには、特に大切にして欲しいものです。親にねだって頼んだプリンやクリームソーダの輝きを、子どもの頃に感じた純粋な喜びや楽しさを味わってほしいと思っています。今の学生さん達が幼少期に触れていたであろうアイテムを多く置いているのも、子どもの頃を懐かしんで思い出してもらうためです。

――お店を開こうと思ったきっかけは
秋津さん: 15年前に脱サラして、別の場所で喫茶店を経営していたんですね。地域のお年寄りたちが集まるような店だったんですが、10年前に引っ越すことになり、一度店を閉めることになりました。しかし数年前、以前の店に通っていた知人から出資の話をいただき、新たにここを開くことができました。

――以前のお店と比べて、何か違いはありますか
秋津さん: 大きな違いはもちろん場所と、それと客層ですね。以前はお年寄りやママさん達が井戸端会議をしていることが多かったのですが、今は大学がそばにあるので学生さん達が大半を占めています。駐車場を設けているので、遠方からわざわざ車で来てくださるお客様もいらっしゃいます。

――逆に、以前のお店と変わらない点は
秋津さん: それ以外です。名前も、メニューも、外観も、間取りも、内装も、家具も、全て当時を再現しています。

――全てですか
秋津さん: 実はこの店、築年数を重ねた民家を改装した、いわゆる『古民家カフェ』ではないんです。私と妻と、出資者の方の記憶を元にして新しく一から建てました。だから、古民家『風』な見た目とは裏腹に、新築なんです。

――店内の装飾や家具は、当時のものを使用しているのですか
秋津さん: はい、ほとんどは娘が昔に使っていたものです。私が買い与えたり、あの子が自分のお小遣いで買ったりしたものですね。当時娘にとってはお店が遊び場でしたから、娘が好きだったもので溢れています。お店の雰囲気を作る大切な要素です。

――「大人」と「子ども」の違いについて、秋津さんの考えを教えてください。
秋津さん: 私は大人になった自分と、子どもの頃の自分とは、全くの別人だと思っています。あなたと私が別人であるように、大人の私と子どもの私は別人なのです。過去の自分は、自分ではないのです。今の自分は過去の自分とは違う存在でありながら、その記憶や感情は今も私の中に生き続けています。

――「大人になった今の自分」と「子どもの頃の自分」が同じではないとは、どういうことですか?
秋津さん: そうですね。それではまず、体のことから話しましょう。私たちの体は、常に新しい細胞に入れ替わっています。皮膚の細胞は6週間で新しくなるし、骨の細胞は長くても10年くらいで全部新しくなるんです。だから、子どもの頃の体と今の体は、全然違うんです。

――外見の変化ですか。他にはどうですか?
秋津さん: 心の面でも大きく変わります。好きだったものや考え方が、大人になると変わることが多いです。子どもの頃は嫌いだった食べ物が大人になると好きになったりしますし、考え方も成長して、より論理的になったり、いろんな視点から物事を見られるようになったりします。

――外見だけでなく中身も変わるということですね。
秋津さん: 中身に関しては、記憶も重要ですね。子どもの頃の記憶と大人になってからの記憶は蓄積の量が違い、時間が経つにつれ新しい記憶がどんどん増えていきます。これによって、過去の自分の記憶がぼんやりしてきて、考え方や感じ方が変わっていきます。

――社会の影響もありますか?
秋津さん: はい、あります。私たちは成長するにつれて、学校や家庭、社会の中でいろいろな経験をします。新しい役割や責任を持つようになり、それに応じて行動や考え方も変わります。学校のクラブ活動でリーダーになったり、アルバイトで働いたりすると、それまでとは違った視点を持つようになります。

――つまりは
秋津さん: つまりは、「大人になった今の自分」と「子どもの頃の自分」は、体も心も、社会の中での立場も変わっていて、全く別の存在なんです。だから、過去の自分と今の自分は同じ人じゃないと言えるんです。あの子はあの子じゃないんです。

――大人になることは悪いことでしょうか?
秋津さん: 大人になることには、いくつかの難点があります。まず、責任が増えることです。家族のことや仕事のことで、たくさんの責任を背負うことになります。これは、毎日重いプレッシャーを感じる原因になります。仕事の締め切りに追われたり、家族の世話をしたりして、いつも緊張している感じです。

 責任感が強くなると行動が制限されます。責任感が強くなると、やりたいことを我慢しなければならないことが増えます。家族や仕事のために、自分の自由を犠牲にしなければいけません。そうすると、自由を求める気持ちがどんどん弱くなって、無気力になってしまいます。

 また、夢や希望が現実の厳しさにぶつかってしまうこともあります。お金や時間の問題で、やりたかったことを諦めなければならないことがあるんです。大人になると、より夢が遠くなってしまいます。そして、体力も衰えていきます。年を取ると、子どもの頃はずっと元気に遊べたのに、大人になるとすぐに疲れてしまったり、病気になりやすくなったりして、体が思うように動かなくなることが増えます。

 さらに、人間関係も複雑になります。仕事や家庭での関係が増えて、ストレスの原因になることがあります。友達との関係が変わったり、信頼していた人との関係が壊れたりして、孤独を感じるようになります。また、新しいことに対する柔軟性も低くなります。新しい技術や考え方に対して抵抗感が出てきて、変化に対応するのが難しくなるんです。昔のやり方に固執してしまい、新しい世界についていけなくなります。

 大人になることは、良い面もありますが、同時に多くの困難も伴うんです。

――今後の展望や願いなどをお聞かせください。
秋津さん: このお店が、社会の中で忙しくなっていく若い世代や大人たちにとって、童心を取り戻す場所となってくれればいいなと思っています。常連の方々にも初めてのお客様にも、少しでも温かな気持ちを感じてもらえるように努めています。



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