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あたたかい場所

ここ数年、あまりガヤガヤしたところで食事をしていない。

騒がしいのは苦手だけれど、時々、懐かしくなる。

居酒屋で、お客さんそれぞれがおいしそうに食べたり飲んだりしていると、本当にいい空気が流れる。
適度ににぎわっている感じがいいなぁ。
隣の全然知らない人と、たまにやりとりがあったりして。

もう20年くらい前に、職場の近くにおいしい定食を食べさせてくれる喫茶があった。
60代くらいの女性がひとりで切り盛りしていた。
器も凝っていたし、雰囲気も良かった。
何より食事がおいしかった。
「滋味」という言葉がぴったりだった。

一度、すまし汁がとてもおいしくて「すごくおいしかったです。どうやったら、こんなにおいしく作れるんですか?」と聞いたことがある。
そうしたら「愛情をこめて作ってるだけ」と、にこやかに言われた。
あの人が言うのだから、本当にそうなのだと思う。
どれもこれも、本当においしかった。

そこで食事をしていたお客さんは、みんなじっくりと味わっていた。
ひとくち食べては「おいしい」と思う。
あたたかい空気で満ちていた。

しばらく通っていたけれど、遠方に引越しをするということで、閉店となった。
元気でいらっしゃるといいな。

あぁ、また何も考えずにおいしいごはんをのびのびとお店で食べたい。
何も気兼ねせずに、そこに居合わせた人がそれぞれしあわせに過ごせるのが最高だ。

おいしい食事や飲み物、居心地のいい空間で過ごせることは、私にとってかけがえのないものだ。
そういう場を提供してくださる方々を尊敬します。

私は元来薄情だという自覚があるけれど、「愛情」というものもいいものだな、と書いていて思いました。

あぁ、やっぱりかなわないな。