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BL短編集「裏ゲームで数多の男たちが彼を辱める」試し読み



小向が彼女と別れる三日前、花の金曜日に、共に酒を酌み交わし、ゲーム談議に花を咲かせたという。
そのとき、話題になったのが、PCゲームの「シンドローム」。

十八禁の男と男の恋愛ノベルティゲームだとか。
精神病棟を舞台に、プレイヤーは医師になって、シンドローム、いわば、症候群が見られる患者とやり取りをしていく。

医師として、治療を通し健全に心を通わせることもできるし、患者のシンドロームの症状に振りまわされ、精神崩壊して肉欲に溺れることもある。
ゲームの内容自体、依存性が高そうだが、さらに厄介なことには、患者の種類、ストーリーの分岐や、エンディングのパターンが、日々、どしどし追加されているらしい。

おかげで、はまってしまった人は、際限なく課金してゲームをやりつづけるという、現実でも正気を失いがち。
プレイヤーもまた症候群のようになって、ゲーム地獄に飲みこまれ、中々、抜けだせないことから「エンドレス・シンドローム」と称されているそう。

とはいえ、異名を持つ、その理由は表向きのもの。
真にプレイヤーを症候群に陥らせるゲームの特性は別にある、との噂。

ゲームにはプレイヤーだけでなく、「オーディエンス」としても参加できる。
プレイヤーのゲーム進行を覗くことができ、且つ、三つの選択肢を決めることができるのだ。

たとえば、診察室で患者が「先生、僕、おっぱいができたみたいで」と告げたとする。
実際は胸は膨らんでなく、患者の症候群による妄想。

どう対応するか、選択肢がだされるものを、それはオーディエンスが提示した三つ。
どれを選ぶかはプレイヤー次第とはいえ、「こうしてほしい」とのオーディエンスの望みが反映されるわけだ。

「いってしまえば、擬似セックスですね。
胸を揉まれたい人は『胸を触診する』。
マゾの人は『男のくせにと軽蔑する』とプレイヤーにおねだりするわけです。

たとえ、自分の望みどおり、選択してくれなくても『もう、いけず』『意地悪なんだから』って焦らされるのも悪くない。

プレイヤーも、大勢のオーディエンスに『抱いて』と請われたり、『犯してやる』と迫られるのが、ぞくぞくするそうですよ。
エッチなゲームプレイを、覗き、覗かれるだけでも、興奮するのだとか」

画面は半分に区切られ、片やプレイ中継、片やオーディエンスのチャット。
チャットの内容に目を通す間もなく「選択イベント発生」のボックスが出現。

チャット画面に、音声つきの文字が流れる。

「このあと、真夜中になって、いつものようにNくんは、病室に幸至太先生を呼びます。
しかし、いつもと何かが違うようです。

『おっぱいが恋しい。おっぱいを飲ませて』とせがんできます。
さて、幸至太先生はどうするでしょう?」

その質問の下に、ばーっと選択肢が並べられる。
おおよそ、三十個くらい。

「男からお乳はでないと、あしらう」と冷たい対応から「さあ召し上がれと、乳首をつまんで見せつける」と積極的なアプローチまで、さまざま。

この「幸至太」が本人とは限らなかったが「小向ならどうするだろう?」と考える。

詳細情報に「真面目一辺倒でお人好しな医師」と書かれていたとなれば、おそらく、羽目を外しきれていないのだろう。
と見て、「代わりに、蜂蜜入りホットミルクを持ってこようと、宥める」を選んでチャリーン。

制限時間のカウントがゼロになったところで、多数決の結果が発表される。
俺が選んだのと「恥じらいながら、胸を吸わせる」「そんなに見ないでと、胸を隠す」だ。

この三つが、プレイヤーの画面に反映されると「宥める」「胸を隠す」で行ったりきたりして、前者がクリックされた。
とたんに「やっぱ、幸至太さんは、むっつり!」「逆にやらしー!」「くっそ!めっちゃ犯したい!」と膨大なコメントが流れる。




「新人だ。使えるようにしろ」と紹介されたのは、マッチョで色黒で、顔立ちと髭が濃い、東南アジア系の若い男だった。

インド映画で主役を張りそうな、華やかな雰囲気がありつつ、生い茂る髪と眉と髭から覗かせる瞳は、犬っころのように、くりくりウルウルしている。

町から車で二時間かかる山奥の工場に「ドナドナと連行されるタイプに見えないな」と寝不足で開ききらない目を眇めた。

工場の作業員はほとんど、俺のように、暗い顔をして体は骨と皮だけのゾンビのようだし、なんなら、工場に訪れる前から、割と目が死んでいる。

「ヨロシク!マイラバ―!」

「米原な」

すかさず訂正するも「マイラバ―?」とまるで改めなさそう。
と、早々諦めたものを、ノーネクタイの背広男は「おいこら、一応、敬語使え。一応、班長なんだから」といっそ嫌味に注意をする。

「ケーゴ?ワカンナイ」

ナめた口を利いたものだが、背広男は怒るより、鬱陶しくなったらしく「使えるようにしろよ」と釘を刺して、去っていった。
「ナンダヨー」と口を尖らせるインド映画(後々のあだ名)に「ほら、いこう」と顎をしゃくって歩きだす。

「オレ、コレカラドウナルノ?」

「働いて借金を返すんだよ」と応じつつ、横目に見上げて「お前こそ、どうしてこんなとこに?」と問い返す。

「ア、聞イテクレル?オレ、侍、憧レテ、ナリタクテ日本キタノ!

デモ、侍、モウ、イナクテ、侍ナリタイナラ、舞台ニ立ツシカナイテ、教エテモラタ!デ、劇団入ッタケド、全然、舞台立タセテクレナクテ、バイトモ長ツヅキシシナイシ、借金増エルシ、モウ、ドウニモナラナクナッテ、逃ゲヨウトシタラ、捕マッタノ!」

幼児並に屈託なく語るものだから「その割には、肉つきがいいな」と呆れれば「日本人、優シイ!オ腹減ッタッテ泣ケバ、イチコロ!」と馬鹿っぽく見せかけ、ずる賢くもあるらしい。

快活さや事情からして、やはり、この工場にいないタイプで、どこか掴みどころがなく「ふふふ」となにが可笑しいのやら、両手で口を覆い、肩を揺らしだす。
「なに」と眉をしかめても、両手を取っぱらって、尚もにんまり。

「ダッテ、ココニクルマデ、誰モ俺ノ話、チャント聞イテクレナカッタカラ!
ウルサイト電撃、食ラワスゾッテ、怒鳴ラレテ、怖カッタシ。
ダカラ」

「ダイスキダヨ!マイラバ―!」と抱きつかれた。
熱い抱擁というよりは、体格差があるから、自分がぬいぐるみになって抱きしめられたよう。

はずが、今日は胸を揉みはじめて、すこしして、髪に口を潜りこませ「お前、ほんと、健気だな」と耳の後ろから囁いてきた。

「こんなところにいちゃあ、自分の身を守るのが精一杯で、そのために人を売ったり、踏みにじったりするのだって、当たり前にすんのに。
自分の班の奴が病院送りにされないよう、こうやって、ちっぱい捧げてんだからな」

独裁者といっていい彼に、サプリメント漬けおっぱいを差しだしたくらいで、勤務時間が減るとか、食事が豪勢になるとか、薄っぺらい布団の厚みが増すとか、優遇されることはない。
いくらでも、ノルマにいちゃもんをつけられるのを、ご機嫌取りして、思いとどまらせるくらい。

所詮、性処理と苛めの延長でしかないのが、今日はどうしたのか。
どこかムードを醸して、耳の裏に熱く吐息しつつ、低く囁いてくる。

サプリメントの副作用で、性欲が薄れ、胸を揉まれても、ほぼ無感覚なのはいいとして、耳はよろしくない。

どうも耳が弱いらしい俺は、前に噛まれたとき、声を漏らしてしまった。
次の瞬間、「鼓膜が腐る!」と殴られて、以降は、決して触れようとしなかったはずが。



幼稚園に迎えにいくと、保育士に肩を抱かれるカイトと、腕を組み仁王立ちの女性、その足にしがみつく男の子が待ちかまえていた。

「あの、ソラくん・・・」と保育士がおずおずと俺に声をかけ、教えてくれたことには、母親の足に隠れる彼の巾着袋を、カイトがドブに投げ捨てたらしい。

保育士が責めたててくるでなく、困っているようなのと、相手の巾着袋にワッペンがついているのを見て、察しつつも「すみませんでした」と頭を下げた。
眉を逆立てていた、相手の保護者は、俺が学生服姿なのもあって、即座に頭を下げたのに、やや怯んだようで、くどくど文句をつけてこない。

それまで、謝ることなく、ふてくされていたというカイトは、俺の態度に倣って、渋々というように「ごめんなしゃい・・・」と頭を垂れて、なんとか、丸くおさまった。

唇を尖らせたカイトは帰り道、口を利かなかったものを、公園に寄ってベンチに座ると、泣きだして、先の事情を明かした。

思ったとおり(幼稚園支給の無地の)巾着袋にキャラもののワッペンを「ママがつけてくれたの」としつこく見せびらかされて、キれてしまったらしい。

ワッペンをつけるくらい、訳なかったが「じゃあ、俺が」と口だしはできなかった。
というのも、母親か兄にしてもらいたいはず、だからだ。隣家の兄の友人では、意味がないわけで。

ヒロシと俺は、同い年の幼馴染。

近くに住んでいることもあり、中学に上がるまでは、よちよち歩きのカイトの子守がてら、しょっちゅう遊んでいた。
が、同居して面倒を見てくれていた、お婆ちゃんが亡くなってからは、あまり顔を合わせなくなり。

証券会社で働くヒロシの母親は、一週間、家に帰ってこないのはざら。
お婆ちゃんが亡くなっても、そのスタイルを変えず、家政婦を雇うこともいないで「高校生になったんだから」とヒロシにすべて任せたらしい。

詳しい事情は知らないとはいえ、どうも、生活費も渡していないらしく。
学校に通いつつ、朝から晩までヒロシはバイト三昧。

その上、家事や弟の世話をしては「体を壊すのでは」と心配し、どうせ暇だから「手伝おうか」と申しでても「おふくろが、他人を家にあげるなっていうから」と距離を置かれている。

ゴミ袋の山に倒されても、かっとならなかったのが、その言葉は聞き捨てならず。

鼻息を噴いて、起き上がったなら、そのままの勢いで口づけをした。
びくりと、頭を揺らしながらも、今度は突き放そうとしないで、むしろ首の後ろをつかみ、舌をねじこんでくる。

渇ききった喉を潤そうとするように、唇を密着させたまま、口内を隈なく舐めまわし、舌をからめとって吸いつき食んだ。
酸欠で目が回りだしたころ、唇に噛みついて、赤い唾液の糸を引きながら、やっと唇を放してくれて。

血走った目をして、口端から赤い涎を垂らしつつ、首をつかむ手を震わせている。
鼻がつきそうな距離で、飢えた肉食獣に凄まれているようながら、怯えることも、逃げることもなく「大丈夫」と火照った頬を撫でた。

「俺は泣かないから」



今年も多くの、むこうみずな夢を見る若者が、お笑い養成所に入所をした。

半年が経ち、早くも頭角をあらわしだしたのは、「ハンコツ」の財前、「たらし」の蘭丸。

入所したときから、ずば抜けて存在感があり、芸人としての才覚もあったらしく、一年経たないうちに、ライブに呼ばれたり、深夜ながら、テレビ出演をしていた。

「ハンコツ」は舞台に引っ張りだこで、財前単体では深夜番組出演。
「たらし」はテレビのほうで漫才をし、蘭丸単体であらゆるバラエティ番組に出演、ファッション紙などジャンル外の仕事をすることが多い。

仕事の類が違うのから分かるとおり、「ハンコツ」「たらし」はどちらも漫才を主軸いしながらも、芸風は対照的だ。

「ハンコツ」の漫才は、ボケの財前が容姿端麗を売りにしている有名人を、とことんディスるというもの。
「謙遜するふりして傲慢」「整形しすぎて表情筋死亡」などなど。

実名を口にしないとはいえ、特徴や経歴、出演作など、ヒントがちりばめられているから、丸分かり。
所々「じゃあ、あの人は?」とツッコミが口を挟み、財前が口をつぐんだり「いや、あの人はいい人だ」と、「じゃないほうの人」を冷やかして、笑いを取っているとはいえ、根本は容姿端麗至上主義への痛罵。

芸能界に中指をおっ立てるような芸風だけに、叩かれたり炎上したり、ライブハウスを追いだされたりしつつ、出演ライブに人が押しよせたり、深夜のマニアックな番組に隔週呼ばれたり、一部の人から高い支持を受けていた。

というのも、容姿をけなすにしろ、お笑いにありがちに「ブス」「ブサイク」と囃したてないからだろう。

「国宝級イケメン」「国民的美少女」といった崇められるような人を逆差別するとなれば、目新しく、肝が据わっていると評されもする。
何より、顔に青痣がある財前が歯に衣着せず、こき下ろすからこそ、胸がすくのだ。

財前の顔の青痣は生まれつきだそう。
今の時代、化粧で隠せるし、金をかければ、整形で消すことだってできる。

のを、「青痣を馬鹿にして笑う奴や世間が悪いのに、どうして俺が気兼ねしなきゃいけねえんだ」と、まさに「ハンコツ」の由来、反骨精神を胸に生きてきて、今の芸風に反映させているらしい。

そう、そんな財前にとっての天敵が「たらし」の蘭丸だった。

熱弁するも、寂しげに笑うものだから「ほんとに好きなんだ!」と抱きしめる。

衝動的で勢い任せだったから、つい、足の間に膝を入れてしまった。抱きしめたまま「蘭丸、好きだ!」と廊下のほうへ叫ぶと、体の揺れが股間に伝わったようで「ん」とほんの喘ぎが漏れる。

ぎくりとしつつ、引き剥がそうとせず、生唾を飲み込んだなら、耳に口を寄せ「蘭丸、好き」と囁き、すりすりと足で股間を揺すった。

同性とはいえ、セクハラというか、強姦一歩手前な性急な行為に、抗うどころか、「はあっ・・・」と安堵したように熱い吐息をして、背中に手を回してくる蘭丸。

足を揺すりつつ、耳をしゃぶれば「ふあ、ああ、あ、あん」ととめどなく、高く鳴いて、自ら足に擦りつけてくる。
俺のが固くなって、太ももの内に当たると、尚のこと、腰を揺らめかして。

あんあん抱きついて、腰をかくかくとし、早くも漏らして、くちゅくちゅと音を立てる。

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