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謎解きIQ付きミステリー「謎と共に去りぬ」

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昔懐かしい #IQサプリ や、人気の #ナゾトレ みたいな、謎解きIQ表示のある短編ミステリーを書いています。 【謎と共に去りぬ ―御曹司探偵 武者小路耕助 短編集―】
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#謎解き

遺された五線譜①/12 謎解きIQ150

朝の言弾(ことだま)  鉄骨階段を歩く時のカン、カンという独特な音が好き。上る時よりも下りる時の方が響くのは気のせいかな。  部屋を出て愛車に跨り、事務所を目指す。  ゴールデンウィークも終わって穏やかに晴れた朝は、風を切って走るのが心地いい。見馴れた景色も新鮮に感じる。  十五分ほどで大通りから一本入った道を右に曲がり、しばらく行った十字路を左へ進むと右手の角に煙草屋が見えてきた。珍しく人影はない。  しめた、と通り過ぎようとしたら無警戒の左側から声を掛けられた。 「おはよ

君が解くべき謎①/3 謎解きIQ140

大事件のフラグが立ちました  ここは歴史と菜の花の街、百済菜(くだらな)市。  その昔、かの国から伝わったとされる仏像が古寺から見つかり、市の文化財に指定されたことがきっかけで改名した。  元々この街は食用の菜の花栽培が盛んだったが、今では観光資源としても一役買っている。早春に咲きわたる黄色い絨毯は僕にとっても自慢の一つだ。  市の中心部を南北に走る大通りから一本入った道を右に曲がり、しばらく行った十字路を左へ三ブロック進み、角の煙草屋のおしゃべり好きおばちゃんに見つからない

赤鬼の唄①/6 謎解きIQ100

お姫様はどこに 「ここに人が住んでいるなんて、僕は信じません」 「でもね、鈴木くん。教えてもらった住所に間違いはないし、ナビもここを指してるよ」  先輩の愛車・ボルボV40についているナビ画面からも「目的地に到着しました」という音声を確かに聞いた。 「でもどう見たって公園ですよ、ここは」  助手席のウインドウを下ろし、デニムブルーメタリックの車体から顔を出した。  晩秋の穏やかな陽射しが降り注ぐ絶好の散歩日和ということもあって、枯れ色が目立つようになった芝生では小さな女の子を

怪盗ドキからの予告状①/2 謎解きIQ120

彼岸にて ここ百済菜(くだらな)市で花見と言えば、桜ではなく菜の花だ。  市の外れにある弥勒寺の周辺は昔から菜の花栽培が盛んな地域で、この時期には辺り一面が黄色い絨毯で埋め尽くされる。  見頃は短いけれど多くの観光客が訪れている中、彼岸の墓参りを終えて寺を後にした。 「この花々を愛でながら、どこかでお茶でもしたいものだね」  のんびりとした調子で薄曇りの空を見上げたのは、僕が働いている探偵事務所の所長、武者小路 耕助さんだ。  僕の祖母と先輩のお祖父さんが旧知の中と言うことも

過保護な年寄りたち①/3 謎解きIQ130

忘れられた手紙  階段を上って名探偵事務所の扉を開けると、芳(かぐわ)しい香りに包まれた。 「おはよう、鈴木くん」  窓際に立っていた、ここの主が振り返る。お気に入りのマイセンのカップを右手に、左手にはソーサーを持っていた。  この人の淹れる珈琲はそこらの喫茶店よりも格段に美味しい。 「おはようございます、先輩」  今日は早めに出たんだけどな、と思いつつ、肩からバッグを降ろして僕の机に置いた。 「いつも早いですね」 「家にいても暇だからね。ここから街並みを見るのもいいもんだよ

遺された五線譜⑫/12

立ち位置 「えぇっ、今回の件は無報酬だったんですか!?」  丁重すぎるほどの奥様からの御礼を受けて岩見沢邸を後にし、車に乗り込んでから衝撃の告白を聞いた。 「当然でしょ、こちらからお願いしたことなんだから」 「そりゃそうかもしれませんが」  このあたりが大企業の御曹司なんだよなぁ。いくらエムケー商事から補助が出ているからといって、仕事なんだから少額でも報酬を受けるべきなのに。 「奥様にもあんなに喜んでいただけたし、よろしいじゃありませんか」  助手席の美咲さんからもそう言われ

遺された五線譜⑪/12

涙のあと  そう言われても僕には何も分かっていない。奥様も美咲さんも戸惑った表情を浮かべている。  そんなことは気にもせず、先輩は自信満々といった笑みを浮かべたまま言った。 「奥様のお名前はサエコさんでは?」 「ええ、そうです。何でお分かりになったの?」  思わず目を見開いたのは奥様だけじゃなかった。  やっぱりあの楽譜は暗号だったんだ。そして、とうとう謎を解いたということか。 「鈴木くんのおかげだよ。それにしても岩見沢さんの発想は素晴らしい。自分が携わっている音楽を介して

遺された五線譜⑩/12

二銭銅貨 「こんな真剣に取り組んでいただいて……ありがとうございます」  応接間のソファに座るなり、奥様が頭を下げた。 「先日、武者小路さんに言っていただいた言葉、あれだけで私は十分です。週刊誌に何と書かれようと、捏造なんかしていないことは誰よりも自分自身が分かっているのですから」  こちらこそ、そう言っていただけるだけで……と思いつつ、紅茶に口を付けている先輩を横目で見る。素直すぎるほどに相手の言葉を受け入れてしまう人なので「そうですか、ではこれで」などと言いかねない。  

遺された五線譜⑨/12

僕にはお手上げです  とりあえず四つ目の仮説は置いといて、三つの仮説について僕たちは手分けして調査、検討することになった。  もう一度、岩見沢邸へお伺いして確認したいことがあるようで、先輩は奥様へ電話をしている。  その間に、美咲さんへ声をかけた。 「岩見沢さんが盗作しているかもと先輩が指摘したのは、あくまでも可能性ですからね。本気でそう思っているわけじゃないと思いますよ」 「ええ、わかっています。ただ、そこまで考えるのかということが少しショックでした」 「先輩は謎が解きたい

遺された五線譜⑧/12

四つの仮説  先輩はすぐにミニキッチンへ行き、珈琲を入れる準備をしている。  ソファに座った美咲さんはスマホを取り出した。  荷物を置いた僕は、デジカメのデータを見ながら楽譜を書いてみる。五線譜なんてないから、音名だけど。  ミ レ ファ ミ ソ ソ レ シ ソ ミ ミ #レ ミ ソ #ミ  ファ シ  シ ソ ラ ソ ソ シ ド ラ ソ ファ ファ  ド ソ ラ  ラ  ド ソ (上段:ト音記号、下段:ヘ音記号、太字はオクターブ上の音を示す)  岩見沢さんは茶目っ気の

遺された五線譜⑦/12

偽物の作法 「もう亡くなって十五年になりますが、二階にある主人の部屋にはたくさんの本が残っています。年に数回は虫干しをしていて、今年の春、ある本に折りたたんだまま挟まっていたのを偶然見つけまして……。走り書きのようですし、主人が作るものとは曲調が違うと思ったんですが、音符の書き方は主人のものに間違いありません」 「何か特徴があるんですか」  テーブルに置かれた五線譜を、先輩の指示でデジカメに記録した。 「黒丸を直線状に、しかも斜めにNの字を書くような癖があります」  言われて

遺された五線譜⑥/12

四小節  通された応接間は、建物の外観から想像していた通りの豪華な空間だった。  天井が高く、シャンデリアの上には木製のファンがゆっくりと回っている。飾り棚には様々な賞を獲った記念なのだろう、クリスタルや金文字の立派な盾が並んでいた。  大きな一枚ガラスの窓からは手入れの行き届いた庭が目に映る。きれいな花々は飾られた絵画のように部屋の中に彩を添えていた。  右奥のグランドピアノは亡くなられたご主人が愛用していたのかな。それにしては埃もかぶっていないし、蓋が開いて鍵盤が見えてい

遺された五線譜⑤/12

ライバル登場  あの記事が出てから一週間が過ぎた。トップ見出しではないものの週刊誌にも取り上げられている。中には奥さまが売名行為のために捏造したのでは、などというものまである。  きっと昨日のコンサートにも記者が大勢押し掛けたんじゃないだろうか。  先輩たちが楽しめていればいいけれど。 「おはようございます」  煙草屋のおばちゃんを避ける新しい妙案が浮かばずに、今朝も二十分ほどおしゃべりにつきあってきた。  いつものように先輩はソファに座り、日課となっている新聞のチェックをし

遺された五線譜④/12

未発表楽譜  今朝は先輩直伝の通話しているふり作戦を使って、最大最後の難関である煙草屋のおばちゃんポイントを無事に通過することが出来た。  ちゃんと忘れずに笑顔で会釈もしておいたから、悪い噂をまかれることもないだろう。  でもこの作戦、頻繁に使っているとすぐに怪しまれるのは間違いない。何かいい手を考えておかないとと思いつつ、ビルの前に自転車を停め階段を上っていく。  見えてきた扉のすりガラスからは明かりが漏れていた。 「おはようございます」 「おはよう。今日は早かったね」