赤鬼の唄

赤鬼の唄①/6 謎解きIQ100

お姫様はどこに

「ここに人が住んでいるなんて、僕は信じません」
「でもね、鈴木くん。教えてもらった住所に間違いはないし、ナビもここを指してるよ」
 先輩の愛車・ボルボV40についているナビ画面からも「目的地に到着しました」という音声を確かに聞いた。
「でもどう見たって公園ですよ、ここは」
 助手席のウインドウを下ろし、デニムブルーメタリックの車体から顔を出した。
 晩秋の穏やかな陽射しが降り注ぐ絶好の散歩日和ということもあって、枯れ色が目立つようになった芝生では小さな女の子を連れたお母さんがシートを広げている。
 歩き始めたばかりなのか、お尻をもこもこさせながら両手でバランスをとる姿が愛らしい。
 少し離れたベンチではお爺さんが日向ぼっこをしている。その視線の先を追うと、近くの保育園から来たのだろうか、小さな子供たちが引率の先生たちと駆け回って遊んでいた。
 遊具こそないものの、この広さといい、目に映る光景からも公園としか思えない。
「とにかく行ってみようよ。今回の依頼については、鈴木くんがメインなんだから」
 車を近くのコインパーキングに停め、公園らしき敷地の中にあるという依頼主の家を探しに奥へと進んでいった。

「今回もおじい様のご紹介ですか?」
 全国的な展開をしている総合商社、エムケー商事の創業者であり現会長が、先輩のおじい様だ。ミステリー好きなおじい様の影響を受けて、先輩は生まれ育ったこの百済菜(くだらな)市に探偵事務所を開いた。出身大学も同じ、百済菜っ子の僕も縁あってこの「武者小路 名探偵事務所」に勤めている。
 今回の仕事は、百済菜市の中心部から北西に約六十キロメートル離れた、ここ斜礼(しゃれ)町のとある方から依頼を受けていた。
「そうだよ。何でも、お相手は根っからのお姫様だから失礼がないように、ってさ」
「いいんですかね、僕で。こんなラフな格好してきちゃったし」
 遊歩道を歩きながら、長袖のTシャツにグレーのパーカー、デニムのパンツという服装の自分に目をやる。
「大丈夫。動きやすい服装じゃないとできない仕事だから」
「それはそうですけど。あ、ひょっとしてあれ……ですかね」
 木立が開けた先に、時代劇のロケでも出来そうなほどの立派な門構えが見えてきた。
「どうやら、ここのようだね」
 近づいてみると、その迫力に圧倒される。
「まるでお寺かお城じゃないですか。どんな人が住んでいるんだろう」

マガジン表紙2

赤鬼の唄② ポール登場

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