日曜日の赤い風船

幼な子を連れての
外食というものは
赤い風船を
膨らませて
膨らませて
膨らませて
ぱーんと割りに行くようなもの

冬物の子供服を買いに出掛けた
日曜日のショッピングセンター

駐車場から売り場へ向かう
エスカレーターを降りるや否や
息子の目に飛び込んだのは
色とりどりの風船

あ、ふうせんだ!
繋いでいた手を離し
たっと駆け出してゆく

追い掛けた先に待ち構えていたのは
ウォーターサーバー
展示パネル
手ぐすね引いた男女のスタッフ

はいと手渡された赤い風船に
はしゃぐ息子

今日で三度目
目的はただ一つのスタッフに
ひと言礼を言い
息子の手を引き
さっとその場を後にする

買い物を終え
レストラン街へ出向き
ハンバーグの店に入るや否や

たーっと店内を走り回り
人様の席を覗き込む
母はすいませんと頭を下げる
(風船は しゅーっと 膨らみ出す)

店員の配慮でいち早く置かれた
お子様ランチを黙々と
掻き込んだのも束の間
ぽいとスプーンを放り投げ
(また膨らみ)

スープをこぼし
隣に座る私の膝にも とばっちり
(また膨らみ)

ご飯をこぼした袖がべたべたに
(また膨らみ)

私が頼んだステーキセットが来たとたん
狙ったように「トイレに行きたい」
(また膨らみ)

やっと食べ始めた私の膝の上に
乗っかって来るものだから
口に運ぶのも一苦労
(また膨らみ)

落ち着かなく揺れ動く小さな体の石頭が
私の顎へとアッパーカット!
(また膨らみ)

最後に取っておいたステーキの一切れを
ひょいと手づかみ 放り込む
ソースの跡が虚しく残る
(また膨らみ)

おさんぽと言い
膝を降り
再び走り出す

食休みなど 夢のまた夢
こちらも再び追い掛ける
買い物袋から顔を出し
揺れ動く
赤い風船を横目にしながら

厨房の 入り口に立ち
こんにちは!
母は慌てて服を引っ張り退散する

店員の苦笑い
痛い よそ様のテーブルからの視線
(また膨らみ)

膨れに膨れた この風船
あと一気圧 加わったら……!

やっと席に戻ると
テーブルに置かれた二つのパフェ

第二の食欲をそそるのは
チョコレートソースに
生クリーム
バニラのアイス

一つはパパの分
もう一つはママからの取り分けで、
というのは名目に過ぎず
今日もこの子がぺろりと平らげるのだろう

まあいいや
最近 痩せなきゃと思っていたし
くれてやる

そう言い聞かせ
すっと息子の席の前にずらす縦長の器

しかし
最後のお楽しみをじっと見つめながらも
なかなか口に運ばない

そして
あどけない顔で
くるっとこちらを向いて言う

全部はいらない
だって
ママの分
なくなっちゃうでしょ
半分こしよう!

すーっと下がる空気圧

うん
半分こしようか

そう口にしながら
一人胸を撫で下ろす

これまで
懺悔と共に
意識の海底に葬ってきた
残骸の風船達

今日は どうにか
積み重ねずに済みそうだ

この小さな芽は
確かに育っている

だから
息切れしても続けられる
この役割

狭い車内に風船は一つで十分
息子がデザートを堪能する間に
パパとこっそり打合せ

丸い頭がふわふわとひしめくスマホショップを
迂回するルートで
駐車場へ向かうとしよう

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