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装い新たに「静嘉堂@丸の内」となって。静嘉堂文庫美術館

かかとの低い靴で丸の内の界隈をてくてく歩く。

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その昔、丸の内OLだった。
——といっても大企業勤めではない。皇居近くにある、小企業が沢山出入りするシェアオフィスの一角で働いていた。
スタートアップのような華々しさもない。「IT事業をやるなら」と田舎者のノリで雰囲気から丸の内を選んでしまった、残念な零細企業に勤めていた。

ほやほやの新卒だった私がそうした裏事情に気づくはずもなく、面接で通されたラウンジからの眺めに心奪われるのは一瞬だった。エレガントな街、丸の内。それだけが入社の決め手ではないにせよ、隣県の片田舎からやってきた小娘はあっさりと騙されたのだ。

——1年も経たずに会社が丸の内の賃料を払えなくなって、縮小移転するなんて。夢にも思ってなかったのにね。

そんなほろ苦い思い出を喚起しつつ、無垢だった頃の栄えある毎日を思い出させてくれる場所、丸の内。

明治生命館の中

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元は世田谷区・岡本にあり、「静嘉堂文庫美術館」として知られていた美術館。
静嘉堂@丸の内”として2023年10月1日、新たな門出を迎えた。
実はもともと、丸の内のオフィスビルに作りたかったのだそう。創立者の夢は100年以上の時を超えて叶った。

@はアットであり、アートを意味する。現代語のような軽やかな言い回しには、新しさや親しみやすさが込められた。こだわりのネーミング。

明治生命館の建物に入れば、静嘉堂@丸の内はすぐそこ。

三菱の第2代社長を務めた岩崎彌之助と、その息子である岩崎小彌太の父子2代のコレクション。東洋古美術品を中心に国宝7点のほか、重要文化財や20万冊以上の膨大な古典籍を所蔵する。

——三菱と言えば、三菱一号館美術館もこの近くだったな。

美術館が入る「明治生命館」は重要文化財。建物自体も貴重で素晴らしいもの。
ホワイエは天窓から自然光が入り、2階にも上がって見学できる。

ホワイエにある岩崎彌之助と岩崎小彌太の肖像。
代表的な近代洋風建築として知られる明治生命館。

静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅰ
響き合う名宝 —曜変・琳派のかがやき—

展示室

大理石の柱に囲まれた空間は、荘厳で品格たっぷり。
古典主義様式のアーチ形出入り口も、当時のまま保存されているらしい。

展示室はホワイエを囲むように4つ配置されていて、作品を近い距離で鑑賞できる。

国宝7件を前期・後期ですべて公開。見出しのあるわかりやすいキャプションも嬉しい。
音声ガイドでは、近世絵画史が専門だと言う館長の特別トークも聞けた。

目玉の《曜変天目》はもちろん、足利・織田・豊臣・徳川の名家に渡った《唐物茄子茶入 付藻茄子》本物のナスのようでありながら艶やかで美しい

これだけの名宝を手に入れた財力を思うと、ちょっと圧倒されちゃうね。


ミュージアムショップ

美術館入り口の手前にあるミュージアムショップは、ラインナップがかなり充実していた。

2021年に三菱一号館美術館で開かれた『三菱創業150周年記念 三菱の至宝展』で人気だったTシャツが販売されている。デザインがお洒落で、柿色・白茶・臙脂色・藍鼠と和の色名も素敵。

美術品はいわゆる“渋い”ものが多いとはいえ、モダンなスカーフやクッションもある。

ミニブックや小冊子のラインナップも豊富で、「図録を買うほどではないけれど何か読み物がほしいな……」と思っている人には向いているかもしれない。

ミュージアムショップの入り口
ピンズと一筆箋を購入。

おわりに

静嘉堂の名称は、中国の古典に由来しているらしい。
「祖先の霊前への供物が美しく整う」という意味。なんだか詩的。

それでも美術館にはぴったりな気がする。
だって国や人々の宝たる美術品は、祖先の霊前に供えても恥ずかしくない美しさ。ね?

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静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2丁目1−1 明治生命館 1F
TEL:050-5541-8600
公式ホームページ

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