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開館10周年と“1894”によせて。三菱一号館美術館

東京駅の南口から徒歩5分。

東京都・丸の内には独特の趣がある。
れんが色のアイコン的駅舎を起点に、整然としたストリートに立ち並ぶオフィスビルやファッションビル。街路樹は静謐に立ち並び、都会的なグレーの色合いがすっきりと全体に統一感を与えている。

そんな丸の内の界隈に馴染みつつ、西洋モダンを体現しているのがこの地にある三菱一号館美術館と言えるだろう。

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隣接する丸の内ブリックスクエアには「ÉCHIRÉ」や「Joel Robuchon」といったお洒落な店構え、庭園はいつ訪れても季節を問わず木漏れ日が心地よい。


1894 Vision ルドン、ロートレック展

三菱一号館美術館は、1894年に丸の内初のオフィスビルとして竣工された。その竣工年にちなみ、この美術館で所蔵している作品を中心に展示する運びとなっている。今回の開催にあたり、ルドンやロートレックのコレクションが豊富な岐阜県美術館が協力した。
また、2010年の開館から10周年のアニバーサリーを記念する展覧会でもある。

音声ガイドはアプリ形式で、スマホとイヤホンがあれば無料で使用できる。

クラシカルでトラディショナルな外観と内装、まるで洋館の中を歩いているように楽しめるのがこの美術館の良いところだ。

展示室

落ちたらそこは沼、「ルドンの黒」。
ルドンの黒は見ていると不安になる不気味さを湛えている、だがそれがいい。
東洋の宗教や哲学・文学に教養として触れているからこその表現であるところに心惹かれる。
第2章「NOIR - ルドンの黒」の説明文はきわめて秀逸で、この展覧会を訪れたことは大正解だったと確信した。

続く作品はポール・ゴーギャンによるもの。実直に金融業界で働いていた彼は35歳で画家に目覚め、タヒチにまで飛んだ恐るべきバイタリティの持ち主だ。そんな彼の人生を思いながら見るタヒチ関連の版画作品は感慨さえも湧き上がる。

山本芳翠は10年間も欧州で制作をしていたにもかかわらず、帰国するときに作品を積んだ船が消息不明になった悲惨な過去を持つ。だからこそ残存している作品は貴重なものだ。
日本昔話の『浦島太郎』を西洋画のタッチで表現した『浦島』は、フランスから凱旋する自身を投影しているのではないかと解釈されている。切なくも美しい風景がそこにはあった。

ロートレック氏は伯爵家生まれと恵まれた身分でありながら、夜の街に繰り出して居心地の良さを覚えつつ哀愁を感じていた。この退廃ぶりが堪らない。体が弱かったそうで早死にしてしまったのはいたたまれない。

ほかには、巨匠ルノワールやセザンヌの作品も見ることができた。「外国人のナビ」と呼ばれた、スイス出身ヴァロットンの版画も素晴らしく、ルノワールに師事していたという梅原龍三郎の絵画に師匠の影響を見るのもおもしろい。
特にルドンファンは必見の素晴らしい作品群でだった。晩年の『快方に向かうアムール』『神秘的な対話』『青い花瓶の花々』『アポロンの戦車』『グラン・ブーケ』の圧倒的な色彩。最後にポール・セリュジエの『消えゆく仏陀 - オディロン・ルドンに捧ぐ』見て解説を聞きながら涙が出そうだった。


ミュージアムショップ

ミュージアムショップ「Store 1894」ではポストカードや書籍、オリジナルグッズを購入できる。

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『ロートレックの食卓』林綾野・千足伸行 講談社

グッズのラインナップもかなり良く、ルドンの『グラン・ブーケ』をモチーフにしたエコバッグやハンカチなど人にも勧めたい商品が数多く並べられていた。

ミュージアムカフェ

ミュージアムカフェ「Café 1894」では、食事やスイーツを楽しめる。

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展覧会とのタイアップメニューも出ているため、展示を見にいくときはどんなメニューがあるか調べてから行くと楽しいかもしれない。

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「 Visionヴィジョン-モノクロから色彩へ-」
ルドンが描いた、現実には存在しない花々の雰囲気が出ていて素敵。

おわりに

一度は訪れてほしい、三菱一号館美術館。
レトロモダンな雰囲気を味わいつつ、数多の芸術作品に触れられる良い機会になるだろう。

今後も永く続いていくことを願って。

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三菱一号館美術館
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2丁目6−2
TEL:03-5777-8600
公式ホームページ

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