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「もう、いったい何なのよ」 薄曇りの午後、秋風に吹かれながら気持ちよさそうに庭の草むし…
ずっと闇の中を走っていた電車が一気に地上へ出た。いつもならオレンジ色に染まった夕暮れの…
神無月が終わって、街は一気に冬の衣裳をまといはじめていた。わずかに目につく取り残された…
最後に動物園へ行ったのは、いつ頃のことだったろう。小学生の時だったろうか、それとも中学…
開け放たれた出入り口から、小さな中庭が見えていた。朝だというのに、もう夏の陽射しがぎら…
探し物は、ふいに目の前に現れた。懸命に探していた時はどうしても見つからなかったのに、諦…
嵐が近づいていた。朝方は綺麗に澄み渡っていた空が、今は真っ黒な分厚い雲で覆われている。保田麻里はデザイン事務所の窓から空を見上げてため息をついた。 関西地方はすでに暴風雨なのだろう。ここでもビルの隣の大きな銀杏の木が風に揺れている。今朝、出勤前に見てきた天気予報では、夜中に紀伊半島に上陸すると予想されていた。まだ8月の半ばだというのに、まさか台風で帰宅できない事態になるとは、麻里は夢にも思っていなかった。 この数年の間に、台風は大型化していて被害も年々大きくなっている。
なぜ男は来ないのだろう。子どもの頃にかぐや姫のお話を聞いた時、最初にそう思った。幼いな…
「ちょっと近づかないで、すごく臭いわよ」 急に耳慣れた女性の甲高い声がフロアに響いた。…
紹介先の最寄り駅が待ち合わせの場所だった。時間に間に合うように事務所を出たつもりが、思…
八木さんは、いつも私のことを「のぶたちゃん」と呼ぶ。それは私の苗字が信じる田んぼと書く…
電車は三分遅れで、いつも亜由美が降りる駅のホームへと滑り込んだ。 やっと外の空気が吸…