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完全自殺マニュアルを読んだ感想

 『完全自殺マニュアル』は、現在高校生の私が、はじめて希死念慮を覚えた小学生の頃から存在を認知していた本です。高校生になり、良くも悪くも親の目を盗むことができるようになったので、ようやく購入することができました。18禁の帯がかけられているこの本を、未成年で購入したことが反抗期がない私の唯一の反抗なのかもしれません。小学生という身分から手軽に購入できなかった過去も重なり、羨望のような思いと、パンドラの箱を開けてしまうのではないか、という恐怖感をも抱きながら、高校生の私はこの本を手に取りました。
 結論から言うと、この本を読んでなにか決定的に私の中での自殺に対する価値観が変わったということはありませんでした。何度も賛否両論を引き起こし、有害図書指定をされ、18禁の帯がかけられたこの本を、私はどこか禍々しい呪物のようにさえ思っていたのですが、手に取った時に出てきたのは「意外と普通の本なんだな」という感想でした。しかし、この本の味噌はそこにあるのかもしれません。
 まるで世に溢れたハウトー本と変わらないように、平然と自殺の方法について書かれているこの本を読むと、自殺が大したことじゃないように思えてくるのです。「自殺は絶対にしてはいけない」「命は大切に」なんて言葉の重みが、この本を読み進めるごとにペーストされ、薄れていく感覚になるのです。この本のあとがきに綴られている『「イザとなったら死んじゃえばいい」っていう選択肢を作って、閉塞してどん詰まりの世の中に風穴を開けて風通しを良くして、ちょっとは生きやすくしよう、ってのが本当の狙いだ。』という狙い通り、この本を読み終えると、私はすこし息がしやすくなっていました。
 ちなみに私がこの本の中で特に気に入っている一文は『飛び降りが10代女子に人気!』です。テレビや雑誌などで散見されるような一文ですが、よく見ると世間でタブー視されている自殺についての一文なのが好きです。また、テレビや雑誌でよく使われている軽い表現で自殺について書かれていることによって、自殺という話題の重みを取っ払っているところも好きです。私は自殺が世間でタブー視されているからこそ、反抗的に自殺したくなってしまう部分もあるのかもしれない、と思っているので。
 この本を読んでも私は変わらず希死念慮を抱いていますし、なにか決定的に自殺への価値観が変わったこともありませんでしたが、この自殺へのタブー視を取っ払った1冊によって、心が軽くなったことは事実です。自殺を肯定されたことによって、必ず逃げられる逃げ場ができたような感覚です。『完全自殺マニュアル』という本の性質上、他人に気軽におすすめはしませんが、思い詰めている人にこそ響く本なのではないでしょうか。

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