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観劇コラム:宝塚宙組『アナスタシア』〜ブロードウェイ版との比較〜

『アナスタシア』。
2018年にブロードウェイで見てから本当に大好きな作品です。

今日はその『アナスタシア』の宝塚版を見てきました!
(2021/1/28 13:30公演 B日程)

『アナスタシア』
2020〜2021年宝塚歌劇宙組公演。潤色・演出:稲葉大地。主演:真風涼帆・星風まどか。1997年の同名アニメーション映画を基に2017年にブロードウェイで初演されたミュージカル。ロシア革命時に暗殺されたロマノフ朝ニコライ2世一家の唯一の生き残りのして知られるアナスタシア伝説を基にしている。

あらすじ

20世紀初頭ロシア、サンクトペテルブルク。ロシア革命後、街はボリシェヴィキの共産主義のもとに支配されている。

スリなどで生計を立てる詐欺師ディミトリ(真風涼帆)は街である噂を聞く。ロシア革命時に暗殺されたはずの皇女アナスタシアが生きており、パリにいる皇太后マリア(寿つかさ)が彼女を連れてきたものに報奨金を与えるというのだ。ディミトリはヴラド(桜木みなと)とともに偽のアナスタシアを仕立て上げ、報奨金を得ようと画策する。

ある日、記憶をなくした掃除婦のアーニャ(星風まどか)が出国許可証を得てパリに行きたいとディミトリたちを訪ねてくる。ディミトリたちは彼女をアナスタシアに仕立て上げられると感じ、彼女とともにパリに行くことを決意する。

一方、ボリシェヴィキの副総監グレブ(芹香斗亜)はアナスタシアにまつわる噂について調査していた。偶然街で出会ったアーニャに一目惚れするも、彼女がアナスタシアとしてパリを訪れようとしていることを知り、彼女らを追う。

アーニャは本当にアナスタシアなのか。そして旅路の中で惹かれあうアーニャとディミトリの恋の行方はー。

キャスト

真風涼帆は少し世間を小馬鹿にしているように見えて、実は辛い過去と向き合いながら未来に向かって生きる青年ディミトリを演じたが、その中でもスタイリッシュな男らしさというスター・真風涼帆色を出しているのがすごい。

星風まどかのアーニャは、気が強くぶっきらぼうな芝居がどことなくブロードウェイ版のクリスティ・アルトメアに似ていて懐かしさを感じる。また気高くドレスを着こなす様子はさすがだし、歌唱力もより上達しているように感じた。

芹香斗亜演じるグレブはボリシェヴィキの1人でありながら、小ネタを挟んだり表情が豊かだったりと、どこかお茶目でチャーミング。ブロードウェイ版のグレブ(特にラミン・カリムルー)は歌声の迫力が凄すぎて怖いほどに冷酷な印象を与えるのに対してかなり人間味があるから、最後にアナスタシアを殺せず崩れ落ちるところなどに心が痛む。

ヴラドの桜木みなとは今まで演じたことがないような頼りないおじさんな道化役を丁寧に演じた。反転、フィナーレではザ・男役のキラキラ感が爆発。そして、リリー(ヴラドの恋人)の和希そらは女役でも歌もダンスもクオリティがとても高い。外部のミュージカルでも活躍の幅がありそう。

Midokoro①

ブロードウェイ版からの大きな変化といえば、やはりディミトリの新曲「She Walks In (彼女が来たら)」。その他にも、ブロードウェイ版ではアーニャが1人で歌う「Journey to the Past (過去への旅)」もディミトリとのデュエットになったりと、ディミトリの発する言葉が多くなっている。

ディミトリが発することの多くが彼の過去への言及。特にパレードでアナスタシアを見て挨拶をしたという記憶について。それは、父親と一緒に暮らせた幸せな少年時代の象徴のような、その中での一層きらやかで華やかな一欠片の思い出なのかもしれない。

その記憶は二幕の「In a Crowd of Thousands (幾千万の群衆の中)」に繋がるから、ますますロマンティック。ブロードウェイ版はアーニャのアイデンティティと過去を探す旅、そして成長がメインテーマになっているが、宝塚版はアーニャとディミトリ、2人の運命的な愛がより感じられるものとなっている。

Midokoro②

ブロードウェイ版とのもう一つの違いは、劇団員の多さだろう。ブロードウェイ版では出演者が全部で20人弱くらいだった記憶だが、宝塚版ではA・Bグループに下級生が分かれているとはいえ、50人以上の出演者がいる。

そのため、ブロードウェイ版ではアーニャ、ディミトリ、グレブが舞台中に1人、ないしは2人だけでいるところに、街の男女やボリシェヴィキの男女といった様子で別の人物たちが登場する。例えば、「My Petersburg (俺のペテルブルク)」で何組かのカップルが登場したり、「Still (それでもまだ)」でボリシェヴィキのダンサーが登場したり。

特にそれが効果的なのが「The Neva Flows(ネヴァ河の流れ)」。舞台前方にアーニャとグレブがいて、その後方にボリシェヴィキに銃口を向けられ後ずさるロマノフ朝のニコライ2世一家がいる。家族全員を殺されたという恐ろしい過去を乗り越え生きるアナスタシアの強さと、革命の理想のため辛く苦しい決断を迫られるグレブ/グレブ父の苦悩がより際立つ。革命から生まれた悲しい現実に胸が痛む。

『神々の土地〜ロマノフたちの黄昏〜』と

アナスタシアが生きた時代はロシア革命前後の混乱の時代。そして、2017年宙組公演『神々の土地〜ロマノフたちの黄昏〜』はロシア革命前夜のお話。

『神々の土地ー』にアナスタシアは登場しないが、アナスタシアの一家や彼女に関係する人物は登場する。今回ディミトリを演じる真風涼帆は劇中でディミトリが住むユスポフ宮殿の主フェリックス・ユスポフを演じているし、アーニャを演じた星風まどかは、アナスタシアの姉オリガを演じている。何より皇太后マリアを演じた寿つかさが『神々の土地ー』でも同じ役を演じているのが面白い。

アナスタシアを今後観劇される方には是非『神々の土地ー』を見てから行かれることをおすすめしたい!『神々の土地ー』を見るとロシア革命に至るまでの流れがよくわかり、『アナスタシア』冒頭で少し描かれているアナスタシアと祖母の皇太后マリアの関係やアナスタシアの両親である皇帝ニコライ2世夫妻と皇太后マリアの確執に深みが感じられる。そして、グレブやその父親がどんな想いで革命に参加し皇帝一家を暗殺することになったかもより理解でき、グレブにより感情移入できることだろう。

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大好きな作品が大好きな宝塚で見られるなんて!とても幸せな1日でした!

ちなみにですが、今回の宝塚版では削られてしまったアーニャのソロ曲「Crossing a Bridge」も名曲なので是非聞いてみてほしい!アーニャが新しい街、新しい人生に一歩踏み出す期待と不安を歌った素敵な曲です。

明日は昆ちゃんの『マリー・アントワネット』だー!


(引用元:宝塚歌劇宙組公演『アナスタシア』公式ホームページより)

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