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山崎育三郎×朝ドラ『エール』〜ミュージカルの良さを伝え続けて〜

ミュージカルの良さを伝え続けて。


いっくん(山崎育三郎さん)が本格的にテレビに出演し始めてから約5年。

はじめは、いっくんが(ミュージカル俳優なのに)ドラマやバラエティに出ている!という目新しさと異質さと嬉しさで見ていました。そしてテレビの仕事が増え、ミュージカルの出演本数が減ると、「私はミュージカルに出てるいっくんが好きなのにな...」という気持ちにもなりました。

テレビもいいけど、ミュージカルに出て欲しい。

そのような声はきっといっくんも多く耳にしてきたはず。それでもテレビに出演し続けた、その集大成が今日のエールでの歌唱だったような気がします。

いっくん、朝から涙しました。

ミュージカルの良さって何だろう。

ミュージカルの良さって何だろう。

お芝居という意味ではテレビドラマと同じ。生のものという意味ではストレートプレイなど他の舞台とも同じ。


たぶん最も他と一線を画すのは、お芝居の途中で歌うことでしょう。


それは登場人物がセリフの代わりに感情を吐露する場として使われたり、場の盛り上がった空気を表現するために(時にはダンスなどと一緒に)使われたり。

そのおかげで、いきなり歌い出すから何かヘンという声ももちろんあったりするけれど、私はお芝居の中に音楽があるからこそ表現できることがあると思っています。そしてそれこそがミュージカルの最大の魅力だと思います。


じゃあお芝居の歌ができることって何なのか。


それは歌い手の心の中を、歌詞を超えて、表現することではないでしょうか。

栄冠は君に輝く

山崎育三郎さん演じる佐藤久志が甲子園球場で歌った「栄冠は君に輝く」。

全国高等学校野球選手権大会、通称”甲子園”の舞台で輝く甲子園球児、観客、その他大会に関わる全員のために作られた曲です。

戦争が終わって、堂々と、晴れ晴れと、野球を、スポーツを楽しめる時代になった。そんな時代に、これからの未来を担う若人たちが汗と涙を流して作り上げるダイヤの原石のような眩しい舞台。

戦時歌謡の歌い手でもあった久志は、戦後に自分も家族も”戦犯”と揶揄され、父を亡くし、酒に溺れる自暴自棄な生活を過ごしていました。

暗闇に生きる自分に「栄冠は君に輝く」のようなキラキラと輝く歌は歌えないと断る久志に、裕一は「お前じゃなきゃダメなんだよ」と語りかけます。

「栄冠は君に輝く」を作詞した多田(モデル:加賀大介さん)は怪我で甲子園出場の夢を断たれた元高校球児でした。そして裕一も久志も、戦時歌謡に携わったことで、若者を戦争に駆り立て死なせてしまったことへの自責や、周りからの冷徹な視線に傷つき葛藤する日々を過ごします。

多田も裕一も久志も、人生のどん底を味わった。でも、どん底を味わったからこそ伝えられることがある。

もう一度立ち上がって、その才能をみんなにエールを送ることで輝かせてほしい。


「栄冠は君に輝く」


そう書かれたボールを裕一から受け取り、久志はマウンドへと歩き出します。

広がる久志の世界

「雲はわき 光あふれて
 天高く 純白の球きょうぞ飛ぶ
 若人よ いざ
 まなじりは 歓喜にこたえ
 いさぎよし ほほえむ希望
 あゝ 栄冠は君に輝く」

(引用:うたまっぷ.comより)

「栄冠は君に輝く」のその歌詞自体は高校球児に向けられたものです。歌詞にもメロディーにも久志を連想させる要素はありません。


しかし、久志が歌い出したその瞬間に甲子園球場の青空に久志の世界が広がります。


父の葬式で自分や父が戦犯と揶揄されていたと話す親戚たち、それを聞いて感じた絶望。家族と過ごした福島の実家と故郷の景色。裕一や鉄男との友情。歌の道を教えてくれた藤堂先生。そして、歌手になることをずっと応援してくれた、永眠した父との思い出。


もう一度立ち上がりたい。歌いたい。


その想いを歌にのせて、山崎育三郎は語ります。自分の過去、現在、そして未来へのエールを。

想いを音楽にのせて

言葉では語りつくせない登場人物のたくさんの想い、願い。それが音楽となって私たちの心と共鳴する。


これこそがミュージカルの素晴らしさではないでしょうか。


人間の心の中には、言葉では表現できない想いが広がっている。その文字にはできない想いが、それでも伝えたい想いが音楽となって、私たちの心に染み渡っていく。歌を通して、私たちは登場人物から言葉以上の何かを汲み取り、深く共感する。彼らの心を知り、彼らの人生を疑似体験することができる。そして彼らとともに笑い、涙する。

ああ。だからミュージカルは私たちの心を揺さぶる美しい総合芸術なんだ。。。、。。だから私はミュージカルが大好きなんだ。そう、今日のエールを見て実感しました。


そして、公共の電波に乗せて、ミュージカルの素晴らしさを全国に届けてくれたいっくん。


山崎育三郎だったから、歌で感情を表現する才能に溢れたミュージカル俳優のいっくんだから、久志の心と私たちの心をつなぐ「栄冠は君に輝く」になった。


ミュージカルの良さを広めたい。その想いで今までミュージカルから離れ、テレビや映像という新しいフィールドで戦い続けた。その想いが実ったエール第100話だったと私は感じました。


いっくん、今まで自分のホームではない場所で、信念を忘れず戦い続けてくれて、ミュージカルの良さを伝え続けてくれて、ありがとう。


『エール』
2020年3月〜11月放送のNHK連続テレビ小説。明治〜昭和期の作曲家・古山裕一とその妻で声楽家の音が紡ぐ音楽を、激動の時代とともに描く。2人のモデルは、「船頭可愛や」「長崎の鐘」などを作曲した古関裕而とその妻・金子。主演裕一役は窪田正孝、ヒロイン音役は二階堂ふみ。

(NHK連続テレビ小説『エール』HP)



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