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「ちょっと思い出しただけ」ラスト、タイトルが出るところで、映画が光る感じになるのは好き!

伊藤沙莉、池松壮亮の主演ということで、映画として成立している作品だ。監督、松井大悟は、昨年公開の「くれなずめ」もそうだが、過去にこだわるような映画が好きなようだ。そういう意味では未来が見たいだけの私としては、そういう映画はそれほどそそられる作品ではない。まあ、過去の出来事にけじめをつける的な感じが好きなのだろうが、他人の過去ってどうでもいいと思っているのが私だったりするのですよ。

とはいえ、特に大きな物語も作らずに115分、なんか、大きなドラマも起こらずに、二人の現在と過去の日常を描かれているだけなのだが、色々と、さまざまに、人によってはかなり刺さるところもあったりするのだろうなと考えたりする不思議な映画であった。

ラストにタイトルが出る映画、最近多いが、この映画で最後に「ちょっと思い出しただけ」というタイトルが出た瞬間、「あー、そういうことだったのか」と納得した私がいた。クリープハイプの曲を聴きながらクレジットを見ていて、そうなんだ、映画全体がプロモーションビデオみたいにこの曲に繋がっていることはよくわかった。予告編見てもわかるけど、なかなか素敵な映像がつなげられている。東京の光と影みたいな映画だよね。

2021年の8月から始まったりする。「オリンピックやっちゃいましたね」という伊藤沙莉のタクシーの中での会話。まあ、その言葉が2021年のやるせなさを感じさせたりする。そう、別れた人の誕生日が気になるのは、これもまたやるせない。まあ、若者も、老人も、子供も、今の日本人はみんなやるせないのかもしれないとも思った。

この映画では、その誕生日が思い出の起点ということで、池松への「ハッピーバースデー」が何回も出てくる。まあ、誕生日にあったことが思い出になったりしていることが、私もあるが、所詮、それは月命日みたいなものだよなと、この映画では永瀬正敏が存在しているんだと思う。いろんな恋の形として彼は出てくるのだが、かなりわかりにくい設定。まあ、公園を掃除するおばさんに「邪魔だ」と言われても仕方ない。でも、公園のベンチで誰を待っていたってそれは自由だろというのはわかる。それが、監督の心なのだろうなと思ったりする。

だけど、この映画を見て哲学的なことは語りたくはない。ただ、男と女がいて、男はダンサーで振付師で結構格好いいが売れるまでに至っていない。女はタクシー運転手、その向こうに大きな夢があるわけでもない。そう、よくありそうで、なさそうな二人が、彼の誕生日に付き合うようなって、今は全然違う状態になってるってことが理解できれば、ここに描かれるドラマというが、取り留めのない映像は、ただの思い出ファイルなわけである。それを脳裏にちょっと思い出す2時間。それで勝負する監督なかなか大胆だが、それが松井監督の世界なのだろう。ある意味、カッケー映画だったよ。

というか、池松壮亮と伊藤沙莉の芝居を見ているだけでなんか良い感じの映画に仕上がっているのは日本映画の奥深さであり、ゆるさだったりもする。しかし、伊藤沙莉は本当に女優として興味深くなってきている。浅草みどりのイメージを完全に作ってしまったその声は、彼女の絶対的魅力であり、その折れてしまいそうな小さな身体が、大きな何かを求めて彷徨っている感じは本当に「なんなんでしょうか?」この人に朝ドラの主役とかやってほしいよ!というか、そんなアナーキーな朝ドラが見てみたい。

まあ、2022年の今、存在する、なんか気だるさみたいなものを感じられた映画であったことが面白かった。そんな時代に卑屈にならずにキュートに作ってあるのがいいのだろうね。そう、國村隼までキュートな役やってるんだから…。

「待つ人がいるってことは確かに奇跡だよ」


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