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「ディア・エヴァン・ハンセン」世界中の若者たちが共感するだろう、現代の友情論

ブロードウェイのミュージカルの映画化だが、いわゆる華やかなイメージがある題材ではない。 そう、世界中に蔓延しつつある、鬱や人間不信に悩む若者の物語。こういう話がブロードウェイで上演されること自体、なんか色々考えさせられる。予告編を見た時から、「これミュージカルなの?」と思うところあったが、本編を見てもそんな感じだった。とはいえ、これがミュージカルでなかったら、かなり凡庸な映画になってしまっただろうし、そう、こういう形式にすることでエンターテインメントになっているのだと思えば、さすがアメリカと思うところもある。

電子メールやSNSが話の中で重要な部分として取り上げられているが、舞台上ではやはり、プロジェクターでその画面を舞台に映し出す形なのだろうか?そういう演出部分は少し気になる。

話は、薬を飲みながらなんとか日常生活をし、学校に通っている若者が、やはり友人のいない男からからかわれる感じで会話をするが、次の日、その男が死んでしまう。そして、会話した時に奪われたEメールをアウトプットした紙が亡くなった彼のポケットにあったことから、主人公は彼の友人だと特定されてしまう。そのEメールは、自分を鼓舞するために、自分で自分に宛てたものだった。そして、いつしか嘘が増幅し、彼はヒーローになっていく。

だが、問題のEメールが他社により晒され、ネットで炎上し出す。そして、自分のついた嘘を清算し、自分の未来を見つめるまでの話だ。こういう話は、昔からよくあるし、日本の青春劇にも良くあるタイプの話で、目新しさは感じなかった。そういう意味で、導入部は結構眠気が襲ってきたが、まあ、ミュージカル仕立てということで、なんとか乗り切れる感じ。そして、ちゃんと恋愛話も出てきたりして、その恋も嘘がバレて良くある顛末になる。

そして、ミュージカルな割には、それほど踊ったりするシーンもなく、カメラワークもあまり激しくないので、見ている方はあまり興奮状態にはならない。結局、役者たちの心の表情を見るような映画になってしまっているので、もう一つ目新しく映らないのだ。

ネット内の反応の表現の仕方ももう一つ迫力がない。この辺りは「竜とそばかすの姫」の方が数段すばらしいと思う。そう、こちらの映画もDVの話につながっていたが、考えれば似たようなテーマな気はする。ネット内でもうひとりの自分が勝手にアイデンティティーを持ってしまい混乱するような感じ。でも、両方ともそこに、現代だからこうなるみたいなものは見えてこない。インターネットを介して人が混乱に陥る話はこれからも多く作られるような気がするが、もう一つ「こういう見方もあったのか?」というような驚きを持ったものが見たいと思う。

ある意味、アメリカも日本もその辺では、同じような状況にあるということなのだろう。デジタル社会は国を超えて同時に新しい病を増殖させている。リアルなウィルスよりも、こちらの方が感染力は強いかもしれない。そんなことを考える上で、2021年に提示されたこの映画は、今後、未来になって語られるものになるのかもしれない。とはいえ、もう一つ面白みにかけた話だったとしかいえないが…。


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