「クライ・マッチョ」91歳の監督&主演という神技が、年の功になっている凄み
クリント・イーストウッド。今年の5月31日で92歳である。この映画は昨年91歳の時の作品で監督業50周年記念映画ということだ。キャリアは言うに及ばず、この歳になって監督だけでなく主演もこなすマッチョが彼である。その存在感だけで魅せる凄みはなかなか。途中、馬に乗り振り回されるところは流石にスタントだとは思うが、ちゃんと彼が馬をいなしているように見える。それがスターだ。
(この後ネタバレしますので、観る予定の人はご注意)
ロデオの落馬で馬に乗らなくなり落ちぶれた男が、友人の子供を国境を超えて誘拐しにいく話だ。最初からロードムービーの雰囲気。西部を走っている中で、色々と悪党に追いかけられるところは現代の西部劇だ。そして、メキシコのいかがわしい人々の中から少年を連れ出すところも、お手のもののアウトローものというところ。だが、メキシコで車が壊れ立ち往生。出会った女と恋に落ちるクリント。そして、動物を手名づけて、ドリトル先生になる。そして最後はまた追いかけながらの国境までの旅。そして少年をテキサスに送り、自分は恋する人のところに。このエンディングでこの映画が91歳の彼の恋愛映画であったことがわかる。
まあ、撮りたい映画を撮ったということだろう。ある意味、最後になるかもしれない映画に、どっぷり、さまざまに愛情を注いでいる映画だ。未来を作る孫のような少年に、動物たちに、女たちに、彼の「愛」というものを表現している。この年齢だからこそ撮れるハートフルな世界。私は、たまらなく優しい世界に身を置けたことが嬉しいという感じだった。男は最後に格好良くいたいと思うが、それにはとびきりの「愛」を持ち続けることが大切だ。私は、そんなふうにこの映画のテーマを感じた。
この映画にも、聾唖の小さな女の子が出てくる。そういう人を描くのも、彼の人間愛からなのだろう。そして、彼が愛する人々の顔が皆ステキだ。その分、追いかける、悪い奴らや警官のツラは、ただの無法者。このわかりやすさもこの映画のいいところだろう。そう、ある意味、クリントの遺書的な内容にも読める。
そう、未来というよりも、現在にフォーカスがあることがこの映画の重要なところに感じる。舞台は40年くらい前なのだが…。もちろん、少年には未来がある。この少年と鶏の描き方もなかなか面白かった。テキサスへの憧れもちゃんと感じたし、大人たちへの不信も読み取れる。この少年に、若き日の自分を投影しているところもあるのだろう。
前主演作、「運び屋」でも、老いた自分を思い切り曝け出していたが、この歳で年相応の男の悲哀を演じられるのは本当に格好いいと思う。そして、この映画の彼は、メイクはあるのだろうがなかなか血色が良い。次作はあるのかないのか?わからないが、映画を撮り続ける彼にただただ、乾杯をしたくなる映画だった。
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