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「ステップ」家族は「笑顔工場」である。苦労した笑顔は美しい。

「全裸監督」まで演じる、山田孝之が、これ以上ないような良い人間を演じている。それはそれで、彼の実力を見せ付けるような映画である。そして、全編が優しさで満ちている感じは観賞後に人に力を与える。秦基博の主題歌も映画にぴったりである。

日本の今の風景をしっかりと描いている。ただ、そこにあるのは綺麗事という人もいるのかもしれない。でも、こういう映画は気持ちいい。最近、こういう真っ直ぐな映画をみていなかったせいか、それは新鮮である。

2010年から2020年までの10年の物語。子供が産まれて1歳半で妻が亡くなって、男手一つでそこから、仕事と家事と子育てをしてきた主人公がモノローグで振り返る形で綴られる。リアルな時間の経過と、子供の成長をしっかりと描いてあると思う。実際には、もっと喜怒哀楽があり、苦労した話なのだろうと観客に思わせるところで、結構リアルを感じる。

子役がうまい映画は、それだけでよく見えるし、いい印象を与える。この映画では三人の子役がうまくリレーをつないで10年を描いている。保育園児、小学校一年生、小学校高学年と、それぞれの性格の違いみたいなもの、父親との距離みたいなものは、うまく描けていた。それも、山田の演技がうまく引っ張っていたのかもしれない。

妻の家族が近くにいて、二人を見守っている。みんな、いい人であり、二人の幸せを願っている感じはみていて心地よい。多分、重松清氏の原作もそうなのだろうと思う。人生を斜めからみているような視線が全くない。それが気持ち悪い人もいるのかもしれない。

山田が会社で家族とは何か?という答えに「笑顔工場」という言葉を使う。確かに、家族、家庭とは、人が最もくつろげ、もっと笑顔になる場所として存在するのだと思う。こういうことは、家族に何かがかけている人が気がつくということもある。そう、今の日本の家族は笑顔を作れているだろうか?大きな問いかけにも感じた。

映画の構造として、特に変調はしていない。だから、役者の力と演出の力がまともに映画の力として存在する。こういう正攻法な映画を撮れるということは素晴らしいと思う。そういう点で飯塚健監督には拍手である。

しかし、映画を撮っているときには誰もが考えなかっただろうが、2020年の3月は小学校は休校になり、卒業式もまともにできなかったところ多々あった。この主人公が実際に今年を生きるならまた違う苦労がのしかかってきたであろう。

そして春に雪が降る話があったが、今年は桜が早く咲いて、そこに雪も降った。この映画のために合わせたかのように。そう考えると、今の混乱の中で、「みんな、しっかり家族を大切にして生きていこうね」というメッセージも聞こえてくる。まさに、2020年のこの時期に公開してよかった映画と言ってもいい。それも奇跡的な巡り合わせだ。

ちょっと、このコロナ禍の中で、心が晴れない人たちにみて欲しい映画だ。山田孝之は実にいい顔をして演技している。まだまだ、伸び代のある俳優さんだと思った次第です。


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