「mellowメロウ」恋というものを具現化できる監督、今泉力哉

最後まで、せつない時間が続く。オムニバス的に恋模様が描かれていく。舞台は、花屋、ラーメン屋、美容室、学校、etc. そして、それぞれに恋の告白がテーマ。その映像の間の中に、恋の鼓動が確かに感じられる。こういう感じは監督独特のリズムなのかもしれないが、とても、観客はドキドキする。映画「mellowメロウ」は、最初から最後までとても愛おしい作品であった。

花屋とラーメン屋という、どこの街にでもある空間、でも、花屋は男の子でラーメン屋は女の子、この時点で、性別的な恋を越えていて、とてもフラットな空間がそこにある。だから、女子高生どおしの恋物語も普通に受け入れられる。そして、不思議な不倫話や、ラーメン屋の別れ話なども、そこにいる全ての人が、日本人的な恋に頑張っている姿が秀逸

映画全体に流れる空気が、本当に心地よい。今泉監督の昨年の「愛がなんだ」「アイネクライネナハトムジーク」にも同様の空気が流れていたが、今回はオリジナル脚本ということもあるのか、彼の世界が全開な感じがする。この世の中では、恋愛映画など、湯水のように作り続けられるのだが、こういう感覚のものはなかなかない。監督の思う恋の鼓動が、観客にシンクロしてくる感じだった。

そして、出演者の笑顔や、恋する顔が、たまらなく良い。そういう意味で、アップの映像が実に意味をもってこちらに問いかけてくる。最近は、売れっ子の主演、田中圭も、力を抜いた感じでとても良い顔で花屋さんをやっている。こんな花屋さんがあったら、絶対行ってみたいなと思わせる空間。花屋が恋の交差点的に作られている。とはいえ、モテているのは田中だけなのだが…。

ヒロイン役の岡崎紗絵には、私が恋をしてしまった。モデル出身にしては、とても日常的な美人ができる人である。そして、ラーメンを作っている姿はちょっと心許ないが、そこがこの話のリアリティなのかもしれない。ラストの方の店をたたむシーンで最後のおじいさんとのやりとりがとても良かった。子役の白鳥玉季ちゃんとのやりとりもとても愛らしかった。多分、年代を超えて好かれるタイプのオーラをモテる人だと思う。現在、テレビドラマ「アライブ」でもなかなかの存在感を示している。まだ、幼さが残る部分もあり、一気に表情が、女になっていくのはこれからだろう。もっと、いろいろな方向からみてみたい女優さんである。

映像が、作り手の予想以上に観客を動かすのが、良い映画だとすれば、この映画は傑作である。監督の風貌をみると、なんでこんな空気を作れるのと思うが、今泉監督は多分、映像の中に愛の粉というか、媚薬を知らぬ間に混ぜることができるのだと思う。花屋という舞台をこれだけ有機的に演出できることに、ちょっと嫉妬を覚えた

ラスト、多分、田中は告白に来たのだろうと私は思う。そして岡崎は飛行機を見上げる。少し時間がかかるが、二人の中には恋の種から芽が出たようである。それが、花開く時を観客たちに想像させながら、幕は降りる。

今泉監督、来週からはLGBTの恋模様の映画?「his」が始まる。予告編を見ると、この映画のテーマを別方向から描いているようにも見える。この映画を観たら、みなければいけないということだと思う。

とにかく、監督は自分なりの映画のツボ的なものを掴んでいる気がする。彼の映画、量産しているのに、少し、上映館が少ないと思う。そして、多分客の入りですぐに日に一回上映になったりするのだとは思うのだが、それではもったいない映画である。

人が恋をすれば景気も上がるし、少子化対策もできる。そういう意味で今泉作品は、恋する触媒であり、日本を救う映画なのかもしれないとも思う。

とにかく、映画館を出るときにキュンとするのはいいですよ。


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