彼は天才だと思う
天王洲アイルで降りるのは初めてかもしれない。羽田空港に向かっていく電車に揺られながら、そんなことを思う。確かに空港へ向かうとき不思議な名前の駅だなといつも思っていた気もする。
そんな天王洲アイルなる駅に降り立ち、歩く。目指す先は、バンクシーって誰?展。Twitterでこの情報を最初に見た時から、ずっと気になっていた展覧会。だってあの謎多きバンクシーの絵がみられるなんて。と言っても知っている情報は、ふらりと現れては壁に絵を描いていく存在そしてその正体はわからない人。そのくらいの情報量で臨んだのだけれど、ここまで彼の魅力に引き込まれる時間になるとは。
解説を読みながら、一枚一枚の絵を眺める。基本的に写真撮影OKなのもうれしい。彼の絵のうまさはもちろんのこと、その絵に隠されているメッセージ性や社会風刺がすごい。彼は声を発したり、顔を出さない分残していく絵でここまで伝えたいことを残していっていたとは。先に絵を見て、解説を読み、再び絵を見る。思わずはっと声が出てしまうくらい。
バンクシーの姿は謎に包まれているといわれているけれど、彼の制作風景を写真に収めた展示もあった。写真を撮ったカメラマンが彼の許可を取って撮影したものらしい。もちろん彼は顔を覆うマスクをしていて、表情やもちろん顔もわからない。そしてその時描いていた絵がこれだった。
一見するとミッキーマウスとドナルドが少女と手をつないでいる。写真で見ていた時は、ディズニーが好きなのねなんていうことを思っていたのだけれど、そんなことではなかった。解説をそのまま引用しようと思う。
ベトナム戦争下で撮影された、村を襲ったナパーム攻撃から逃げる少女の姿。ピュリッツアー賞を受賞したこの有名な写真を使い、バンクシーはアメリカの消費文化を攻撃している。ミッキーマウスとロナルド・マクドナルドが少女の手を取り、戦争と死の世界から救い出そうとしているが、向かう先は軍国主義的物質主義という「すばらしき新世界」だ。
思わす二度文章を読んでしまった。そしてもう一度絵を見ると、夢の国で会うと思わず手を振ってしまう彼が、彼の目がどうにも怖く見えてくるのは気のせいだろうか。
バンクシーの絵そして彼の風刺にはっとさせられたのはもちろんのこと、会場全体がイギリスやアメリカの街並みを再現していてすごくよかった。場所が寺田倉庫なる倉庫だったのも雰囲気に一役買っていたのだけれど、なによりもこの展覧会を開催している方々のバンクシーへのリスペクトがいろいろなところで感じられた。
バンクシー、彼は天才だと思う。いやもはや天才の枠では収まらないのかもしれない。
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