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得体の知れぬ洋館の主。

昼間でも薄暗い、しゃがれた木々がざわめく不気味な森。命の気配は乏しいのに、光を必要としない「なにか」は棲んでいそうな、そんな森。

見上げてじっと目を凝らせば、陽の光を覆うそれは木々ではなく無数の鳥であることが伺い知れる。どれくらいいるのか、見当もつかないほどの羽の塊まりが身を寄せ合い、感情の存在など到底あやしい瞳で地上の私をじっと見返してくる。

そんな森の奥には、小さな洋館がある。電波と電気に頼らなければ何もなせないようなこの世の中で、どう暮らしを成立させているのか謎だが確かにそこには1人の女が住んでいる。館を取り囲む森と同じくらい生気のうすい、魔女のような女が。



魔女になりたい。

冗談抜きで、ここ10年くらいわりと本心でそう考えている。実際似たような内容のツイートが少し前にバズったことからも「実は私ね...」と同じことを考えている人間が少なくとも1.8万人はいる事実に勇気を受けて、いま、願望を連ねている。だって書くだけなら、文字という形で垂れ流すくらいならどんな形に転んでも痛くはないから。



たぶん、ずっと私は、フィクションになりたいのだ。

昔から、目の前の世界が嫌いだった。小学校低学年の時にぽろっと「もう嫌だ、こんな生活」と口からこぼれてしまうくらいには。ちなみにその時、家族の誰かからは「じゃあ死ぬしかないね」と冷酷に返された記憶がある。言葉その通りではないが、似たようなニュアンスの言葉だったことは覚えている。やめればいいんじゃない、だったかな。だったとしてもやめる=死ぬじゃんね。

元々家庭内での言語コミュニケーションがたいへん少なく、感情の共有も極端に機能不全であり、何を話しても寄り添われることは無かった。ただ義務として対応されている感覚が強く、精神的には居場所などあって無いようなものだった。(書いてて悲しくなる。トロピカル〜ジュプリキュアのOPを聞きながらじゃなかったらとてもとても書けない)

それだけ現実が嫌いで居心地の悪い場所であれば、一次元低い世界に救いや癒しを求めるのは必然な心の動きで。

私にとって、フィクションは現実から遠ければ遠いほど良い。夢路のようなこちらとあちらの狭間や、飴で物理的に好きな男の子をコーティングして食べる事で行う愛情表現しか知らない女の子の話、喋りだしたぬいぐるみと共に自分を虐待する母親に報復するもの、etc...(なにか良作品があれば教えて欲しい!)

現実との距離が遠ければ遠いほど、私は逃げられた。それが私の手を、首を、胴を、膝を、足を絡め取ってなるべく現実から離していてくれたおかげで、私は生きている。

逃避は本能。そして、傷心を救いあげるもの。

だから私は、フィクションそのものになってしまいたくて、現実から遠い非日常を生み出す生き物に憧れ続けて、自分なりの魔女像を描くようになった。


別にそういう格好をする必要はない。たしかに黒いレースのドレスも色とりどりの薔薇も燭台もゴシックな洋館も大好きだけど、必ずしもそんなイメージ通りの魔女じゃなくていい。誰かのイメージじゃなくて、自分が1番心地良いけど威厳ある見目になりたいとだけは、強くよく思う。

収入源が謎すぎる。日がな優雅に猫を撫でながら過ごしているし、かと思ったらジュラルミンケースを持ったスーツの団体が入ってきて談笑していたりする。彼女は何者なの?

魔法なんて使えなくていい。疲れ切って、瀕死になって訪れたり転がり込んで来た人間を1人でも笑顔にして帰せればそれは立派な魔法だ。

たくさん話を聞きたい。何が好きで、何が嫌いで、どんな場所にいて、普段はこういう事を考えていて、これは悲しくて、あんなことが嬉しかった。あなたを無二の命だと思い出させてくれる場所がここにあると、覚えてもらうために。

緑も本も楽器も、花も画材も香水も入浴剤もベッドも飲み物や食器もお酒も食べ物も揃えて、疲弊したあなたへの最高の夜を創り出す、そういう魔女になりたい。

一生ここに居てはいけない。だけど、3日くらいなら面倒見てあげる。その間に自分のしてきた事、今思っていること、そのすべてに向き合って認めてごらんなさい。

では、良い夜を。




救い続けることは不可能だから、木に止まった一瞬を全力で羽休めさせたいのだ。





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