『下界の神様奮闘記』第3話「天界での神様」
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俺は下界の年齢でいえば18歳で区域担当神になったから、勤続年数はかれこれ30年は超えている。いわばベテランの域に入っているといえるだろう。
そして、国別でいえば日本に所属し、その中でも俺は九州のそこそこ大きい区域を任されている。俺より上の奴や、俺より年下でも、いわゆるエリートと呼ばれる奴などは、日本の中でも重要性の高い首都圏や都内を任されている。
出世欲が全くないといえば嘘になるが、重要性の高い区域を任されるということは責任もそれだけ大きくなるということである。極力責任を取りたくない俺からすれば、比較的のんびりとしている九州はやりやすかった。
俺は業務中はもちろん、業務外でも情に流されにくいと自負している。だから、情を流されてはいけないという特性を持つ区域担当神の仕事は、文字通り天職だと思う。
このまま区域担当神の定年である60歳を迎えることができれば、その後はアドバイザリーとしてそこそこの報酬を得つつ、悠々自適な生活を送ることができるだろう。
ただ、最近は日本と同じく、天界でも高齢化が進んでいるから、定年が伸びるかもしれないが……。
定年を迎えるとアドバイザリーとして天界で余生を過ごす選択肢の他に、自ら下界に降りていって、下界で一人の人間として余生を過ごすという選択肢もある。
そのため、定年後に下界で生活することを望む奴も一定数いる。むしろ、最近では下界を選ぶ奴が増えてきていると聞く。なんでも、区域担当神として下界に関わっているうちに、自分が担当する区域に愛着が湧き、結果としてその下界で暮らしてみたいと考えるようになるんだそうな。定年後に神様を退神し、人間になって下界に降りれば、人間界の生活を体験することができる。
また、その時はもう神様でもなければ区域担当神でもないのだから、情に流されまくっても問題はなくなる。これも、下界へ降りる理由の一つであるとも聞いたことがある。
しかし、よく考えてみてほしい。定年後といったら下界年齢でいえば60歳くらい。急に下界経験の乏しい60歳くらいの元神様が、しかも下界生活経験無しで、いきなり下界の人間社会に馴染むのは限りなく難しいことではないか?
長年ニートだった奴が、いきたりバリバリの接客業である居酒屋でバイトを始めようなものじゃないか?想像するだけでも地獄である。
地獄とは無縁なところが、神様の良い所なのに。
というわけで、俺は定年後も天界に残り、アドバイザリーとして悠々自適な生活を送らせてもらう。下界なんてごめんだ。
なお、定年を迎えて下界に降りる場合もあれば、天界で何か不祥事などを起こしたり、区域担当神の勤務態度が良くなかったり、あるいは性格的に区域担当神に向いていなかったりと、一定の場合には強制的に下界に降ろされることもある。簡単に言うとクビである。
つまり、天界にも下界と同じくクビというものがあるのだ。これには処分の重さによって2つのパターンがある。
まず、不祥事などを起こしたり、区域担当神の勤務態度が良くなかったりした場合などは、懲罰という位置づけになるため処分が重い。具体的には区域担当神はもちろん、神様という身分自体を剥奪され、単なる一人の人間となった上で下界に落とされてしまう。結果として、下界生活経験のない一人の人間のニートとして、下界での生活がスタートしてしまうのだ。これはキツイ。
一方、情に流されてしまうなど、どうしても性格的に神様に向いていない場合などには、性格というのはどうしようもない要素だということで、前者よりも処分が軽くなっている。
そこで、この場合に下界へ落とされる際には、たとえば「元々どこかの家族の一員だった」という設定を作ってもらえるという。つまり、この場合にはどこの家族の一員に設定してもらえたかにもよるが、基本的には前者よりは、下界へ落とされた後でもすんなりと生活していくことが出来る。
下界に落とされる神様は意外と多い。実際に俺も不祥事などを起こして落とされる神様を多く見てきたし、また性格的に向いてないなと思っていた神様が、ある日から突然見かけなくなった時もあった。
そういえばこの間、とある若い女神が何をするにも情に流されてしまい、結果として区域担当神をクビになる前に「自ら下界に降りていった」という話を聞いたな。優しい性格だったのかな?その性格ゆえに、区域担当神には向いていなかったのだろう。
俺は天界で一生を終えたい。まぁ、何もなければ普通にそれは実現するのだが。
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