『下界の神様奮闘記』第5話「新神教育奮闘記」

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「本日から数日間お世話になります、新神の神楽です。よろしくお願いします」

「あ、あぁ……。担当の神山だ。よろしく」

なんでよりによって俺なんだよ……。担当はいくらでもいるだろ……。あれかい? 神手不足かい? 下界でいうところの人手不足かい? いつから天界も神手不足になったのさ……。
 確かに近年は天界でも少子高齢化やサビ残なんかが問題になってきてはいるけど、それでも下界でいうブラックまではいかないだろう。普通に残業代も出るしね。
 今日は業務が終わったらスナック「神ママ」で一杯やろうと思ってたのに、まさか新神教育を任されるとは……。

「研修ではまず、区域担当神業務の基本である、下界観察と雨降らしを教わるようにと言われました」

仕方無い。任されたからには、ここは情けなど一切かけず、厳しく教育してやろうじゃないの。こう見えても昔は「鬼の神山」と恐れられた俺だ。鬼じゃなくて神だけど。

「そうだな。最初は下界観察で下界がどういう世界かを知り、その上で、次にじょうろを使って雨を振らせてみよう。言っておくが、教育にかける時間はそう長く取れない。したがって、短い期間で出来るだけ多くのことを吸収していくように」

お……? なかなか良いのでは? 意外と新神教育いけるんじゃね? 将来は後継神の教育担当も悪くないかも……。

「下界は研修と自己研鑽で学習したのでよく把握しています。また、僕は元々関東地方の区域を担当する予定でしたが、配属希望を九州地方に変えてもらいました。九州地方は初見となるため、特に僕が割り振られたこの区域のことは、天界ネットワークや天界書で徹底的に事前に頭に入れています。じょうろの使い方も実技練習で体に染み込むまで練習してきました。以上から、個人的な意見で恐縮なのですが、次のステップに進んでも良いのかと」

「う、うん……」

きゅ、急に立て板に水のように喋りだしたぞこいつ。あれ? これ完全に向こうのペース? 俺の立場はどこ……?

しかし、一応今は教育担当神と研修神の関係だ。今後も良好な関係を保つべく、ここはいっちょ、円滑なコミュニケーションの構築を図らなければ。

「しかし、こう、あれだね。最近の若い神は、真面目で覚えも早いんだね。俺が若い頃はこう、もっとやんちゃしてたというか、口を開けば若い女神にちょっかい出してたし、教育担当神が見てない所でいかにサボるかなんて、そんなんばっかりだったよ。神楽くんも、まだまだ若いんだし、遊びも覚えていったらどうかな、がははは」

「今の時代、他が休んでる時こそ研鑽のチャンスです。他と同じことをやるのは当たり前で、その上でいかに積み重ねられるかが求められています。僕は絵を描くことが趣味なのですが、空いた時間に絵を描くなどちゃんと合間合間に息抜きもしています。しかし、息抜きも確かに大事ですが、時間は待ってくれません。有限なのです。それに、昔と違って今は天界コンプライアンスも厳しくなっています。女神にちょっかいを出すのは時間の無駄となるだけでなく、セクハラとしても厳しい目で見られるのではないでしょうか」

「う、うん……」

なかなかの長文で、正論をたたきつけられてしまった。

その後の数日間、神楽は凄まじいペースで業務を覚えていった。文字通り「神がかり的」な才能を持った神楽は、神の素質に溢れているのかもしれない。うん。こりゃ、俺はいらんわな。

そして、あっという間に神楽の研修新卒業試験の日を迎える。

「研修神の卒業試験を行う。内容は簡単だ。一日の区域担当神の業務を通しでやってもらう。俺は見てるだけで、基本的にアドバイスや指導は行わない。なにか緊急事態の際だけ横槍を入れるようにする。では、健闘を祈る」

「分かりました。最初に昨日の区域担当神より引き継ぎを受け、そのデータを元に人々の運勢を決めたり、雨の予定ならじょうろで雨を降らす。それから……」

神楽の卒業試験は驚くほどスムーズに進んだ。情に流されるでもなく、淡々と下界の人々を操ったり、天候を変化させたりしている。天罰を下す業務も一件行った。試験と試験の合間には、趣味である絵を描いていた。絵のタッチは……、ちょっと漫画風か。悔しいが……、上手いな。しかしお洒落な趣味だなおい。
 このまま明日の区域担当神に引き継ぎを行えば、無事終了だ。

時間はもうすぐ夕刻というところに差し掛かっていた。教育担当神としての業務はこんなにも楽で暇なのか? いや、神楽が優秀で俺の出る幕がなさすぎるのか。分からないけど、うーん、複雑だな……。

「あ、危ない!」

神楽が唐突に叫んだ。

「どうした?」

「……」

「何があったんだ? あ……」

俺は神の経歴が長い。下界で起きた状況を一瞬で理解した。いや、正しくは下界で「誰かが意図的に起こした」状況というべきか__。



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