『下界の神様奮闘記』第11話「出掛ける神様➁」

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 良い子なのにどこか抜けていて、そして絶妙に空気の読めないお人好しな凪沙ちゃんの提案で、結局遅めのモーニングを取ってから再び繁華街へ向かった。

 入ったファミレスでの気まずさに最後まで気付いていなかったのは凪沙ちゃんだけだった。だいぶ天然なのかな? 


 繁華街に着くや否や、凪沙ちゃんは一人で画材を買いに行くと発言し、その結果、晴人くんたちのカップルになぜか俺が入れられるという構図が作られようとしていた。それを必死で阻止するため、これといった目的は無いからと凪沙ちゃんに着いていく旨を伝えることにより、なんとか地獄の構図が構築されることを免れることが出来た。

 晴人くんと美鈴ちゃんは半ば逃げるように繁華街の中心部と思しき場所へと走って行った。


「本当に私なんかに付いてきてくれるんですか? たぶん面白くないですよ?」


「いいんだ、気にしないでくれ。俺は気晴らしの目的で連れてきてもらってるだけだから。それに、芸術にあまり関心を持たずに生きてきたから、どうせならこの機会に凪沙ちゃんがどういう絵を描くとか、どんな画材を使っているかを知っててもいいかなって」


「そういうことなら私、張り切って案内しちゃいますよ! 私は特定の画風ではなく、それぞれの画風の良い所を集めたハイブリッドな作品を目指しています。だから国や時代、技法や画風問わず色んな画家が好きで、それこそ日本の水墨画で有名な雪舟や動物画で有名な伊藤若冲、海外ではゴッホやゴーギャン、ターナーやルノワールなんかも……」


 うん。やっぱり、よく喋る子だな。要約するとつまり、なにか一つの技法や画風、画家にこだわることなく、色んな要素を上手いこと取り入れた作品を描きたいと。それで色んな人を幸せに、ひいては世界平和を実現させたいと。素敵な目標ではないか。ただ、ちょっとスケールがでかすぎやしないかい? 


 長いこと下界の様子を見てきたこともあって、下界の芸術について基本的なことくらいは分かっているつもりだった。

 しかし、芸術というのはなるほど、聞けば聞くほど奥が深い。深すぎる。芸術に限らず、当時の音楽や科学なんかは、それぞれの時代の特徴を上手く捉えている。

 逆に言えば、当時の作品や科学の発展などを紐解けば、その時代を読み解くことが出来るのだ。そして現代では、なにか一つのことに固執せず、あえて色んなものを取り入れることで「多様性」を含んだ表現が主流になりつつある。これは天界においても大いに参考にすべきではないだろうか? 


 そんなことを考えている間に、凪沙ちゃんは次々と画材を手に取り、気に入ったものをカゴに入れていく。さすが、美大に通っているだけあって、画材には詳しくこだわりもあるようだ。


「よし、これくらいかな。すみません、お待たせしてしまって……」


「いやいや、気にしなくて大丈夫だよ。俺も意外と楽しかったし、勉強になったから」


「少し休憩しましょうか。あっちにスノーマンっていうアイスクリーム屋さんがあるので行きましょう!」


 アイスか。天界でもたまに食べていたが、下界のアイスは初めてだな。なんでも、下界では寒い冬でもアイスを食べるんだとか……。


「スノーマンのアイス、めちゃくちゃ美味しいんですよ! 私のおすすめはスノーマントリプルです!」


 ス、スノーマン? 雪だるま? えーと、どこらへんが雪だるまなんだろう……? 


 店先のショーケースには、まるで宝石のような、様々な色が入り混じったカラフルなアイスが並んでいた。中に毒でも入ってるんじゃないかというくらい真緑のものや真紫のものもあった。体に悪いんじゃないのか……? 


「私はチョコミント、ストロベリーチーズケーキ、フレッシュグリーンティーのトリプルで!」


 ……。なるほど。丸いのが3つコーンの上に縦に乗っかって「雪だるま」なのか。うーん。俺は3つも食べられそうに無いからな。カップに1個だけでもいいか……。


「神山さんはどの組み合わせのトリプルにします!?」


「……。同じやつのトリプルで……」


 ショーケースに宝石のように敷き詰められたアイスのように、これまたキラキラとした瞳でトリプルを勧められては、とてもカップに1個だけなんて言えない。

 俺の手には、コーンに3つのアイスが乗ったカラフルな「雪だるま」が握られている。うん、たしかに美味い。特にこの、ストロベリーチーズケーキ? だったかな? 天界では食べたことのない味だ。チョコにミントを入れるという発想も神がかってるし、グリーンティーもまさに日本の味って感じ。しかし、頭が痛い。頭が痛すぎて目に涙が浮かんでくる。


「神山さん! 泣くほどにこのアイスが気に入ったんですね! なんだか嬉しいので、私のアイスもちょっとあげちゃいます!」


 あろうことか、凪沙ちゃんは器用にスプーンで自分のアイスを乗せてくれた。別に嫌な気がしているわけではない。むしろ、ありがたい経験だ。まだ食べていない部分とはいえ、若い女性がアイスをシェアしてくれているのだから。

しかし、凪沙ちゃん。俺の涙の理由を察してほしかった。


 口の中が凍傷みたいな感覚に陥りながら、なんとかアイスを食べ終えることができた。もう当分食べなくていいかな……。


 それから凪沙ちゃんは、今流行っているファッションブランドのお店に案内してくれた。下界の流行りについて知っておくのも、元とはいえ神様の努めだろう。


「ゴッドウィンというブランドのお店です! 特に若い人を中心に流行っているんですよ〜! 普段着はもちろん、カジュアルスーツやスポーツウェア、靴や鞄まで幅広く手掛けていて、最近では、数量限定のキャップが物凄く人気があるんです」


「さすが、大学生だけあって流行に詳しいんだね。凪沙ちゃんも愛用しているのかい?」


「いえ、私よりも晴人が愛用しています。昔は興味無かったみたいだけど、美鈴ちゃんの影響を受けて好きになったみたいです」


 あの坊主、意外と彼女に影響されやすいタイプなんだな。なんか弱みを一つ握った気分だ。


「あ! 噂をすればあそこに晴人と美鈴ちゃんがいますよ!」


 視線の先に、晴人くんと美鈴ちゃんがいる。何か買おうとしているのか、なにやら二人で話し合っている様子だった。



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