『下界の神様奮闘記』第40話「神様と神様③」

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「それでは、神山くんの話を聞こうか」

「その前に、神村さん。神村さんに聞きたいことがあるのですが……」

「聞きたいこと? いいだろう、何でも聞いてきなさいな」

「以前、神鳴山で会ったとき、神村さんは「私は天界で君に何が起こったのかを知っている」とおっしゃられていました。あれは一体どういうことなのですか?」

「ああ、そのことかい。つまり、なぜ私があの日神山くんに起こった出来事を知っているのか、と言うことだよね?」

「そうです。神村さんと僕はほとんど面識が無かったし、そもそも僕に例の事件が起こった時は、既に退神されてましたよね?」

「そうだね。唯一面識があるとすれば、僕が君を飲みに誘ったときくらいかな? その時は断られちゃったけど」

「そ、その件はどうもすみませんでした……」

「忙しそうだったし、気にしていないから大丈夫だよ。それから、君は特殊な形で下界に落とされているから、きちんとした正規の退神を知らないと思うが、退神してすぐ下界に降りるわけではないんだ。最終の引き継ぎを行ったり、お世話になった神物へ挨拶回りに行ったりとやることは多い。さらに、下界に降りるのも面倒な手続きがたくさんあるのでね」

俺は急に落とされたけどね。

「だからあの日君が下界に落とされた時点では、まだ私は天界にいたんだよ」

「そうだったんですか。しかし、僕と神楽とのやり取りはもちろん、僕が下界に落とされることが決定した上層部とのやり取りには直接関わっていないですよね? 改めてお聞きしますが、なぜあの日起きたこと、つまり神楽とのやり取りの中で起こった例の事件のこと、それが原因で僕が下界に落とされたことを知っているのですか?」

「それはね、神山くん。私が天界の元裁判官だったからだよ」

「元裁判官? 本当ですか!?」

「嘘だと思ったら、天界の裁判所へ行って歴代裁判官の資料を見せてもらうといい。まぁ、天界に戻る糸口さえ見つからない今の君には無理だろうがね。私も元裁判官だ。嘘は付いていないから安心しなさい」

天界の裁判官。俺が元々そうだった区域担当神も、ある種天界の裁判官である。
 しかし、区域担当神である場合と、神村さんの場合では天界の裁判官の意味が異なってくる。

区域担当神は、下界の人間に対し天罰を与えるという意味で天界の裁判官と呼ばれている。
 一方、神村さんの場合は、天界の神様に天罰を与えるという意味で天界の裁判官と呼ばれている。
 つまり、同じ天界の裁判官でも、区域担当神の場合は下界の人々を裁き、神村さんの場合は天界の神々を裁くのである。

「私は天界の裁判官として、女神に痴漢を犯した神から、神を殺めた神まで色んな神を裁いてきた。その職業柄、私は天界にいる神の悪事には常に目を光らせていてね。それがあの日も出たようだ。君が教育を担当した新神の子、神楽くんだったっけか。私がその出来事を噂で聞いたとき、それがどうも神楽くんによってのではないかと感じてね」

「それは、何か根拠があるのですか?」

「いや、残念ながら単なる推測だ。しかし、この推測は長年天界の裁判官をやってきた経験からくる「勘」のようなものでもある。決して軽視は出来ないと思うがね」

「では、僕が今から情報提供すれば、その勘は少しずつ確証に変わっていきますかね?」

「それは分からない。確証に変わるかもしれないし、逆に真実から遠のくかもしれないしね。ただ、やってみる価値はあると個人的には思う。なにより、君にはもうそうすることしか、真相と天界復帰に近付く道は残されていないのだろう?」

「確かに……そうですね。では、僕が下界で集めた情報から、それを元に導いた仮定までの全てをお話します」

「うん。では改めて、話を聞こうか」

俺は神村さんに、自分が持っている情報と考えを全て話す。

この街では野生動物の保護活動が進み、数年前から野良猫を見かけることが無くなったにもかかわらず、凪沙ちゃんが野良猫、今のすき焼きを見つけたこと。

道路に飛び出した猫と、それを見つけた凪沙ちゃんとの間には距離があった上、遊んでる子供から基本的に目を離さない凪沙ちゃんがその瞬間だけ道路の方を振り向いてしまったこと。

タイヤがパンクしたり、ドライバーがハンドルを切ったりしたわけでもないにも拘わらず、トラックが不可解に凪沙ちゃんとすき焼きを避けるように軌道を変えたこと。

これらは全て偶然に起きたものとは考えにくく、「何かしらの力」が働いており、それはおそらく出世欲の強い神楽が俺を追い出すために引き起こしたこと。しかもそれは計画的な行いであったこと。以上のような仮定を導くに至ったこと。

神村さんは黙って、しかし時折頷きながら、俺の話を聞いていた。さすがは元天界の裁判官だ。それを知ってからオーラが違って見える。以前までの食いしん坊おじさんではない。安心感や信頼感がまるで違う。これはまた一歩前進しそうだ。

「なるほどな……」

最後まで話し終えたあと、神村さんはそう呟いた。

「どうでしょうか……? ぜひ、神村さんの見解をお聞きしたいのですが……? 」

「うん、全然分からんな」

「ん? ……はい?」

「全然分からん」

「ぜ、全然分からん?」

「確かに私も神楽くんによって仕組まれていたと考えている。しかし、これら全てが当てはまるとは限らない気もする。確証に至るにはもっと情報が必要かなぁ」

そ、そんな……。苦労して情報を集めたのに。頭が千切れそうなくらい考え抜いて絞り出した仮定なのに。もっと頑張れということが。これ以上何をやればいいんだ……。

「君も知っているとは思うが、下界でも天界でも、裁判というのは被告人がいる。あ、天界では被告神か。この者たちから話を聞いて、それを元に色々と議論を重ねた結果、初めて判決を下す事ができる」

「それは……その通りですね……」

「ということはだよ? 神山くん。より確証に迫るためには、被告神になり得る神楽くんと直接話をすることが必要になってくるよね?」

「それはそうですが、神楽は天界にいるんですよ? 下界にいる僕が神楽と直接話をする手段は無いはずです」

「いや、あるよ」

「……え?」




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