裏路地エスケープ 〜超短篇〜
『裏路地エスケープ』
雨上がりの交差点を右に折れると、大通り沿いとはまた違った風景。
ヒトの陰もクルマの通りも、別世界に入ったように居なくなる。
自分の足音だけが僅かに響いている。
見慣れているとはいえ、不思議な光景だった。
「ん?」
建物の影が途切れたところに、何かがある。
動いている。
最初は何かゴミでも捨てられているのかと思ったが、違う。
「猫か」
誰も来ないのをいいことに、往来の真ん真ん中を、ブラウンの猫が塞いでいた。
寝ているのかと思ったが違うらしく、行儀良く座りつつもこちらをしっかりと窺っている。
警戒を怠らないあたり、この辺で暮らす猫だろう。
そこそこの数が居ることは確認済みだ。
目が合ったような気がして、少し近付いてみる。
一瞬だけ首を上げたが、再び同じ体勢に戻った。
あまり見たことがない顔のヤツだった。
この界隈には不釣り合いというか、いわゆる美猫。
首輪の類いは無いが、一体どこの仔だろうか。
「……あ!」
猫が急に駆け出していく。
そりゃそうか、テリトリーに入りゃそんなもんだよな——。
——なんて、そんな悠長なコトを言ってられなかった。
そっちは車道だ。
クルマの走る音もしている。
マズい!
路地が終わったところで、急なまぶしさに目がくらむ。
そのまま、前も後ろも上も下もわからなくなった。
○
アタマの下が柔らかい。
何だろう。
たとえるなら、「お日様の匂い」とかいうヤツだろうか。
薄らと目を開けてみる————。
「気が付きましたか?」
「……ぅん?」
柔らかい声が聞こえる。
ブラウンのショートヘアを揺らしながら、可愛らしい女性が笑いかけていた。
あとがき
何か素敵な画像はないかと探してそこから文章を考えるシリーズ。
なんだかよくわからないファンタジックな、でも結局ボーイ・ミーツ・ガールな、そんなお話になりました。
味わい深さがありますよね、こういう裏路地というか。
私の住むところの近くには、そういう雰囲気のところはないですね。
あるのはどれもなんとなく寂れた、薄汚れた感じだけ。
趣のようなものは、あまりありませんね。
ということで、御子柴でした。
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