マガジンのカバー画像

作品集

40
ネット物書き・御子柴流歌が書いたモノを集めてみました。
運営しているクリエイター

#物書き

【ショートショート】エイプリルフール【再掲】

本編  わ、私は……。  別に、アンタのことなんて。  何とも思ってないんだから!         ○ 「……これ、めっちゃ恥ずかしいんだけど!」 「いや、ちょっと待て」 「……なによ」 「オレさ、さっき『エイプリルフールなんだし、せっかくだからウソついてみろよ』って言ったよな」 「そうね」 「……今の、ウソなの?」 「…………ウソに決まってるじゃん」 「……そうか」 「照れるな! こっちが恥ずかしい!」 「うるせえ! こっちのセリフだ!!」 後

『プロポーズ』 #140字小説

「その言葉を待っていたの」  彼女は晴れやかな笑みを浮かべて、プロポーズをした俺に向けて続ける。 「コレでようやく、あなたにサヨナラができるのね」 「え」 「『誰か良い人が見つかるといいな』」  まさか。 「貴方にそう言われて逝ったあの娘の気持ち、少しでも理解出来たらいいわね」 #140文字小説 #140字小説 #小説 #即興小説

『珈琲は月の下で』【#短編小説】

貴女と飲むのは、これがいい。 「ふぅ……」  ちょうどお客様の流れも途切れた、カフェスタイルのバー。お昼とされる時間はコーヒー系をメインに、夜とされる時間帯はお酒をメインに提供するスタイルのコーナーだ。  カウンターのやや奥まったところで、鋭く、だけど小さく一息つく。傍からは気づかれない程度に背筋を伸ばしてみれば、関節も何度かぱきぱきと一心地つくような音を立てた。  かれこれ一週間もこうしていれば、朝も昼も夜もよくわからなくなってくるものだ。それはこうしてカウンターの内

買い物は「そのとき自分が、どれだけ満足できたか」にかかってくるものなんだ【#超短篇小説】

ポイントカード・シンドローム 「いやぁ、得したー」 「何が」 「コレ買うと、今ポイント還元2倍だって言うからさ。この前から気になってたし、思い切って買っちゃったんだよね」  袋の中を覗けば、おそらくはメイクアップ用のアイテム。  ちょっとした機械っぽい代物だった。 「またポイントたまってきたしー。今度は何と引き換えようかなぁ」  ほくほく顔で袋の中身を見ているカノジョには、しばらくの間何も言わないでおこう。  さっと検索して、わかってしまった。  カノジョが買

被写体 【#超短篇小説】

『被写体』  ――――今から少し前。  お前を撮らせてくれ、と言われたときの写真が現像できたということで見せてもらった。  わざわざそんなことしなくても液晶越しでもいいのに、と言ったが聞かなかった。  いざ、ちょっと上質な用紙に現像されたものを出されると、すこし恥ずかしさのようなものが湧いてくる。 「我ながら、イイ出来だなぁ」  私が気もそぞろに写真を見つめている傍から、ひょっこりと顔を出すようにして自画自賛した。 「やっぱ、被写体がイイからだな」 「やめてよ。…

すばらしきスパイラル 【超短篇】

『すばらしきスパイラル』  歯磨き粉と洗顔フォームを間違えた朝のこと  ふと、昨日の自分を殺そうと思った  毎日繰り返されるルーティーンめいた日常を  呼吸でもするみたいに壊された気分になった    特別なことがあるわけじゃない  特別なものに会うわけじゃない  ただ不意に横から殴られて、平気でいられるほどに  ニンゲンができちゃいないのだ  だからといって、そんなことが気安く出来るわけもなく  明日も夢から飛び降りる       あとがき 歯磨

亜麻色アルバ 〜短篇〜

『亜麻色アルバ』 流れるプールで漂っているような、心地のよい揺れが身体を包んでいる。  ゆらゆら、ゆらり。  目を閉じていればそのまま深い眠りに落ちていきそうな、ゆりかごのような安心感だ。  ——いや、今もうすでに目を閉じているのだけれど。 「……ん?」  どうやら、朝、らしい。  窓の外は明るい。明らかに明るい。どう考えても、いつもより明るい。  寝ぼけたアタマに鞭を打つようにして、両の目を擦る。何度か瞬きを繰り返して、ようやく焦点が合ってきた。  なるほど

待ち人来たりて、されども 〜短篇〜

『待ち人来たりて、されども』   私はこの風景が好きだった。  私の生きて来た原風景のように思える、この景色が何よりも好きだった。  最近は映画のロケとかに使われたとかで聖地巡礼の人が多くなって来たけれど、それでも時間によっては静けさがやってくる。その時が、何よりも好きだった。  信じたくはなかった。  信じたいはずがなかった。  だから、私は今でもここに居るし、私は今でもあなたを待っていた。  私が大好きなこの場所で。  すっかりモノクロになってしまったこの場所で。  

瑠璃色リップルズ 〜超短篇〜

『瑠璃色リップルズ』  「ソウスケくん」 「ん?」 「この水たまりには、あなたの願望が映し出されるのです」 「……いきなりどうした」  目の前には歩道を埋め尽くすくらいの大きさの水たまりが出来ている。  カスミの唐突かつ突飛な言葉に、ソウスケは呆気に取られる。  この少女は基本的にマジメなタイプだ。  もちろんマジメ一貫ということもなく、軽くふざけあったりはするけれど、こんな風にそこまでどこかに吹っ飛んだようなことを言う娘ではない。  舗装のがたつきが目立つ歩道

夕景ユートピア 〜超短篇〜

『夕景ユートピア』   互いの頬が紅いのは、きっとこの夕陽のせい。   互いの顔が熱いのも、きっとこの夕焼けのせい。   この世界には今、ふたりだけのように思えて。   互いの腕に力を込めた。     あとがき 今日の超短篇は画像を選んでから書くスタイル。  映像からのインスピレーションで書くっていうのも、楽しいモノです。  ところで。  シルエットの男女って、イイですよね。  

あなたがいれば ~好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集~

『あなたがいれば』  夕暮れ時。買い物帰り。 「『君さえいれば何もいらない』、なんて言葉があるけどさ」 「……どしたの急に」  怪訝な顔を隠すことなく見せつけてくる。  そりゃそうか。  TPOを考えろ、って話だ。 「わざわざそんな前置きをするってことは、そうじゃない、とでも?」 「それだけじゃ、なんとなく足りないよなぁ、って」 「へえ……。じゃあ、何があればいいの?」 「『君と、君が幸せであるという事実』? ……綺麗な言い回しが思いつかないけど、『君が幸せ

夜咄ヴァイオレット 〜超短篇〜

夜咄ヴァイオレット すみれ色のワンピースに身を包んだ女性が、反対側のホームで静かにたたずんでいる。  どこを見ているのか、何を見ているのか。  線路二本を隔てた先の彼女の視線なんか、こちらにはわかるはずがない。  そのはずなのに、何故だか知らないが、それが手に取るようにわかってしまう。  ——西に向かって立つ彼女は、来るはずのない明日の夜を思っている。  それは、ただの自己投影なのかもしれないが。  もう考えるのはやめよう。  ニンゲンを、やめよう。  目を閉じて、淀み始める

東雲システマティック 〜超短篇〜

東雲システマティック     東の空からは夜明けの報せ。  春の朝は次第に足早。  時々聞こえる大型トラックのクラクションは、それでもどこか眠気を纏っている。  そんな壊れ気味の時計にしたがって、まだ数少ない街ゆく人はいつも足早。  出始めた太陽に背を向けて、歩く先は駅とかだろうか。  こんな時間にどこへ行くの、ってそれは人それぞれ違うだろうけど。  少し冷えた部屋の中から、何も纏わずにそんな光景を眺めてみた。  ため息をひとつ、東雲に溶かす。  そのあたりに影が落ちた

「あちらのお客様からです」 〜短篇〜

   どもです、御子柴です。  今日は、いつもの短篇集からではないところからお話を持って参りました。   本篇  「あちらのお客様からです」  マスターが、カウンターの端に席を取っているあの娘へとカクテルを渡すのを確認しながら、俺は手元にあるジントニックを啜った。  ときどきこのお店のカウンターで、ひとり楽しそうな笑みを浮かべながらお酒を楽しんでいる女性。  キュートなえくぼと、まぁ、その、あれだ。  ……素敵なバストをお持ちでいらっしゃる方だ。  彼女が、少し