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作品集

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ネット物書き・御子柴流歌が書いたモノを集めてみました。
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#物書きさんと繋がりたい

被写体 【#超短篇小説】

『被写体』  ――――今から少し前。  お前を撮らせてくれ、と言われたときの写真が現像できたということで見せてもらった。  わざわざそんなことしなくても液晶越しでもいいのに、と言ったが聞かなかった。  いざ、ちょっと上質な用紙に現像されたものを出されると、すこし恥ずかしさのようなものが湧いてくる。 「我ながら、イイ出来だなぁ」  私が気もそぞろに写真を見つめている傍から、ひょっこりと顔を出すようにして自画自賛した。 「やっぱ、被写体がイイからだな」 「やめてよ。…

Last Letter, Love Letter 【#短篇小説】

"Last Letter, Love Letter" 「それじゃあね」  そう言って彼女は涙も拭かずに背を向け、少しだけ高いヒールを鳴らしながら駆けていった。  果たして、封筒ひとつを手に持ったまま「うん」と頷いた僕は、彼女の視線に収まっていたのだろうか。きっと、ピントも合っていないだろうし、手ぶれだってひどいはずだ。もう彼女の中には、僕を収めておけるくらいの隙間なんてありやしないのだ。  もう一度だけでも話をしよう——。  そんな考えは、結局甘いのかもしれない。  せ

季語: 遠雷

ま、短歌は季語不要ですけど。     遠雷に おびえながらの テレワーク  狭い机を 黒く染めゆく あとがき オフィス街だとその手の設備がしっかりしてますけど、一般住宅街だとねえ……。  以前自宅近くの落雷の影響でいくつか問題発生したことがあるので、本当にこういうときは戦々恐々です。  ……ただでさえ金欠だし、この前壊れた冷蔵庫とか買い換えたばかりなので、このタイミングでPC壊れられたら、もう。  私、マジで、終わりますw

くちづけ27時 【超短篇】

『くちづけ27時』  夜目覚めの星も絶え果てた  アタマがムダに冴えてくる  月染めの雲が流れる様を見る  思い出すのは  思い出したくないことだらけ  カンナの花に くちづけを  だから言ったんだなんて  結果論なんか持ち出すな  達観したようなこと言えば  誤魔化せるなんて思わないで  イヤだと言っても受け容れて  だからその先にあるはずの  あの夏に往く あとがき 超短篇っていうか、詩っていうか。  なんかよくわかりません。  書いてる本人の意思とは別次元

すばらしきスパイラル 【超短篇】

『すばらしきスパイラル』  歯磨き粉と洗顔フォームを間違えた朝のこと  ふと、昨日の自分を殺そうと思った  毎日繰り返されるルーティーンめいた日常を  呼吸でもするみたいに壊された気分になった    特別なことがあるわけじゃない  特別なものに会うわけじゃない  ただ不意に横から殴られて、平気でいられるほどに  ニンゲンができちゃいないのだ  だからといって、そんなことが気安く出来るわけもなく  明日も夢から飛び降りる       あとがき 歯磨

特効薬 〜 好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集〜

『特効薬』  あなたに会うと、どんなにイヤな思いも  消えて無くなると思ってたけど。  たったひとつだけ、  あなたにも治せないモノがあるみたい。    ――切ない気持ちだけは治してくれないのですね。         あとがき 会えば会っただけ、離れたときに切ないモノです。  密を避けなければいけないご時世ですが、がんばりすぎない程度にがんばりましょうね。

裏路地エスケープ 〜超短篇〜

『裏路地エスケープ』  雨上がりの交差点を右に折れると、大通り沿いとはまた違った風景。  ヒトの陰もクルマの通りも、別世界に入ったように居なくなる。  自分の足音だけが僅かに響いている。  見慣れているとはいえ、不思議な光景だった。 「ん?」  建物の影が途切れたところに、何かがある。  動いている。  最初は何かゴミでも捨てられているのかと思ったが、違う。 「猫か」  誰も来ないのをいいことに、往来の真ん真ん中を、ブラウンの猫が塞いでいた。  寝ている

げんきをだして 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」〜

『げんきをだして』       なんだか、今日はとくにいそがしそうに出ていった。  お勤めはボクの方が遅いので、たいていは見送る役目。  いってらっしゃいの声は届いただろうか。  せめて、できる限り、今夜はゆっくりできるようにしてあげよう。                    ○      もう真夜中。  1日は短い。  小さな足音。  間違いない。  帰ってきた。  いつもやさしいあなたに、今日はちょっとだけサプライズをあげる。  目の

恋の味 ~超短篇~

『恋の味』  この恋は、たとえて言うなら、ショートケーキの上にあるいちごのようなものだ。  真っ赤に染まったいちごは、見る者をひきつける。  可憐な姿に引き寄せられる。  けど、その実態は――さらにクリームの化粧を施していなければ、その酸味をごまかせない。  蛮勇ながらその実に触れて、痛い目を被ったことなんて数知れず。  だけれど、僕は。  そんないちごに恋をしてしまった。      to be continued...?       あとが

亜麻色アルバ 〜短篇〜

『亜麻色アルバ』 流れるプールで漂っているような、心地のよい揺れが身体を包んでいる。  ゆらゆら、ゆらり。  目を閉じていればそのまま深い眠りに落ちていきそうな、ゆりかごのような安心感だ。  ——いや、今もうすでに目を閉じているのだけれど。 「……ん?」  どうやら、朝、らしい。  窓の外は明るい。明らかに明るい。どう考えても、いつもより明るい。  寝ぼけたアタマに鞭を打つようにして、両の目を擦る。何度か瞬きを繰り返して、ようやく焦点が合ってきた。  なるほど

待ち人来たりて、されども 〜短篇〜

『待ち人来たりて、されども』   私はこの風景が好きだった。  私の生きて来た原風景のように思える、この景色が何よりも好きだった。  最近は映画のロケとかに使われたとかで聖地巡礼の人が多くなって来たけれど、それでも時間によっては静けさがやってくる。その時が、何よりも好きだった。  信じたくはなかった。  信じたいはずがなかった。  だから、私は今でもここに居るし、私は今でもあなたを待っていた。  私が大好きなこの場所で。  すっかりモノクロになってしまったこの場所で。