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デヤマン 〜金剛石〜

むかしむかし、江戸の日本橋で、
平賀源内さんが、珍しい石の展示会を行いました。
その石は、デヤマンといって、それはそれは美しく光り輝く青い石で、
見るもの誰をも、虜にしました。

デヤマンは、源内さんがオランダの商人から
3日間の期限つきで借りてきました。
展示会は大盛況。デヤマンの評判は、人から人へと、どんどん広がり、
沢山の人が展示会へつめかけました。

デヤマンを見に来たお客さんの中に、
六角とゆかりという泥棒の夫婦がいました。

二人はデヤマンを見て、すっかり心を奪われてしまい、
なんとかして盗んでやろうと思いました。
けれど、警護が固く、なかなか思うようにはいきません。

「仕方ねえ、今日のところはけえるか」

六角とゆかりは、帰ると見せかけて、大声で叫びました。

「火事だ~! 火事だ~!」

周りは騒然となりました。
皆んな、いの一番に逃げようとしています。

「しめた!」

六角とゆかりは、この時とばかりに、ついにデヤマンを手に入れました。


デヤマンを盗まれた源内さんは、ショックのあまり寝込んでしまいました。

源内さんのもとへ、オランダの商人が駆けつけてきました。

「デヤマンを早く見つけなさい。でないと大変なことになるぞ!」

どういうことなのか、源内さんにはわかりませんでした。

「デヤマンを手にしたものは、必ず不幸になるのだ!」

デヤマンは不幸の石だと、オランダの商人は言いました。
これまでにデヤマンを手にした人たちは、事故にあったり、病気をしたり、
人に騙されて貧乏になったり、大変な目にあっていたのです。

海を越えて、はるばる日本へやってきたデヤマンは、
何百年も前から、人を不幸へと落としめた
恐ろしい石だったのです。

「デヤマンが見つからなければ、私は腹を切らねばなるまい。いや、それだけ
ではすまぬかも知れん」

源内さんは、いてもたってもいられず、すぐにデヤマンを探しに行きました。


源内さんは、浅草で皆に呼びかけました。

「デヤマンを持つと、不幸になるぞ!」

源内さんは、品川で皆に呼びかけました。

「デヤマンを持つと、病気にかかるぞ!」

源内さんは、大森で皆に呼びかけました。

「デヤマンを持つと、貧乏になるぞ!」

けれども、どこへ行っても誰も信じてはくれませんでした。

「石を取り戻すための口実だよ」

皆、口々にそう言いました。

困り果てた源内さんは、渋谷へ行きました。

「デヤマンは悪魔の石だ!」

源内さんは皆へ必死に訴えました。
けれども、誰も源内さんの言葉を聞こうとはしませんでした。

「石を盗まれて頭がおかしくなったんだよ」

人々が源内さんを見て、口々に言いました。

「誰も信じてくれない」

源内さんは悲しくなって、大声で泣きました。
すると、源内さんの周りに人が集まってきました。
その中に、六角とゆかりがいたのです。

二人はデヤマンが不幸の石だと聞いて、驚いていました。

あれから家が火事になって、二人には帰る場所がなかったのです。

「あんた、どうする?」

ゆかりに言われて、六角は迷いました。

「火事はただの偶然かも知れねえ」

源内さんは、泣きながら言いました。

「盗った人をとがめはしない、デヤマンを返してくれ!」

ゆかりは六角をせかしました。

「どうするの?」

源内さんは、さらに言いました。

「デヤマンは人を不幸にする! 一刻も早く捨ててくれ!」

六角がデヤマンを握りしめました。

「嫌だ、絶対に返さねえ、こいつは俺のもんだ」

すると、ゆかりが六角に、優しい声で言いました。

「あんた、あたしはあんたがいれば、石なんかいらないよ」

「ゆかり……」

ゆかりの言葉で、六角は決心しました。
六角はデヤマンを高く放り投げました。
デヤマンはみんなの頭上を越えて、源内さんの手に戻ってきました。

「デヤマンが戻ってきた!」

源内さんは安心して帰って行きました。

六角がゆかりに言いました。
「おいらも、おまえがいればそれでいい」

六角とゆかりは、手をつないで歩いて行きました。


おしまい ..*.✳︎

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ダイヤモンドが日本に渡ってきたのは、江戸時代と言われています。
ダイヤモンドが「でやまん」と聞こえたことから、
当時は、デヤマンと呼んだそうです。
物語の石は、あのタイタニック号を沈めたという説のある、
いわく付きの石です。


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