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台湾カステラのために、親知らずを抜く。


ずっと気になっていた。

話題のスイーツとかにはまず興味を示さないけど、よく行くパン屋さんに他のパンの2倍の陳列スペースを陣取っているあいつが実は気になっていた。

自分の中ではマリトッツォの台頭と同時期くらいで、名前にも「台湾」とついてるから女性ウケしているスイーツのひとつという認識。

いつも綺麗に並んでいたのに、ほんの少し自分の意識を引くだけで、お腹を空かせた僕はトングを伸ばすことはなかった。

値段がちょっと高いし。
ふわふわでお腹にたまらないじゃん。
甘いパンより惣菜パンが食べたいんだよね。
何より、名前が「台湾カステラ」。少し恥ずかしい。


お店に入る前から予選落ちになる理由が多過ぎた。

なのに食べてみたいとはずっと思っていた。

具合の悪い時、食欲のないとき、甘いパンが食べたいとき。そんなシチュエーションは訪れそうになく、どんどん興味が薄れていった。





歯医者さんに昨年から通っている。
虫歯をずっと育てていたが、育児放棄したくなって歯医者さんに引き取ってもらうことにした。

今日は虫歯治療じゃなくって、
虫歯を助長してしまう左下の親知らずの抜歯。
いちど抜歯の経験があるから分かるんだけど、歯をかち割って引っこ抜き、そのうえ歯茎が慣れてくるまでのあいだずっと痛くて結構つらい。

今日の敵は、真横に倒れ、多めの根っこで、神経の近くにしっかり根を張った親知らず。もう無茶苦茶痛くてちょっと悲しくなった。汗もかいた。

麻酔が落ち着き、歯茎が塞がり、痛みが引くのに長いと1ヶ月もかかるんだってさ。

しばらくの流動食生活を覚悟。
お昼ご飯を諦めて本屋で、ぶらぶら。

歯医者の近くにはあのパン屋がある。
ふいに思い出した、ふわふわ。

“台湾カステラなら食べられるじゃん!!”

急に期間限定物になった台湾カステラをはやく食べたいと、はやる気持ち。
術後2時間はご飲食はお控えくださいねと言っていた、綺麗な歯科助手さん。

別に限定物じゃないだろと言い聞かせてショッピングできっかり2時間を潰し(正確には1時間50分くらいでパン屋着)、いざ久しぶりのあのパン屋さんへ。

日本人みたいに綺麗に並んだ黄色い彼らは台湾生まれ。
暖色のライトでより輝きを増している気がするのはきっと、需要と供給がマッチした僕の見る目が変わったから。


これなら食べれる!
いや、これしか食べられない!!

JKの視線も気にならず、我先にとトングが伸びる26歳男。

左頬を抑えて会計を済ませ、キープしていた席へ。


まだ、口の中はズキズキしている。

台湾カステラを、ひとくち。

もう、口の中はフワフワしていた。
次のふたくちにワクワクしている。

咀嚼による痛みがないどころか、
痛みも忘れて口いっぱいに味わえている。

たまには悪くないと思ったし、思っていたよりも美味しかった。
今度は予選突破するかもしれないな。




親知らずを抜いたから、
台湾カステラが食べられた。

ってことは

台湾カステラを食べるために、
親知らずを抜く。

と、考えられると心強い。
悲しくなるくらい痛かったけど、親知らずを抜いたときにしか食べられない台湾カステラが待っていると分かっていたら痛みはあれど悲しみはなかったかもしれない。

ネガティブシチュエーション別に、落ち込んだときにこそ最大限楽しめる楽しみを見つけておいてその時までとっておくと、いざってとき頑張れるかもね。


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