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旅の詩集『Voyage』

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#ショートショート

『月だけが見ていた』

『月だけが見ていた』

「お父さんとお母さん、離婚することになったの。あなたにこれからの事をちゃんと考えてほしい。」

突然の母の言葉に頭が真っ白になった。

「は?勝手に決めてんじゃねーよ!」

思わず家を飛び出したが、盗んだバイクで走り出す度胸はなく、暗い夜の街をひとりでフラフラさまよった。なんとなく買ったイチゴオレがやけに甘ったるい。何時間経っただろう。

スマホが青く灯る。見ると何度も何度も母からの着信。しかたな

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自由こその孤独

自由こその孤独

「彼氏作ったら?寂しくないの?」
なんて言われることもあるけど、そんなのは大きなお世話だ。

独りは自由、独りこそ至高、と思うのは人付き合いが不得手だからだろうか。

それもあるが、がんじがらめの生活から解き放たれた感覚を味わったら、もう戻れないのだと思う。

身体にびっしりついた鱗をそぎ落とし、長かった尾を切って、独りで大きい海に出た時の開放感を忘れることはできない。

そして同時に得た孤独は、

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ショートショート『記憶』

ショートショート『記憶』

仕事を辞めてしばらく旅にでも出ようかな、と考えていた頃の事。

何気なく見ていたテレビには、とある鉄道博物館の映像。大きく映し出されたSLを見た瞬間、なぜか『ここへ行かなければ』という思いに駆られた。

翌日もその思いは膨らむばかり。呼ばれているような気がして、思い切って訪れることにした。

8月の暑い盛り、吹き出す汗を拭いながらたどり着いた博物館は、自然の中にひっそりと建っていた。

引き寄せら

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