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思うこと252

 先日ようやく図書館を訪れ、切望していたボラーニョやコルタサルを獲得した傍ら、移動中に読むための文庫本を探す。図書館の文庫コーナーの書棚が意外にも乏しかったため(書庫にはたくさんあるけれども)、本来読みたいはずの西欧文学はいまいちパッとしなかった。
 そこで、『世界イディッシュ短篇選』(岩波文庫)というものを借りてみた。ユダヤ人が日常言語として用いた「イディッシュ」という言語を使って書かれた小説だそうだ。まだ四本ほどしか読めていないのだが、様々な形で迫害されてきたユダヤの人々に眠る底知れぬエネルギー(単なる憎悪だけではない。信仰や、愛や、何だか様々なもの)が密閉された、ハッピーともアンハッピーともつかぬ、何とも特殊性を感じる文学に思える。
 まさに「下界」とも言えるような混沌の地で時に愚かさにまみれて暮らす我々、無情の結末、しかしその先にある僅かな光。その光をこそ、彼らは信仰と呼ぶのだろうか。こういう時、宗教を持たぬ読者の私はもどかしい。高校時代にドストエフスキーの『罪と罰』を読んだ時も、きっと宗教を胸に抱いていれば、もっとこの物語に寄り添えたのではないか、とつくづく思ったものだ。けれども、ただ読むことにも、読まないよりは数百倍の価値がある。やっぱり図書館に足繁く行くべきだな、と決意を深め。

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