アコンカグア9

僕がラグビー登山家になるまで 13歳 | 家出をした時の話 ②

気づいたら、姫路駅であった。先ほどまで乗っていた電車は姫路までの最終列車であったらしい。駅のホームが閉まるとのことで半強制的に姫路駅の改札を出た。その後、僕は公衆電話にあるタウンページを見て、カプセルホテルを探すことにした。が、やっぱりやめることにした。一日500円のノルマを守らないとこの旅はすぐに金欠に陥ってしまう。今と違ってクレジットカードも、銀行のキャッシュカードも何もなく、手元にある現金しか持ち合わせしていなかった。

無性にお風呂に入りたくなった。夕方に食べたメロンパン以外、何も口にはしていなかったが空腹よりもお風呂の方がはいりたかったのだ。身体を温かい湯船に浸かりたい。無性に普段の生活と同じ事をしたい欲望に駆り立てられた。けど、それもお金がないとの理由でやめることした。

気づいたら午前1時を過ぎていた。町の電灯は消灯しており、近くのコンビニはその日たまたま清掃のため深夜営業してなく、姫路の街並みは薄暗かった。

光を求める蛾のように灯を求めて街中を歩いていた。誰もいないアーケード街にたどり着いたが、誰もいなかった。それまで人がいない街というものを見たことがなかったので、闇に人が吸い込まれたのではないかとの不思議な錯覚を覚えた。アーケードには電灯があったが、随分と暗く、とても頼りなく見えた。

僕は光を求めて、ますます深く街を歩いて行った。その先にあったのが、ライトアップされている姫路城だった。いや、おそらくそれは間違いだ。僕が歩いていた午前2時ごろには姫路城の照明は全部消えていた。時を遡ること2時間半前。電車の窓越しに見えた姫路城はこの世のものとは思えないほどの美しさを放っていた。暗闇の中に真っ白に浮かぶ姫路城。おそらくその時の灯のイメージが僕の脳裏に焼き付き、その美しさを確認したく僕は無意識に姫路城に向かっていたのだと思う。

姫路城の入り口には門があり、予想通り、閉まっていた。本日の歩いている総時間は決して長くはないのだが、僕は疲労困憊だった。ずっと今日は興奮しっぱなしであり、もう歩きたくはなくなった。そのため、入り口からそう遠くない広場で寝ようと寝床を探した。ベンチが3つあって、俺はその真ん中に寝袋をひいて寝た。マットがなく、石材でできていたベンチは固く、背骨が当たって痛くて眠れなかった。おそらく寝付いたの2時半頃。しかし、ずっと目を閉じて寝ようとしてはいたものの、とても眠れる状態ではなかった。いくら疲れているとはいっても、この期に及んで今まで経験したことのない高揚感があった。

目は閉じていながらも、耳だけは冴えていた。隣で人が歩く音。ここから30メートル先で車がスピンする音。冬の風の音。今まで聞いたことがある音なのに、今まで感じたことがない、とてもリアルな音に聞こえ、その音で改めて一人で旅していることを陶酔させた。

この時、母親のことをもう一度も考えた。母親の悲痛な声を思い出しているのだが、どこから湧き出すのか自分でもわからないが感謝の念がこもれてきた。理屈は自分にはわからないが。何度も何度もそう思えた。

結局、寝袋に入ってのは45分ほど。背中が痛くて、眠ることはできないとの判断し、ベンチからはい起きて町を再度徘徊することに決めた。歩いてすぐに長い陸橋があって、そこには近日中に行われるお祭りのポスターがあった。能のお祭りらしい。そこを抜けると、コンビニがあった。改めて自分が腹ペコであることに気づき、そこでまたメロンパンを購入した。おそらくこの時の時刻は3時半。人がいた。先ほどまで誰もいなかったので急に安心した。人間って決して会話はしなくても、人間がいるだけで安心する。僕は本を手に取り、前回号は読んでもいなく続きもわからなかったが当時マガジンで人気であったGTOを読んでいた。

15分ほど、立ち読みをしていたが、メロンパンが食べたくなり、コンビニの外に出ることにした。ベンチを新たに探し、また陸橋に戻ったのだが、先ほど見た能のポスターが急に怖く見えた。能の顔が笑っているのか、怒っているのかよくわからないからだ。少し早歩きになり、駅に向かうこととした。

あてもない状況の中で駅に向かっていた理由は一重に寂しかったからだと思う。今まで夜通して街にいたこともなく、人がいない状況は初めての体験であった。中学の時の僕は他のどの中学生が見たことがないものを今見ているんだとの興奮と今まで経験したこともない孤独とが両方入り混じっていた。駅のシャッターが開くまで近くの石のブロックで待つことにした。こんなにも夜が明けるのが遅く感じる時はなかった。交通安全の鯨の標識が不気味に闇に浮かんでいた。

駅員さんの格好をしてきた人が近づいてきた。僕はその人に何時に駅に開くか聞こうとした。喋りかけようとしたそう思った時、向うの方からしゃべりかけてきた。

「君、何をやっているの?」

駅員さんだと思っていたのは実は警察であった。署まで着いてきて欲しいと半ば強制的に連れていかれた。気づいたら交番にいた。名前を聞かれた。俺は慌てて友人の名前をだした。よく自宅に遊びに行った友人の名だ。こんなところで僕の一世一代のこの旅を終わらしたくないからの思いからだった。

※ 20歳の時にmixi日記で書いたものです



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