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文章の練習

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2019年7月の記事一覧

小豆洗いの再就職

チャラけたホスト崩れのような若者がたむろする駅前の広場。
夢に向かうミュージシャンが弾き語りをしたり、カップルが待ち合わせをしたりして賑わっている。
ぽつんと小さなおじさんが座っている。そのおじさんの傍らには「10分100円いやしのサウンド」と書かれたダンボールが置かれていた。

「ねえおじさん、いやしのサウンドってなにさ」

「聞けばわかるよ」

100円を空き缶に投入したら、おじさんはニコリと

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文豪のペペロンチーノ。

机の上に広がる、真っ白な原稿用紙の海。その傍らで寝息をたてている先生にそっと声をかける。
起こされて機嫌が悪いのか、はたまたこのところ頭を悩ませる「スランプ」という病なのか、由紀子には判別ができなかった。
「由紀子、まただめなんだ」
弱音を吐く先生をそっと抱き寄せ、頭を撫でる。
先生の頭の形はとても美しい。きっと親御さんが、赤子の頃に頭を動かして、大事に育ててくれた証なのだろう。
「こんな時は、ペ

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兄のワイン。

二歳年上の兄は勉強が得意で、なんでも分析するのが好きだ。僕は兄ほど頭も良くないし、兄みたいな可愛い彼女も居ない。
高校を卒業し、飲食店に就職した兄は一つの夢を見つけた。
ソムリエになること。
まだお酒を飲めない兄は成分や性質なんかを事細かく勉強していた。
親の結婚記念日には親好みのワインを選べるほどに。
一年勉強して、あと一年勉強すれば、ソムリエの資格の参加年齢になれる。その日を夢見て猛勉強してい

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猫のヨーコちゃん。

ある日、パパが猫を拾ってきた。
「モモ、この猫はヨーコちゃんだ、仲良くしてやれよー」
ヨーコちゃんは、茶色い毛がくるくるしていて、おめめは切れ長で、全体的にシュッとスリムだった。
家に来たばかりのヨーコちゃんは、家中を荒らし回った。
パパの本棚、台所の戸棚、ママの仏壇。
私はパパの居ない時間をヨーコちゃんと二人で過ごした。
一緒におままごとなんかもしてくれる。
ママがいなくなってから、初めて、家に

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