小豆洗いの再就職

チャラけたホスト崩れのような若者がたむろする駅前の広場。
夢に向かうミュージシャンが弾き語りをしたり、カップルが待ち合わせをしたりして賑わっている。
ぽつんと小さなおじさんが座っている。そのおじさんの傍らには「10分100円いやしのサウンド」と書かれたダンボールが置かれていた。

「ねえおじさん、いやしのサウンドってなにさ」

「聞けばわかるよ」

100円を空き缶に投入したら、おじさんはニコリと笑って椅子を用意した。
椅子に座ると、賑わっていた駅前の喧騒が不思議と消えていた。
おじさんの手には砂金を探すときに使うような木製のザル。
中身は赤色の豆がゴロゴロと入っていた。
ゆっくり傾けるとザラザラと心地よい音が耳にこだまする。

波の音だ。

小豆で波の音を作り上げている。
単にそれだけならいやしとはいえない。
空気が少し冷たく感じる。なにより、周りの音がない。

10分たつと、元の駅前の喧騒が耳に聞こえてきた。
「な、癒されたろう」
トリックはいたって簡単。おじさんは小豆洗いという妖怪らしい。
他の人にまで音が聞こえたら、払わないひとが得をして、払った人が損をするだろう、そんなのダメだよ、とおじさんは凡人には理解できないような力で、椅子に腰掛けた相手だけに聞こえるように音を出すらしい。

小豆洗いという妖怪は、特になにもせず小豆を洗うだけで、就職していた会社が傾いた時に真っ先に首を切られたそうだ。
「妖怪とわかっていて就職させてくれただけありがたいけど、これからどうしたらいいかわからないのさ」

おじさんは研究熱心で、小豆以外にもいろんなものを洗ってみたらしい。どれもきれいに仕上がったという。

知り合いのクリーニング屋に紹介したところ、どんな汚れもみるみる取れると話題になってしまった。

その後のおじさんの仕事先については、あまりよくわからない。
噂によるとYouTuberになって、いろんな汚れの落とし方を紹介したり、サウンドクリエーターとして有名な映画に音を付けたりしているらしい。

おじさんから直接聞いたのは、うまい和菓子屋といい小豆の選び方くらいだ。

まだまだ未熟でありますが、精一杯頑張ります